カメラを買うきっかけは人それぞれですが、カメラを買ったら良い写真を撮ってみたいし、良い写真が撮れたら人に見せたいと思う気持ちは誰でも共通だと思います。本連載では、写真やカメラを楽しむためのちょっとしたアイデアや情報を紹介していきたいと思います。第1回目は「写真展へ行こう!」をテーマにしました。最後には、オススメ写真展も取り上げています(チケットプレゼントもあります!)。

2007年3月11日~6月24日にお台場で開催された「グレゴリー・コルベール作品展」。お台場に建てられたノマディック美術館は移動美術館で、建築家・坂茂氏によって設計された

写真展はどこで見られるのか?

良い作品を見ることは、写真上達へのヒントになります。カメラ雑誌の巻頭には誌上ギャラリーがありますが、写真展へ行って実際の作品を見るのでは、印象はかなり違うものです。写真展は写真家やキュレーター(展示を企画した学芸員)の意図が直接反映されるため、作品が見る人によく伝わります。たとえば、雑誌では本の判型や紙質が限定されてしまいますが、展示作品なら布や和紙にプリントしたり、サイズを大きくしたり小さくしたりと、見せ方の自由度が高いことが挙げられます。

写真の展示にはいろいろあって、例えばデパートのイベント会場、書店、カフェなど、身近なところでも開かれています。それはとてもいいのですが、ちゃんと写真を見たいと思うなら、専用の会場を使った写真展に足を運んでみてください。新しい発見があるはずです。写真展が開かれるのは、大きく分けて「美術館」「メーカー運営ギャラリー」「写真専門ギャラリー」といったところです。

美術館は説明する必要はないでしょう。美術品の収蔵、研究、紹介を行う施設です。日本でも70年代後半から写真の美術的価値が認められ始め、積極的に収蔵する美術館が増えてきました。現在では、写真部門を設ける美術館や企画展で写真を扱う美術館が全国でたくさんあります。ほとんどは有料です。

メーカー運営ギャラリーとは、カメラやフィルムメーカーが運営するギャラリーで、メーカーが企画した写真展や審査に通った作品が展示されます。多くは製品(カメラなど)を展示したショールームを併設していて、同時にカメラも見られるのが特長です。

写真専門ギャラリーは、アマチュアの写真を展示する「レンタルギャラリー」、オリジナルプリント(写真家本人がプリント、または他でプリントしても、自らの作品として承認した写真作品)を中心にアート写真を取り扱う「商業ギャラリー」、写真家個人や少人数の同人で表現を発表する場としての運営する「自主運営ギャラリー」などがあります。

まずは美術館の写真展から始めよう

始めて写真展へ行くのなら、美術館で開催されている写真展がオススメです。美術館を薦める理由はいくつかありますが、いちばんの理由は、すでに高い評価を得た有名な写真家の作品が多いからです。また「写真の見方がわからない」という人でも、作品や歴史的背景の解説が多く用意されていますし、学芸員が解説する「ギャラリートーク」を聞けば写真の見方を学ぶことができます。以下に写真を積極的に扱っている美術館をリストアップしました。

東京都写真美術館
日本で唯一、世界でも有数の総合的な写真・映像を専門とした美術館です。日本における写真と映像文化の充実と発展のため、1995年1月に恵比寿ガ-デンプレイス内に開館しました(第1次開館は90年)。また近年では、アニメやテレビゲームといった映像作品にも力を入れています。写真の専門図書室、ミュージアムショップ、カフェなどを併設し、ワークショップ(講義ではなく、参加者が積極的に参加・体験する講座。参加者同士の相互作用の中で学習や創造する)も盛んに行われています。

恵比寿ガーデンプレイス内にある東京都写真美術館

東京都写真美術館の2階展示室。「世界報道写真展2007」は地下1階で開かれている

国立近代美術館 フィルムセンター
日本で唯一の国立映画機関で、国立近代美術館の映画部門(フィルムライブラリー)として開設されました。展示室と図書室は映像作品を中心に扱っており、A・スティーグリッツ、東松照明、石元泰博をはじめとするコレクションが収蔵されています。

横浜美術館
写真部門をもつ美術館として、1989年に開館。草創期から現代までをたどることのできる体系的な写真コレクションを収蔵。美術図書・雑誌等8万冊以上を所蔵し、580タイトルの映像ライブラリーが鑑賞できます。

JCIIフォトサロン
カメラの歴史を知ることができるカメラ博物館に併設されたギャラリー。写真とカメラの専門図書館JCIIライブラリーは、閲覧のみで貸し出しはしていません。「カメラ毎日」や「アサヒカメラ」のカメラ雑誌が創刊号からそろっています。

川崎市民ミュージアム
日本初の写真部門を持つ美術館として、1988年に開館。ポスター、写真、漫画、映画、ビデオといった複製技術による芸術作品、川崎に関連する考古・歴史・民俗資料および芸術作品などがあります。

東京都現代美術館
1995年、現代美術の普及・振興のため、オープンしました。国際展を始めとする特色ある企画展を開催。アート作品のほかに、漫画、写真、映像、建築など幅広いジャンルを扱っています。

