2023 F1日本グランプリが、2023年9月22日~24日に、鈴鹿サーキットで開催される。

昨年の覇者であるオラクル・レッドブル・レーシングは、今年に入ってから、昨年以上に高い水準でレースを展開。イタリアグランプリまでの15回のレースは、オラクル・レッドブル・レーシングに所属するマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスの2人のドライバーが、すべてのレースで優勝を分け合っている。この圧倒的ともいえる強さを下支えしているのが、オラクルのクラウドサービス「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」だ。オラクル・レッドブル・レーシング レース戦略責任者(Head of Race Strategy)のウィル・コートネイ(Will Courtenay)氏に、レース戦略の観点から、OCIがもたらす影響について聞いた。

  • デジタルとF1の蜜月、レッドブル・レーシングとオラクルは鈴鹿にどう挑む?

    昨年の覇者であるオラクル・レッドブル・レーシング。今年はさらに圧倒的な強さを見せている

レッドブル・レーシングがオラクルと手を組んだのは、2021年シーズンからであり、今年が3年目だ。

オラクル・レッドブル・レーシング レース戦略責任者のウィル・コートネイ氏は、「決勝に向けたレース戦略を練り、ピットストップのタイミングを決めたり、どのタイヤで走行するかを選択したり、セーフティカーが入ったときにはどう対応するかといったことを立案している。また、予選においては、どのタイミングで周回するのかといったことも推しはかっている。これが私の仕事である」とし、「これらのレース戦略の意思決定において、OCIを活用している。レース前には、モンテカルロ・シミュレーションを用いて、仮想レースの環境を作り上げ、タイヤの特性、ペースカーの影響、ピットストップのロスなどを組み合わせながら、大量のシミュレーションを繰り返す」という。

  • オラクル・レッドブル・レーシング レース戦略責任者(Head of Race Strategy)のウィル・コートネイ(Will Courtenay)氏

OCI上で行われるシミュレーションは、約40億回に達し、仮想レースはランダムに設定され、そこから戦略を構築していくという作業を行う。仮想レースは、レースの前週末から実施されるが、直前まで様々なデータを加えながら環境をアップデートし、レース当日には、ライブ環境において、リアルタイムでシミュレーションを行えるようにしているという。

こうしたシミュレーションの成果として、2023年7月に行われたオーストリアGPでの出来事をあげる。

オラクル・レッドブル・レーシングのホームサーキットであるレッドブルリンクで開催された同レースでは、最初にピットインするタイミングで、1台のマシンで停止。バーチャルセーフティカー(VSC)が入ることになった。VSCは、セーフティカーを入れるほどの危険な状態ではないが、安全を確保する必要がある際に運用されるものだ。

VSCによって、レース展開が難しくなるなか、迫られたのがピットするタイミングだ。ピットストップしてタイヤを交換するのか、タイヤをステイするのかという難しい判断が求められた。このとき、多くのチームがピットストップすることを決断したが、オラクル・レッドブル・レーシングは、このタイミングではステイを選択。その結果、レースを優位に展開し、優勝はフェルスタッペンが獲得。ペレスは15位からスタートしたものの、この判断が功を奏して巻き返しを図り、3位に入賞した。

  • ピットタイミングが勝敗を分けたオーストリアGP。レッドブルの適切な判断に貢献したのがOCIによるライブシミュレーションだったそう

「オーストリアGPのレース前半でVSCが導入された際に、適切な判断が行えたのも、OCIによるライブシミュレーションの貢献が背景にある。常に、リアルタイムのシミュレーションを行えることは、我々にとって、強い力となっている。より多くの情報を入手でき、重要な意思決定を迅速に行える」と述べた。

2023年シーズンにおけるレギュレーション変更のなかでは、スプリントの開催が年6回に増加している点が大きなものとなっている

スプリントは、決勝レースの前日に開催される100kmの短距離レースで、順位によってドライバーにポイントが付与される。開催回数は、前年から倍増しており、決勝レースとは異なるレース戦略が求められる。

