前回の記事では「バッテリーライフサイクル事業」とBaaSモデルの親和性を紹介したが、今回は「蓄電池システム」におけるBaaSモデルの電池交換ステーションの利活用の可能性を解説する。
蓄電池システムとBaaSモデルの関連性を解説する前に、まずは主な蓄電池の種類や特徴を把握した上で、今後の蓄電池のトレンドを俯瞰してみたい。
従前は、低コストかつ長寿命の特徴を持つ鉛蓄電池が幅広く活用されてきたが、再生エネルギーの大量導入により、瞬時に対応できるような充放電ニーズが急増していることや、車両の電動化によりリチウムイオン蓄電池の価格が下がり、かつ寿命や性能が向上したことで、2012年ごろからリチウムイオン電池のマーケットシェアが徐々に拡大してきた。
下記図のように、コスト、資源や寿命などの観点でリチウムイオン電池は他の蓄電池より劣るが、高密度によるコンパクト性、瞬時の充放電特性および高出力性から、さまざまな市場ニーズとマッチしており、現在では主流の蓄電池となりつつある。
蓄電池システムとは
蓄電池システムは、電気エネルギーを化学エネルギーに変換して貯蔵し、必要に応じて電気を取り出すことができる装置である。
蓄電池システムの用途はさまざまであり、例えば停電時のバックアップ電源として活用することや、系統安定対策に利用されることもある。
一般住宅や、太陽光や風力発電所などの再生エネルギーと共に活用されることもある。先ほど述べたように、グローバルにおける再生エネルギーの大量導入や、蓄電池性能・価格の飛躍的な進化により、蓄電池の活用領域と販売台数が急速に成長している状況だ。
個人消費者によく知られているものに一般住宅で使われている家庭用蓄電池がある。太陽光発電による電力や系統から安い時間帯の電気を貯めておくことで、必要な時に電気供給することができる蓄電池システムであり、停電時でも数時間以上使用可能なため、災害時の非常用電源としての機能も併せ持っている。
家庭用蓄電池の場合、蓄電池用途はさまざまだが、活用特徴を見ると、大きく2つのタイプがある。高出力型(kW)の蓄電池用途と、容量型(kWh)の定置型蓄電池がある。
上記図のように、リチウムイオン電池は高出力型蓄電池として活用されるケースが増えている。電力ピークカット、瞬低補償用UPSや太陽光・風力発電の平準化などに、リチウムイオン電池の高出力性を活用し、瞬時調整を行うことで電力系統への負担低減などを実現している。
一方、データセンターのような大容量の電力が必要となる施設の停電や災害に備えるバックアップ電源には瞬時の電力補充でなく、比較的長時間(数時間~数日)の電力供給が求められ、高出力性を持っているリチウムイオン電池よりも低コスト・長寿命の鉛電池の方が、経済メリットが大きい。
ただ最近では、大型バックアップ電源はVPP(バーチャルパワープラント)での充放電設備として活用されるケースも出てきており、鉛電池からリチウムイオン電池へシフトし始めている状況と考える。
これまで、日本で導入されている蓄電池は、災害時の非常用電源用途や、太陽光発電の自家消費などの用途が多く、言い換えると、収益性を追求しない形で導入が進められてきた。しかし、下記図のように、再生エネルギーの拡大による蓄電池導入や、5G普及がもたらす基地局バックアップ電源用蓄電池の需要ニーズが高まる一方で、蓄電池コストが導入の妨げになっている。
下記図の蓄電池システムのコスト構成を見るとわかるように、電池部分の割合は約6割を占めており、特に今後の蓄電池システム導入においては経済メリットを十分配慮する必要があるため、各領域における蓄電池システム導入の際に大きな課題となっている。
BaaSによる課題解決の可能性
BaaSモデルの電池交換ステーション(蓄電池機能)は、以下3つの課題を解決してくれる。
1.蓄電池の高額な導入コスト削減
BaaSモデルの電池交換ステーションには、一定数量の蓄電池が常備しており、一箇所あたり十数kWh~数十kWhの電池容量を持っている。蓄電池システムを活用するシーンとうまく融合すれば、車載用蓄電池兼蓄電池の双方の機能を果たせるので、蓄電池システム導入による一部の投資が不要となる。
2.再生エネルギーによる系統不安定解消
太陽光や風力のような再生エネルギーは電池交換ステーションとセットで活用することで、再生エネルギーによる瞬時の発電変化を、電池交換ステーションの蓄電池で平準化・系統安定化することが可能となる。特に電動化普及により電池交換ステーションの設置場所が今後拡大することを踏まえると、幅広いエリアでの系統安定化に役に立つと考えられる。
3.再生エネルギーの余剰電力フル活用
再生エネルギーによる余剰電力が発生するケースが多々ある。これは発電量がタイムリーに消化出来なかったり、系統の送配電能力不足で他エリアに運べなかったりすることによるもので、これらの余剰電力を電池交換ステーションの蓄電池に一時貯蔵すれば、地域の「蓄電池バンク」として電気自動車や産業用へ柔軟に活用可能となる。
モビリティの電動化普及により、BaaSモデルの電池交換ステーションはさまざまなエリアで設置されている。蓄電池システムとしての収益性については中国や米国でも模索段階であるが、経済メリットを追求した蓄電池活用の1つの有効なソリューションとして、BaaSと蓄電池システムを融合させたビジネスは検討価値が十分あると考える。
【著者】
胡原浩(こはらひろ)
株式会社クニエ
パートナー、グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主にM&A、会社/事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、イノベーション関連などのプロジェクトを担当。 中華圏を含めグローバルにおけるEV/モビリティ、蓄電池、エネルギーとハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)王延暉(わんいぇんふぇい)
株式会社クニエ
クニエのグローバルストラテジー&ビジネスイノベーショングループに所属。モビリティ分野及び中国市場関連を中心に、クライアントの海外進出支援や新規事業確立の支援等を担当。 特に車載蓄電池分野において、技術開発の実務経験を持ち、新規事業立案から実行支援までのプロジェクト経験がある。 大阪大学大学院卒業