ワタリウム美術館
1990年9月開館。建築家マリオ・ボッタ(スイス)の「建築彫刻」の美術館。コンテンポラリーアートの発展に貢献しているアーティストを積極的に紹介しています。

原美術館
1979年に開館した現代美術館。アート、デザイン、建築、写真、音楽など最先端の文化を幅広く紹介しています。30年代のヨーロッパモダニズム建築を取り入れた建物は、昭和初期の建築資料として希少な存在です。

京都国立近代美術館
コレクションギャラリーは、所蔵の日本画、洋画、版画、彫刻、および陶芸、漆工などの工芸、写真等の中から国内の代表的な作品を中心に展示しています。写真コレクションでは、東松照明、濱岡昇、ユージン・スミスなどがあります。

清里フォトアートミュージアム
清里高原の中にある写真専門美術館。プラチナプリントや若手作家の作品を中心とした作品を収蔵しています。ミュージアムショップやレストラン、宿泊施設も併設しています。

島根県立美術館
写真専門部門を持つ美術館。講演会やワークショップにも力を入れ、コンサートや映画会などのイベントも充実しています。写真コレクションには、杉本博司、ベルナール・フォコン、森山大道、マン・レイなど数多くの作品を収蔵。現在、展示室4にてコレクション展「CHAOS~森山大道コレクション~」を8月27日まで開催しています。学芸員によるギャラリートークが8月26日の15:00から行われます。

製品と作品が同時に見られるメーカー運営ギャラリー

メーカーが運営するギャラリーは、写真家だけでなく審査を通れば個人や同好会で展示スペースを借りて発表することもできます。アマチュア作品とはいえ審査を通った作品なので、学ぶことはたくさんあります。同じ趣味やこころざしを持ったアマチュアの人たちの作品を見ることで、自分の撮影への意欲も高まるかもしれません。また、写真家の写真展では開催作家によるトークショーや写真セミナーを開催することもあります。展示スペースのほかに製品を体験したり、サポートを受けることができるショールルームが併設されています。メーカーの文化事業の一環なので、観覧料金は無料です。以下に主なメーカー系ギャラリーをまとめました。

キヤノンギャラリー
キヤノンが運営するギャラリーで、品川、銀座、梅田、名古屋、仙台、福岡、札幌にあります。品川にある「キヤノンギャラリーS」は、デジタル・銀塩写真からデジタルアート作品まで見ることができ、キヤノンギャラリーの中では最大の規模です。

ニコンサロン
ニコンが運営するギャラリーで、銀座、新宿、大阪にあります。写真家の道を真剣に考える若者の発表の場「juna(ユーナ)21」では、写真家の先生と自分の作品について意見を交換し合える「ポートフォリオレビュー」が開催されています。

オリンパスギャラリー
オリンパスが運営しているギャラリーです。話題の写真家や有名な写真を展示しています。写真展などの展示会場として、貸し出し審査は年2回行われます。

ペンタックスフォーラム
新宿にあるペンタックススクエアは、ショールーム、サービスカウンター、ギャラリーの3つの機能を持つ総合スペースです。ペンタックスフォーラムはギャラリーの名前です。大阪オフィスの写真展スペース「ペンタックス 大阪ミニギャラリー」は、個展やグループ展などに無料で提供されています。

富士フォトサロン
富士フイルムが運営するギャラリーは、東京、大阪、札幌、仙台、名古屋、福岡にあります。1957年に創立された銀座の「富士フォトサロン東京」は7月12日で閉鎖をし、東京ミッドタウン・ウエストにある富士フォトスクエアの「富士フイルムフォトサロン」に引き継がれました。

エプソンイメージングギャラリー エプサイト
エプソンが運営するギャラリー。主に写真家とのコラボレーションから生まれた最先端のインクジェットプリント作品を紹介しています。また、セミナーやトークショーなども積極的に開催。個人の写真作品などを最新のインクジェットプリンタでプリントできるプライベートラボも併設しています。

コニカミノルタプラザ
コニカミノルタはカメラ事業から撤退してしましたが、ギャラリーは現在でも継続しています。独立した3つのギャラリーがあり、展示は年2回の選考会を経て開催されています。

個性的な写真専門ギャラリー

写真専門ギャラリーは、いわゆる「レンタルギャラリー」が圧倒的に多く、写真を美術品として扱う「商業ギャラリー」や、写真の自由な表現を発表する場として機能している「自主運営ギャラリー」は数が限られます。こういった写真専門ギャラリーも無料で作品を見ることができます。展示スペースが小規模だったり人の出入りが少なかったりと、入りづらく感じるかもしれませんが、臆せず入ってください。ギャラリーによって展示される作品のキャラクターが違ってきますが、自分の好みのギャラリーや写真家を探す楽しみが写真専門ギャラリーにはあります。

ツァイト・フォト・サロン
日本で初めての、商業目的として写真を専門に扱うギャラリー。日本のオリジナルプリントギャラリーの草分け。若手の写真家を中心に1カ月周期で企画展を開催しています。

