三菱電機は、専務執行役の漆間啓氏が代表執行役社長に就任するトップ人事を発表した。

同社では、2021年6月30日および7月2日に公表した鉄道車両用空調装置などの品質問題のほか、労務問題や不正アクセスによる情報流出問題など、同社グループにおける一連の問題を踏まえて、杉山武史社長が責任を取るとして、7月2日に突然の社長辞任を発表。7月28日に開催された臨時取締役会において、それが受理され、後任の社長に漆間氏を選出した。杉山氏は、業務執行に関わらない特別顧問に就任する。また、会長の柵山正樹氏は留まるが、すでに発表しているように、今年9月まで経団連副会長活動を自粛する。

  • 三菱電機の新社長が会見、一連の不祥事に「創立以来の危機、企業風土改革に全力」

    三菱電機 代表執行役 執行役社長兼CEOの漆間啓氏

信頼回復には企業風土の刷新が必要

2021年7月28日午後4時から、同社本社で行われた会見で、漆間新社長は、冒頭に、「一連の品質に関わる不適切行為に関して、お客様、株主をはじめ、社会の多くの皆様に大変なご迷惑をおかけしていることを深くお詫びする」と陳謝した。

また、「風土改革を進めているさなかに、深刻な品質問題が相次ぎ判明し、三菱電機に対するステークホルダーからの信頼は失われ、1921年の創立以来の危急存亡の危機に直面している。経営の一翼を担ってきた立場から、極めて深刻に受け止めており、新社長として負う責任の重さを痛切に感じている」とした上で、「新社長として課せられた使命は、変革である。企業の抜本的改革を推し進め、新しい三菱電機グループを作ることと、一連の問題で失われた社会からの信頼を再び取り戻すことの2つに尽きる。グループ内に内在する様々な問題を徹底的に洗い出し、問題が発生するプロセスや主因を究明し、こうした問題を起こさないよう再発防止策をしっかりと講じるとともに、私自らが先頭に立って、企業風土の刷新と信頼回復に全力をあげて取り組む」と宣言した。

さらに、「モノづくりを基盤として、事業を継続し、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献するという企業理念は、三菱電機の存在意義そのものである。この存在意義を、いま一度見つめなおし、まずは経営陣一人ひとりが、変革の気持ちをしっかりと持ち、自らの意識と行動を変えていく必要がある。そのために行うべきことは、社内外の様々な声に真摯に耳を傾けることである。また、積極的で、透明性の高い情報開示とステークホルダーとの対話を一層推進していく。相当に困難な道のりだが、もう一度、お客様や社会からの信頼を回復し、三菱電機グループで働く全従業員が自信を取り戻すため、経営の変革と企業風土改革に、誠心誠意努めていく。経営層と従業員全員で会社を変えていくという強い思いを共有し、全社が一丸となって変革に取り組む。従業員一人ひとりの心に変革の炎を灯し、変革に向けて、誰もが自発的に行動できる風土を醸成し、仲間や組織としての一体感、心を震わせるような共感を呼び起こしながら、力強く前進できる会社を作りたい。生まれ変わる三菱電機の姿をしっかりと示せるように、私自身が先頭に立ち、不退転の決意で、新たな三菱電機グループの創生を実現したい」と述べた。

そのほか、「信頼を失ったことは重く受け止めている。変えていくべきことは変える。三菱電機の製品を愛していただいているお客様、三菱電機ストアの方々には申し訳ないと思っている。先頭に立って、信頼回復にしっかりと対処したい」と語った。

  • 陳謝する漆間氏

従業員がモノを言える状況は作れていたか

漆間新社長は、1959年7月27日生まれの62歳。1982年3月に、早稲田大学商学部卒後、同年4月に三菱電機に入社。2006年4月にFAシステム業務部長、2010年4月に国際部次長に就き、2011年には、Mitsubishi Electric Europe B.V. 取締役副社長、2012年には同社取締役社長に就任するとともに、三菱電機の国際本部欧州代表にも就いた。

2015年には、常務執行役としてFAシステム事業を担当、2017年には社会システム事業を担当。2018年には専務執行役に就任。2020年4月に代表執行役、専務執行役として、経営企画および関係会社を担当。同年6月には取締役に就任。2021年4月からは、取締役、代表執行役、専務執行役として、輸出管理、経営企画、関係会社を担当。CSOも兼務している。