「2023年シーズンでは、スプリントによるシミュレーションを新たに開始している。これが2022年シーズンとの大きな違いである」とし、「それにあわせて、OCIのリソースを増やしたり、減らしたりしながら、活用している。これは重要なポイントのひとつであり、コストにも直結する」と述べ、「スプリントに対するシミュレーションモデルは、レッドブル・レーシングで、自らコードから書き上げ、わずか1年間で、内製で開発した。現場に設置しているクラスタで稼働させていたが、このリソースは、レッドブル・レーシングだけでなく、ビークル・ダイナミクスも活用するため、リソースが足りなくなり、計算能力には限界があった。だが、クラウド上で動作させることで、シミュレーションの速度が25%速くなり、迅速な意思決定ができるようになった。また、クラウドによって浮いたコストは、開発にまわすことができるというメリットもある」とする。

オラクル・レッドブル・レーシングによるOCIの積極的な活用を見てもわかるように、F1チームにとって、多くのコンピューティングリソースを活用したシミュレーションは、いまや必要不可欠な取り組みとなっている。

「精度の違いはあるが、どのF1チームも、なんらかの形でシミュレーションを行っている。我々は先進的な事例のひとつであるが、その手を止めてしまうと、他のチームがすぐにキャッチアップすることになる。他チームよりも先に進むことが大切であり、手を止めることで競争力を失ってはいけない。シミュレーションで行えることは、まだ半分程度だと思っている。細かな部分は人でないと読み取れなかったり、理解できなかったりするところがある。また、シミュレーションの結果をどう解釈するのかといったといった部分も人の力によるところが多い。人の役割はまだまだある」とする。

  • ドライバーのセルジオ・ペレス氏(右)とウィル氏。コンピューティングリソースを活用したシミュレーションは、もはや必要不可欠。さらに進化の余地は大きいようで、チーム間の競争は激しい。シミュレーションの結果をどう解釈するのかといったといった部分は、まだ人の力によるところが多いとも

だが、その一方で、「シミュレーションの精度はますます上がっていくだろうし、上げていかなくてはならない。その結果、これまで以上に、様々なシナリオが想定できるようになる。これができるのも、柔軟に拡張できる環境をOCIが備えているからだ」とする。

さらに、AIの活用についても言及する。

「F1の世界においてもAIは大きな影響を及ぼし始めている。オラクル・レッドブル・レーシングでも、この力をどう活用するのかといったことを常々検討している。シミュレーションの精度を高めるためにAIをどう活用できるのか、得られたデータをいかにAIに利用するのか、AIの精度を高めるために、データの精度をどう高めていくかといったことを検討しているところだ」と語る。

その上で、「すでに機械学習を活用した予測を行っている。クルマに搭載したセンサーから得られたデータ、様々なサーキットから集められた大量のデータを、機械学習モデルにかけて、タイヤのパフォーマンスの予測に活用している」という。

今後、F1レースとAIの関係は深まっていくことになるだろう。

  • ウィル氏は「F1の世界においてもAIは大きな影響を及ぼし始めている」と話す

日本GPは、9月22日~24日に、鈴鹿サーキットで開催される。9月17日にシンガポールGPが終わると、チームは、すぐに日本に移動することになる。

「鈴鹿サーキットは、コーナーが多く、路面がラフであるため、タイヤに対する条件が厳しい。また、ピットへのツーストップ戦略が求められるため、非常に難しいコースとなっている。どのタイヤを選択するのかが重要な要素となっており、事前のシミュレーションを繰り返しながら、最適化を行うだけでなく、レース中もタイヤの状況をセンサーで読み取りながら、シミュレーションを行い、適宜判断をしていくことになる」とする。

また、2022年の日本GPは、決勝当日が大雨のなかでのレースになったことを振り返りながら、「鈴鹿の天候も判断を難しくしている。このデータも加えることで、シミュレーションの精度を高め、タイヤの選択につなげていく」と語る。

今年の日本GPで、オラクル・レッドブル・レーシングはどんな走りを見せるのか。OCIが下支えすることで実現する綿密なシミュレーションが、勝利に向けた走りに直結する。