ソニーグループは2025年12月に、「Sony Technology Exchange Fair(STEF=ステフ)2025」を、東京・品川のソニー本社ビルで開催し、その様子を一部公開している。
STEFは、ソニーが、1973年から実施している社内技術交換会で、2025年の開催で53回目を迎えた。毎年約2万人のソニーグループ社員が参加しており、各事業部門や研究開発部門が開発したテクノロジーを、グループ横断で共有し、社員同士が意見交換することで、新たな価値創造につなげる狙いがある。毎回100テーマほどの技術を公開している。
今回のSTEF 2025では、初めて外部クリエイターを招待。約100テーマのなかから、クリエイション現場への導入や、クリエイターとの協業が想定される実用化に近い19テーマを選定して公開した。公開日となった12月12日は、約790名の外部クリエイターが来場した。
STEF 2025の事務局長を務めるソニーグループ デジタル&テクノロジープラットフォーム技術戦略部門の荒川佳一朗部門長は、「技術部門だけで開発するのではなく、ビジネスにつながる現場に則したアドバイスを組み合わせることで、技術を進化させることができる。ソニーグループでは、エンタテインメントに注力し、事業間のシナジーを通じてありたい姿を描いた長期ビジョン『Creative Entertainment Vision』を掲げており、このビジョンを意識した技術展示会でもある」としたほか、「外部クリエイターの招待は、ひとつのテクノロジーが、領域を超え、クリエイションにつながり、ビジネスが広がることを目指した新たな取り組みとなる。新たな技術を展示し、公開する機会を活用することで、多くの外部クリエイターに、ソニーの技術に触れてもらうことができた。これまでにない成果を期待したい。また、今後はSTEFに限らず、グローバルの各地域で、クリエイターとの交流機会を検討したい」と述べた。
STEF 2025には、ソニーグループの十時裕樹社長CEOも見学に訪れ、約1時間30分をかけて展示内容の説明を受けたという。
一方、クリエイターとして見学したベースドラム テクニカルディレクターの森岡東洋志氏は、「クリエイターを対象に、新たな技術を公開する展示会はあるが、STEF 2025では、まだ使われていないが、すぐに応用できる技術が公開され、それを技術者自らが説明してくれる点が大きく異なる。メリットだけでなく、運用時に想定されるデメリットについても情報交換ができ、それを解決するための議論も行える。当初想定した見学時間を上回って説明を聞くことになった」と述べた。
報道関係者に公開したのは、5つの技術だ。
ひとつめは、「Feel So Music」である。
音楽を、聴くだけでなく、触れる体験へと拡張し、「誰もが楽しめるインクルーシブな音楽体験を実現する」技術と位置づけている。
胸にかけることができるウェアラブル触覚(ハプティクス)デバイスと、空中に触覚を提示する技術を組み合わせることで、ライブ会場にいるような没入感と、音を身体で感じることができる環境を実現している。
ヘッドホンならぬ、「バストホン」と呼ぶ専用デバイスを通じて、胸部に繊細な20Hz以下の低周波振動を伝え、音楽のリズムや情動を「身体で聴く」という体験につなげるのが特徴だ。また、同様に非可聴域の低周波を利用して、風を生み出し、風触覚も可能としている。風を出す際にも、ファンによるノイズがなく、音の厚みを増したリアリティの高い空間を実現できる。同社が提案するクロスモーダル錯覚を利用した新たな提案になる。
ロケーションベースエンタテインメント(LBE)での利用のほか、音楽配信、 XR演出などを通じて、「音を浴びる」という体験を可能にするという。たとえば、ライブ会場でも最前列で体験できる強烈な音の振動を、最後列でも同様に体験できるといった活用も可能だ。
「ウォークマンが音楽を持ち歩くという文化を創造したように、次の時代に音楽を浴びるという体験を実現する」と意気込んでいる。
2つめは、「Sensory Re:Fusion for LBE」だ。
映像や音、振動、風、香りといった技術を組み合わせたLBE向けの提案であり、参加者は、コントローラを使って、没入感が高い体験型エンタテインメントを楽しむことができる。
会場では、「Wonder Wash」と呼ぶ、STEF 2025のために用意したオリジナルの体験型エンタテインメントを体験できた。ホースに見立てたデバイスを持ち、壁や床の汚れを、水を使ってきれいにするというもので、振動によって、水が出た感覚を感じることができたり、木に向かって水を放出すると、その匂いを感じることができたりといった体験が可能だった。
ソニーグループ内の異なる研究部門が持つ技術を、初めて統合したことで実現したデモストレーションであり、「未来のエンタテイメントの姿を描いたもの」と位置づけ、「ソニーグループが持つ様々なIPをリアルなスペースで体験できるようになる」とも述べた。
この体験技術は、映像制作や音楽、ライブパフォーマンス、スポーツ観戦など幅広い分野での利用が可能であり、感情に訴えるプレゼンテーションやコンテンツ制作へと応用できると見ている。
3つめが、空間コンテンツ制作ソリューション「XYN(ジン)」および関連技術の展示だ。