フォト・ギャラリー・インターナショナル
老舗の商業ギャラリー。国内外を問わず優れた写真家を年に約10回のペースで写真展を開催し、展示作品の販売もしています。写真集や技術書などの書籍を扱っているショップも併設しています。

ブリッツ・インターナショナル
オリジナルプリントを中心に、写真集、現代アート、イラストなどを扱っています。芸術品としての写真セミナーも開催しています。

ピクチャー・フォト・スペース
日本国内をはじめ海外の写真アーティスト、荒木経惟、細江英公、ダイアン・アーバス、ジョエル・ピーター・ウィトキンなどの作品を展示販売しています。

ギャラリーDOT
1980年にオリジナルプリントを専門に扱う関西初のギャラリーとしてオープン。「フォトハウス京都」と共催で2005年4月から写真学校「写真ワークショップ京都」を開校し、若手の育成に取り組んでいます。

photographers' gallery
若手写真家が中心になって運営している自主運営ギャラリー。年に20回以上の写真展を開催しています。レクチャーやシンポジウムも盛んに行われています。機関誌「photographers' gallery press」を年1回発行しています。

ガレリアQ
写真にまつわるさまざまな試みを行っている自主運営ギャラリー。写真に限らず、映像作品の上映、平面、立体、パフォーマンスなども発表されます。機関誌「グラフィカ」を発行しています。

プレイスM
大野伸彦、瀬戸正人、中居裕恭、水谷幹治、森山大道の5人が自主運営しているギャラリー。写真ワークショップ「夜の写真学校」、暗室ワークショップ、暗室レンタル等、幅広く一般に開放されています。

ギャラリー・ニエプス
写真家が自らの発表の場として自主的に運営。中藤毅彦を中心とする運営メンバーの展示だけでなく、写真、美術、映像、その他ジャンルを問わず、表現作家のためのギャラリーとしてもスペースを開放しています。

Mole
ギャラリーと出版と書店が一体となった空間がコンセプトの写真専門ギャラリー。「モールユニット」という出版物を年2回発行しています。

Roonee247 photography
写真家であり、写真ディレクターの篠原俊之が運営。ベテランから若手写真家までの作品を展示しています。ワークショップなども積極的に行われます。

Nadar
写真に関わる全ての業務(画廊、撮影、教室、デザイン等)を扱っています。大阪のほかに、渋谷にもスペースがあり、年に数回は注目写真作家の企画展を開催します。写真教室も盛んに行われています。

この夏のオススメ写真展情報

写真を専門的に扱っている美術館やギャラリーでは、展示だけでなく写真家のトークショーやワークショップも積極的に開かれています。写真家本人の写真に対する考え方を聞くと、また違った作品の見方ができたり、写真を撮る姿勢を学んだりすることができます。ワークショップで共通の趣味の人と知り合うことができ、楽しみを共有することもできます。まずは一度、写真展に足を運んでみましょう。

世界報道写真展
報道写真の重要性と報道の自由を世界的規模で広げるために設立された「世界報道写真財団(World Press Photo Foundation)」は、毎年、報道写真を対象にコンテストを開いています。ジャンルは「スポットニュース」「一般ニュース」「ニュースの中の人々」「スポーツ・アクション」など10部門。それぞれに賞が贈られています。現在、この「世界報道写真展」は東京都写真美術館で開催されていますが、順に国内を巡回します。また、東京写真美術館のご厚意によりチケットを5組10名様にプレゼントいたします。詳細はこちらへ。

また、東京都写真美術館以降の巡回会場は以下のとおりです。 大阪会場:ハービスホール 8月14日~8月23日 福岡会場:アクロス福岡 9月25日~10月8日 滋賀会場:立命館大学琵琶湖・草津キャンパス 10月11日~10月21日 京都会場:立命館大学国際平和ミュージアム 10月23日~11月8日 大分会場:立命館アジア太平洋大学 11月14日~11月30日

2006年度世界報道写真大賞。スペンサー・プラット(アメリカ)ゲッティ・イメージズ『破壊された南ベイルートの町を車で通り抜ける若者グループ 8月5日、レバノン』

アンリ・カルティエ=ブレッソン 知られざる全貌
ブレッソンは絵画を学んだ後、1930年代初頭に本格的に写真に取り組み始めます。彼は35mmカメラによるスナップショットの先駆者であり、「決定的瞬間」という言葉を世界に知らしめ、後世の多くの写真家たちに影響を与えました。本展は、ヨーロッパ以外では初めての巡回ですが、日本では東京国立近代美術館で開催されます。なおブレッソンのフィルム(映像)作品も展示され、すべてを見ると1時間以上かかります。時間に余裕を持って出かけるといいでしょう。

『サン=ラザール駅裏、パリ、フランス』1932年 (C)Henri Cartier-Bresson/Magnum Photos

森山大道展 凶区 Erotica
アムステルダム、ケルン、パリ、シドニー、タイ、上海、新宿、大阪……と、世界各国の都市を写しとった作品で構成された展覧会です。本展では、森山大道が2000年以降に訪れた都市のスナップショットを大判のインクジェットプリントに引き伸ばし、展示しています。6月初旬に、朝日新聞社より同名の写真集も刊行されました。

凶区より (C)Daido Moriyama