漆間新社長は、「不適切行為が発見されて以来、何度か社内調査を行ってきたが、見つけきることができなかった。社内には、モノが言えない風土があるのではないか。上司から言われると言えなかったところもあったのではないか。そうしたことを、外部の調査委員会によって、従業員に確認をしてもらい、問題があればウミを出し、会社の風土を変えたい。そして、経営幹部がいままでの行動を改めてなくてはならない。従業員がモノを言える状況を作ってきたのかということを反省し、透明性を高めたい」と述べたほか、「いまは、品質部門がそれぞれの事業本部に属している。品質に関わる担当執行役員を選任し、その傘下に品質部門を置き、出荷権限を渡したい。今後は、外部からも人材を招聘し、新しい考え方も取り入れていきたいと考えている」とした。

また、自らの変革の経験については、「FAシステムの業務課長時代に、事業を売却したり、撤退したりといったことがあった。欧州では強い代理店に出資、買収し、三菱電機のなかで成長させた。過去の延長線上にこだわらず、変えるべきものは変えていくということに取り組んできた。従業員とは可能な限り、同じ目線で話をし、意見をもらうということをやってきた。これは今後も継続していきたい」とし、「新事業を開始する際に、まずはやってみるといったように、失敗を許容する風土を社内に作りたい」と述べた。

三菱電機は変われるのか、覚悟が問われる局面

一方、三菱電機 取締役 指名委員長の藪中三十二氏は、漆間新社長を指名した経緯や理由について説明した。

「杉山氏の異例の社長辞任、三菱電機が厳しい状況にあるなかで、社外取締役が大半を占める5人で構成される指名委員会において、後任社長候補を選定することになった。従来は社長が次期社長候補を推薦するというものであったが、すべて指名委員会がイニシアティブを取って、リストアップするという手法を取った。これは、これまでの社長選定のプロセスとはまったく異なるものである。当初は、社外からの候補も想定したが、品質管理の問題を解決するには、現場に精通した人材でなくてはならないこと、従業員の信頼を受けている必要があるといった理由から、最終的には社内に絞った形で選考を行った。昨年から実施している部下、同僚、上司による360度評価の結果も踏まえて、今年4月から執行役になった人物を含め、候補者として、6人をリストアップした。指名委員や社外のコンサルタントが、それぞれにインタビューを行い、議論を行った。結論として、漆間氏が最適だと考えた。新社長は、三菱電機が抱える大きな問題について、深層究明にたどり着き、ウミを出し切らなくてはいけないことに加え、変革をしなくてはならない。漆間氏は、その決意とリーダーシップを持ち、従業員からの熱い信頼を得ている」とした。

  • 三菱電機 取締役 指名委員長の藪中三十二氏

漆間新社長は、選出された理由について自己分析。「三菱電機には、量産して販売する事業と、オーダーごとに製造、販売する個販の事業があり、その両方を経験している。欧州での海外経験があり、社内外の人とのつながりがある。また、複数の本部をまたがった経験は、技術系出身では難しい。いままでの経験を活かしたい」と、文系出身社長の強みについても触れた。

漆間新社長は、品質問題が発生した鉄道車両用空調装置が、かつて担当していた社会システム事業に含まれること、さらには杉山社長に次ぐナンバー2のポジションであったことからも、順当な新社長人事に疑問を投げかける質問もあったが、藪中氏は、「直接、品質問題に関与していたわけではないと判断したこと、人格、リーダーシップ、変革に向けた熱意、これまでの経験を考慮したほか、従業員からの信頼を声が、相当伝わってきたことが理由である。360度評価では、候補者によって、評価にずいぶんと差が出ていることには、むしろ驚いた。ナンバー2であるから有利ということもなく、同じ時間を使って、選定した。むしろ、これからの評価、結果が大切であり、そこについてもフォローしていく」とした。

漆間新社長も、「社会システムを担当していたときに、品質問題を発見できなかったことは重く受け止めている。今回、社長を引き受けるべきかを逡巡したが、三菱電機の危急存亡のときに、このような機会を与えられるならば、身を粉にして、真剣に取り組んでいく必要があると考えて、覚悟を決めた」と述べた。

なお、同社では、長崎製作所が製造する鉄道車両用空調装置などの不適切検査判明を受けて、外部専門家で構成される調査委員会を、7月21日に設置。事実調査、真因究明と再発防止策の策定、提言を行うことを発表している。また、名古屋製作所可児工場で判明した電磁開閉器における第三者認証不適合の件についても、同調査委員会に移行して調査を進める。調査委員会は、2021年9月を目途に、調査結果の報告と再発防止策の提言を行う。

藪中氏は、「現場と本部とのコミュニケーション体制、連絡体制、管理監督体制ができていなかったことに原因がある。外部の方々に調査をしてもらい、その結果を真摯に受け止める考えだ」と述べた。