シャープが、IWB(Interactive Whiteboard=電子黒板)市場で攻勢をかける。その切り口となるのが「4K」だ。5月上旬から、3つの画面サイズで、4K対応したタッチディスプレイ「BIG PAD」の新製品を順次投入する。今年度中には4K比率を約7割にまで一気に引き上げる。今後も成長が見込まれるIWB市場において、トップシェアメーカー自らが4Kシフトをリードし、さらなるビジネス拡大に向けてアクセルを踏み込むことになる。

  • 4K対応したタッチディスプレイ「BIG PAD」の新製品

IWB市場で国内をリードするシャープ

シャープのBIG PADは、同社の液晶ディスプレイ技術を生かしたIWB製品で、2011年12月に投入した70V型/60V型タッチディスプレイ製品「PN-L702B」/「PN-L602B」から、BIGPADの名称を採用。2012年1月には、さらに大型化した80V型のBIGPADも投入している。その後も、基本的な機能を備えるスタンダードモデルに加えて、複数台を並べて設置するのに最適化したフルフラットモデル、PCとの接続が容易なワイヤレスモデル、ハドルミーティングなどに適したミドルサイズモデル、高精細表示を特徴としたフラッグシップ4Kモデルとラインアップを拡大。さらに、教育分野向けの機能を搭載したBIG PAD Campusも製品化するなど、様々なニーズにあわせた製品提案を行ってきた。

  • 左が4Kで右がフルHDの画面

現在、国内IWB市場において、シャープは約6割のシェアを獲得。この分野をリードしている。

市場規模はまだ小さいとされるIWB市場に、シャープがことさら力を注ぐのは、これを成長領域と捉えているからだ。実際にIWB市場は、年々出荷台数が拡大している。

国内のIWB市場は、2018年の出荷台数が1万6,307台だったものが、2019年には1万9,110台と17%増の成長率を見込む。さらに、2022年には3万5,849台の出荷が想定され、年平均成長率は21.8%増と、高成長の予想だ。働き方改革の推進や、教育分野における電子黒板の導入促進といった世の中の流れも、これを後押ししている。

こうした成長は、世界的に見ても同様だ。

グローバルに見た2018年の実績は、155万9,000台と前年比34.5%増という高い成長を記録した。2022年度には197万7,000台の出荷が見込まれている。

なかでも、注目を集めているのが4Kモデルの出荷比率の上昇だ。

顕著な「4K」化の波をつかむために

全世界で2016年に9.5%だった4K比率は、2017年には21.1%に急拡大した。2018年には37.5%と、3台に1台以上にまで広がった。この背景には、IWBの最大市場である中国において、4K化の波が一気に進展していることがあげられる。

この4K化の波が日本に訪れているとは言い難いが、この流れを日本でも仕掛けようとしているのがシャープだ。

2018年における国内IWB市場の4K比率は9.9%。シャープはこれを2020年には約半分に引き上げようとしている。BIGPADの販売台数でいえば、約7割を4Kモデルにするという意欲的な計画だ。

シャープが今回発売した新製品は、高精細4K液晶パネルを搭載し、微細な文字や図表、設計図面を鮮明に表示することができるほか、最大4台までのパソコン画面をマルチ表示することが可能だ。4台接続時であっても、それぞれの画面をフルHDで表示できる。

また、パネルにはInGlass方式のタッチパネルを採用。タッチポイントを検出する赤外線が、液晶パネルに近接した位置を走査する「低ホバー設計」としているため、衣服の袖などに対する不要な反応などがなくなり、誤動作が減るほか、この仕組みにより本体のベゼル厚が抑えられ、スタイリッシュな外観を実現することにもつながっている。

シャープ ビジネスソリシューション事業本部 ビジュアルソリューション事業部 商品企画部の村松佳浩部長は、「赤外線遮断方式を採用している従来製品では、文字を書こうとして近くまでペンを寄せるとその段階で反応してしまい。書きたいと思う場所に文字を書き込めないという課題があった。InGlass方式によって1mm以下の近接状態で文字が書けるため、狙った場所にしっかりと文字が書ける」と説明する。

  • シャープ ビジネスソリシューション事業本部 ビジュアルソリューション事業部 商品企画部の村松佳浩部長

より細い文字を書けることから、同梱のタッチペンは、両端にそれぞれ太さ2mmと4mmの2種類のペン先を備え、1本のペンで細字と太字を簡単に書き分けられるものになった。

  • 細字と太字をかき分けられるタッチペン。3角形の形状は「転がりにくい」という利点がある

さらに、本体の内部部品の発熱に対して放熱構造に工夫を施したことで、通常の横置き設置に加えて、縦置き設置や斜め設置が可能になった。これにより、タッチ機能を活かした大画面サイネージとしての利用のほか、デザイン画や設計図のレビューといった用途にも活用できるようになった。

また、今回の製品の特徴のひとつが、コントローラーを内蔵し、ホワイトボード機能やモバイル機器とのワイヤレス接続機能といった、ミーティングで役立つ機能を標準装備したことだ。

たとえば、ホワイトボード機能は、必要な時にさっと立ち上げ、すぐに書き込め、簡単に書き込んだ内容を保存できるものだ。あわせてミラーキャスト機能により、パソコンやタブレット端末などのモバイル機器をワイヤレスで接続できる。面倒な配線の手間がなく、画面にパソコンなどの内容を表示できるため勝手が良い。

  • ミラーキャスト機能を利用して、PCの資料を直接表示できる

そのほか、同社が社内でも活用しているクラウド型テレビ会議システム「TeleOffice」と組み合せることで、遠隔地と資料を共有しながらの会議が容易となった。スマートフォンやタブレットと接続して、外出先や在宅勤務の社員とのコミュニケーションも可能だ。

