これまで6回にわたり、さまざまな角度からBaaSモデルの現状や可能性について解説してきた。最終回となる今回は、BaaSモデルがグリーン経済に貢献できる部分について見ていく。

高まるグリーン経済の重要性

産業革命までの約100万年の間、大気中の二酸化炭素の濃度は240ppm(parts per million)程度の一定水準を保っていたが、産業革命後から現在までに417ppmまで急上昇し、海面上昇、砂漠化拡大や害虫災害など、気候変動を背景とした具体的事象が出現してきている。

こうした背景からカーボンニュートラルの重要度が増しており、環境問題にとどまらず、グローバルな貿易問題としての注目も集まってきている。

欧米諸国は十数年前から、カーボンニュートラルに関する一連のグリーン政策を推進しており、カーボンクレジットや、カーボンTAXのような既存の国際貿易ルールを変える新しいグローバルスタンダードが徐々に登場している。

隣国の中国はカーボンニュートラル・グリーン経済の実現を、国家戦略の最重要課題として取り組んでおり、今年中国国内で「全国統一炭素排出権取引市場」を設けた。グリーン領域におけるグローバルスタンダード化を狙って、国が最大級の投資(トータルで15兆米ドル強)を行うと言われている。

日本は、自動車、精密機器など、グローバル貿易と関わる大きな産業を多数有しており、グリーン経済については日本政府から民間企業まで誰もが取り組む必要がある最重要テーマである。

グリーン経済の方向性として主に以下3つが考えられる。

1.グリーンでない部分を減らす

2.足りない電力をグリーンで増やす

3.サプライチェーン全体でのグリーン化

まず「グリーンでない部分を減らす」に関して、その領域はかなり幅広いが、グリーン経済に特にインパクトが大きいと言われているのは「モビリティ電動化」、「グリーン材料」と「グリーン農業」である。この3つのうちグリーン経済に対するインパクトは「モビリティ電動化」の割合が最も高く、化石燃料を脱却するモビリティ電動化推進は世界各国が最優先で取り組んでいるテーマだと言える。

一方で、日本のモビリティ電動化は特に壁が高い。理由は、日本が伝統的に自動車産業において世界でトップの地位を築いており、リーダーポジションからチャレンジャーとなる意識改革や利益放棄が誰にとっても難しい判断であるためだ。

筆者は日本におけるモビリティ電動化・グリーン戦略の1つの鍵は地方にあると考えている。この理由は、「2.足りない電力をグリーンで増やす」とも関連する。

これまで日本国内のモビリティ電動化は、民間企業主導で、EVを購入してくれそうな個人消費者がいるより大きな都市から充電インフラに投資してきたが、急速・普通充電器の平均稼働は非常に低い状態のままである。

しかもEVにチャージする電力は一般系統から供給された火力発電をメインとする非グリーン電力であり、「ライフサイクル全体でのグリーン化」の観点でみると本当のグリーン化が実現できていない状況である。

火力発電などの非グリーン発電を減らすことを目的とする「2.足りない電力をグリーンで増やす」取り組みとして、太陽光発電に加えて、今後日本でも実現する洋上風力のような再生エネルギー発電が、日本全国でさらに推進されることだろう。

しかしながら、これらの再生可能エネルギーのほとんどは日本の地方にあるため、地方から都市部に送配電線で再エネ電力を送るのは、送電ロスが発生し、またそもそも送配電線の大きなアップグレードも必要であり、長期間にわたる工事と莫大なコストがかかる。

そうした背景から、国レベルのグリーン戦略の第一歩として、地方で作った再生エネルギーを出来るだけ地方で消化する「地産地消モデル」の確立が重要だ。地方にどの程度の再生エネルギーポテンシャルがあるかは予測できるが、一方地方において地産の電力をどの程度消化できるかは大きな課題である。この課題を解決する1つのソリューションは、BaaSモデルにあると考えている。

BaaSモデルがもたらすグリーン経済への3つの貢献

BaaSモデルを活用することでのグリーン経済への貢献として考えられる点を以下にまとめる。

1.「地消」ニーズの創出

地方にある、バス、タクシー、ゴミ収集車、消防車などのような公的用車、法人用車をBaaSモデルでの電動化にすることで、地方の再生エネルギーを利活用

2.モビリティ電動化への貢献

BaaSモデルによる標準化の促進は、日本の自動車メーカーや電池メーカーなど、日本全体のモビリティ電動化加速に繋がる

3.日本全体の系統システム・送配電への貢献

地方各地に「蓄電池バンク」機能を持つBaaSモデル・電池交換ステーションが分散的に設置されることで、日本の広いエリアで再生エネルギーによる系統システムの安定化に貢献が期待できる

産業発展に有利なグリーン政策の策定や具体性を持った中長期的ロードマップなどは、グリーン経済の実現に向けた第1ステージとして不可欠であり、日本政府や地方自治体、主要プレイヤーによる大規模な先行投資や事業変革も求められている。

これまで計7回の連載において、BaaSモデルがもたらす可能性や、日本でのBaaSモデル実現のシナリオなどを論じてきた。

欧米や中国においても、BaaSモデルはまだ新しい分野であり、伸びしろ・期待感の大きい事業である。

BaaSモデルを実現するためにどうすべきかを考えるのではなく、日本のグリーン経済を実現できる一つの手段としてどうBaaSモデルを活用すべきかをまず考えることが重要だ。

BaaSモデルはあらゆる課題を解決できるものではないが、新たなグリーン経済を総合的に俯瞰して、日本にとってのBaaSモデルの真の価値を見つけたい、そのために筆者も考え続けたいと思う。

【著者】

胡原浩(こはらひろ)
株式会社クニエ
パートナー、グローバルストラテジー&ビジネスイノベーションリーダー。主にM&A、会社/事業戦略、経営企画・改革支援、新規事業戦略、イノベーション関連などのプロジェクトを担当。 中華圏を含めグローバルにおけるEV/モビリティ、蓄電池、エネルギーとハイテク関連の経験豊富。 早稲田大学理工大学院卒業、早稲田大学経営管理研究科(MBA)

王延暉(わんいぇんふぇい)
株式会社クニエ
クニエのグローバルストラテジー&ビジネスイノベーショングループに所属。モビリティ分野及び中国市場関連を中心に、クライアントの海外進出支援や新規事業確立の支援等を担当。 特に車載蓄電池分野において、技術開発の実務経験を持ち、新規事業立案から実行支援までのプロジェクト経験がある。 大阪大学大学院卒業