XYNは、すでに提供を開始している技術で、ソニーがこれまで培ってきたイメージングやセンシング、ディスプレイなどの独自技術を活用し、現実空間のオブジェクトや人の動き、背景を正確に捉え、バーチャル空間における3DCGの制作を支援する。ハードウェアとソフトウェア、もクラウドサービスを組み合わせて提供するソリューションであり、リアルとバーチャルの融合を加速させ、映画やアニメ、ゲームなどのエンタテインメント分野や産業分野での利用を想定している。
今回の展示では、提供を開始している「XYN Motion Studio」に加えて、新たに「Motion creation solution」を公開した。人の動きを高い表現度でキャプチャーし、直感的な操作で編集、保管ができるモーション作成ソリューションだ。
また、Spatial capture solutionは、ミラーレス一眼カメラで撮影した現実の物体や空間の写真をもとに、独自のアルゴリズムで高品質な3DCGアセットを生成できる。ここで生成した3DCGは、Spatial editing solutionによって、簡単に編集が可能だ。空間内の物体を認識したり、物体を動かして加工したりといったことができ、たとえば、3DCGとして生成した渋谷のスクランブル交差点の映像に、表現上では邪魔となる電柱などを簡単な操作で削除することができるほか、公園の静止画では、風を吹かせて木々が自然に揺れている様子を表現したり、用意しているアセットから必要な画像を検索し、ベンチを配置したりといったことが可能になる。さらに、XYNで生成した空間コンテンツを編集する際に、4Kパネルを搭載したソニーが開発中のヘッドマウントディスプレイを利用して、直感的なインタラクションで操作ができるデモストレーションも行っていた。
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Spatial capture solutionを活用したキャプチャー。右が独自技術によるもので、正確な再現ができる
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Spatial capture solutionで生成した3DCGアセットの様子。渋谷の街を再現している
4つめが、「4D Capture Technology」である。
シングルカメラとセンシングデバイスにより、写実的な4Dキャプチャー(動きのある3Dモデル撮影)が、手軽に実現できる技術だ。4K解像度、120fpsフレームレートによる、リアルとバーチャルが融合したXRコンテンツの制作が可能になる。
ソニー独自のセンシングデバイスと信号処理アルゴリズムによって、シングルカメラを使用して、被写体の動きと形状を撮影すれば、簡単に4Dキャプチャーができる。従来技術のように複数台のカメラを用意したり、専用のボリュメトリックスタジオで撮影したりといったことは不要になる。また、ユーザー側では、ミュージックビデオのお気に入りのシーンを、 ARやVRの立体映像などを通じて、新しい演出と高い没入感によって、追体験するといったことも可能だ。
デモストレーションでは、ソニーのミラーレス一眼カメラ「α9 III」と、ソニーが開発した60万ポイントを測距できる車載LiDARを搭載した専用装置を組み合わせている。2025年8月に行った大学構内や室内で撮影したミュージックビデオ制作の様子も紹介。プロの番組制作の現場でも対応できる運用性と堅牢性を確認できたという。
最後が、エンタテインメント向け群ロボット「groovots(グルーボツ)」である。
音楽ライブやLBEなどでのステージ上の舞台装置に動きを与えることができる技術だ。様々なサイズのLEDを搭載したロボットが、時間と位置を同期させながら動作し、LEDに投影されたVTuberのキャラクターが、音楽にあわせて踊るといった利用のほか、複数のロボットがアーティストの周りを移動して、ムービングライトと連動しながら、演出をサポートするといった使い方が可能だ。
暗い場所でも正確な移動ができるように、ソニーのイメージング技術やセンシング技術を活用。デモストレーションで使用したロボットでは、底面にカメラを配備し、床面のマーカーなどを認識しながら正確に移動する。ステージの材質や無線の混線、スモークや照明など、過酷な環境でも運用ができるようにしており、演者に近づくための安全性にも配慮しているという。
開発においては、ロボット犬の「aibo」や、ソニーのプロフェッショナル向けドローン「Airpeak」の技術を活用しているという。
2025年12月には、有観客での音楽ライブにおいて実際に使用され、ロボット群がステージ上を動きまわり、バックダンサーのような演出を行ったという。
一方、STEF 2025では、公開された技術以外にも多くのものが展示された。
音楽制作や映画制作に使われる「360 Virtual Mixing Environment」のほか、映像作品向けの高画質化技術、AIによる音源分離技術など、すでに実用化している技術も展示したという。
「すでに発表済みの技術に関しても、ゲームやアニメのほか、様々なジャンルのエンタテイメントコンテンツの制作にも展開できるものである。ソニーグループ以外の企業や、クリエイターにも導入してもらいたい技術である」とし、クリエイターに対する認知度向上という意味からも改めて展示したという。
今回のSTEF 2025で初めて実施した外部クリエイターへの技術公開が、どんな成果につながるのかが楽しみだ。


