特別だった4K、新製品で一気にスタンダードへ

今回の新製品は85V型の「PN-L851H」、75V型の「PN-L751H」、65V型の「PN-L651H」の3機種をラインアップしており、5月上旬から順次発売する。まずは国内だが、欧米、中国、アジアにも展開していくことになるという。

4K化の促進という狙いを持つことから、機能の大幅な向上を遂げながら、価格も戦略的な設定を行っている。市場想定価格は、85V型が130万円前後、75V型が68万円前後、65V型が50万円弱だ。

これは、主力となる75V型を例に取ると、現在市場にある70V型のフルHDのスタンダードモデルとほぼ同等の価格設定。つまり、4K化を図りながら、画面サイズを5インチ拡大し、さらにコントローラーも内蔵し、それでいて、価格は同じという、まさに戦略的な価格設定となっているのだ。

新製品によって、BIGPADの製品ラインアップ全体にも変化が起こる。

BIGPADは従来も静電容量型の4Kモデルを用意していたが、これを4Kハイエンドとして位置付け直す一方、これまでのフルHDのスタンダードモデル、ワイヤレスモデル、フルフラット画面モデルは今回の新製品へと統合。これを4Kスタンダードモデルとして展開する。BIGPAD全体をフルHDから4Kへと完全にシフトするという宣言だ。

そして、同社は明言していないが、今後は当然、教育分野向けモデルも4K化が進む。2020年までに教育分野へのIWBの導入が加速する情勢は、4K化を後押ししそうだ。

市場をリードしているシャープ自らが、販売台数の7割を4Kで占める意欲的な販売戦略で4K化へシフトするという構図だ。

「IWB市場においても、シャープが4Kの世界に一歩先に踏み出すことで、ビジネスを優位に進めたり、プロモーションでも先進性を発揮できたりする。また、今回の機能強化によって、コントローラーを内蔵したり、独自のIWBランチャーによって4Kコンテンツを利用しやすい環境を整えたりしており、この点でも他社をリードできる。BIGPADにより、4Kを取り巻くエコシステムも構築していきたい」(シャープ・村松部長)と意気込む。

さらに、これまでBIGPADは、サイネージとしての提案はあまり行ってこなかったが、外国人観光客の増加や2020年の東京オリンピック/パラリンピックの開催に向けて、サイネージ需要が拡大しており、タッチ機能を搭載したBIGPADをサイネージ向けに提案する動きも加速する。4K化と価格競争力、豊富なソリューションによって、サイネージ用途をBIGPADの新たな主要ターゲットとして展開していくことになる。

シャープは4K化の”次”に着手している?

実は、シャープのIWB市場の仕掛けはこれだけではない。この分野において、さらに2つの隠し玉がある。

1つは、シャープが得意とする「8K」だ。

シャープは、4月9日から11日の3日間、東京・芝浦のシャープ東京ビルで、新技術および製品の展示会を行なっていた。もともとは社内向けのイベントだが、来日していた鴻海精密工業の郭台銘会長や、広東省の馬興瑞省長をはじめとする広東省の高官なども見学に訪れた。さらに、シャープの戴正呉会長兼社長の提案で、この内容は、一部報道関係者にも公開された。

その会場に展示されていたのが、8Kタッチパネルを応用した新製品だ。

約3318万画素の超高精細技術によりリアルな映像を表示する8Kタッチパネルに、8Kコンテンツビューワーを接続することによって、クラウドを通じて8Kコンテンツを配信する仕組みとなっている。この8K配信の実現には、クラウド型テレビ会議システム「TeleOffice」の基本技術を活用しているという。

これは、まずは美術作品などを鑑賞する用途を想定している。絵画などをタッチ操作によって自由に拡大して鑑賞できる。コンテンツの内部データには、60K相当の高解像度データを使用しているため、拡大しても画質を損なうことなく、鮮明に見ることができ、実際の絵画では見えにくい細かい部分まで拡大して表示することができる。絵画に込められた作者の意図などもより理解しやすくなるだろうとしていた。

この8K化は、BIGPADの次の進化として期待できる技術だ。

  • 新技術および製品の展示会に参考展示された8Kタッチパネル。展示ではピーテル・ブリューゲルによる「バベルの塔」を8Kで表示

  • タッチしながら拡大すると細かい部分まで鮮明に見ることができる

もう1つは、マイクロソフトが提案している「Windows Collaboration Display」に対応した製品の開発だ。これは、昨年6月に台北で開催されたCOMPUTEX 2018でマイクロソフトが発表したもので、今年の1月には米ラスベガスで開催されたCES 2019において、シャープブースにさっそくWindows Collaboration Display対応製品が参考展示された。

Microsoft 365との連携を最適化しているほか、カメラやセンサーを活用して、会議室の人の動きや温度、湿度、照明などの状況を感知して、会議環境を適切にコントロールできるようにしている。例えば会議室に人がいないことや、新しく入ってきた人を認識し、それによって、会議室の予約をキャンセルしたり、会議に必要な情報を提供したりする。

  • CES 2019のシャープブースに参考展示されたWindows Collaboration Display対応の製品

参考展示されていた製品の発売時期は未定であり、これがBIGPAD(海外ではAQUOS BORAD)の名称で発売されるかどうかもわからないが、実はBIGPADと同じチームが手掛ける製品に位置づけられており、シャープのIWBの新たな提案のひとつになるのは間違いない。

シャープはIWB市場を成長市場として明確にし、積極的に手札を広げることで、この分野のリーディングカンパニーとしての存在感をさらに強化する考えだ。その始まりの一手が今回の「4Kスタンダードモデル」の投入ということになる。