マルチエフェクタやMTRといった機材で、ギターやベースを弾く人にはお馴染みのZOOM。どの製品も手軽な価格で、さらに豊富な機能を詰め込んでいることが特徴だ。ではリニアPCMレコーダ「H2」ではどうだろうか?

録り逃さないプリレコードなど機能満載

楽器を弾く人には馴染み深いZOOMは、比較的早い時期からリニアPCMレコーダの開発に取り組んでいるメーカーのひとつだ。第一弾は2006年に登場した「H4」で、最大24bit/96kHzでの記録に対応するリニアPCMレコーダなのだが、面白いのはギターの直接接続に対応したXLR/TRSのコンボジャックを備え、4トラックのMTRとしても動作し、さらにエフェクトを内蔵、USBオーディオインタフェースとしても動作するという個性的な製品だ。

4トラックMTRやエフェクトとしても使える多機能なZOOMのリニアPCMレコーダ「H4」

コンパクトかつ低価格でありながら、非常に多機能なZOOMの「H2」

続いて2007年夏に発売されたのが、今回紹介する「H2」。これは比較的大柄であったH4(70×152.7×35mm)に比べ、サイズが63.5×110×32mm、重量は110g(電池含まず)と、かなり小型化された。ライバル製品と比べればEDIROL R-09(63×102×29 mm)より気持ち大きい、といったところだ。標準価格は29,400円、家電量販店での実売価格は25,000円前後で、リニアPCMレコーダとしてはもっとも安価な部類である。なおH4はH2の後継機種ではなく機能はかなり異なり、現在でも両製品が併売されている。H2のボディは「いかにもマイク!」といったデザインで、かなり個性的。筐体はプラスチック製のため、手にした感触は見た目よりも軽い。

電源は単三電池2本を仕様。ACアダプタも標準で付属する

SDHCカードもサポートするカードスロットは前面下部に搭載。SDカードが付属し、すぐに使えるのは嬉しいところ

電源は単三電池を2本使用し、約4時間の連続録音が可能。記録フォーマットは最大24bit/96kHzのWAV、そしてMP3にも対応している。内蔵メモリは搭載せずSD/SDHCカードスロットを備え、製品には512MBのSDカードが付属。最大8GBまでのSDHCカードをサポートする。

USBオーディオはWindows標準ドライバで動作、「H4」ではASIOドライバがWebで公開されているが、残念ながらH2には用意されていない

機能的にはH4の大きな特徴であったMTRやエフェクトといった機能こそ搭載されていないものの、かなり多機能。録音レベルを自動設定するAGC(Auto Gain Control)やコンプレッサ、クリッピングを防止するリミッタ、風切り音を低減するローカットフィルタ、入力レベルに応じて自動で録音開始/停止できるオートレコード、入力信号をバッファしておくことでボタン操作の2秒前から録音できるプリレコードなど盛り沢山。さらにマイクで音を拾ってチューニングできるチューナーや、録音/再生時にヘッドフォンからメトロノーム音を出力することもできる。メトロノームは一人で練習を録音するときなど、便利だろう。

USBオーディオ機能はH2にも用意されている。これはWindows XP/VistaおよびMac OS X v10.2以降の標準ドライバで動作し、H2の内蔵マイクを利用してパソコンで録音したり、パソコンの音声信号をH2のヘッドフォン/ラインアウト端子から出力できる。

単体での4chサラウンド録音にも対応

内蔵マイクは他の製品と同様に本体上部に搭載されているが、これは「W-XYステレオマイク」と名付けられており、かなり特徴のあるマイクだ。カバーで覆われているためマイクは直接見えないものの、前面側には120度、背面側には90度の配置でX-Yステレオマイクが2組、つまり4つのマイクが搭載されているのだ。

これは録音対象や状況によって前面と背面のマイクを切り替えて使う。たとえばソロギターならば90度配置の前面マイク、音に広がりが欲しいバンド演奏の録音なら120度配置の背面マイクと、使い分けが可能だ。なお、両面それぞれにどちらのマイクが動作しているかを示すMIC ACTIVEインジケータが用意されているため、逆にマイクを向ける、といったミスが防げるようになっている。このことからわかるように、H2は他の製品とは異なり、録音対象に対して寝かせるのではなく、立てて設置するのだ。

このように録音物に対して立てて設置、本体下部には三脚穴が用意されているが、設置用にスタンドも同梱される

マイクカバー下部に赤く光るのがMIC ACTIVEインジケータ、前/背面のマイク切り替え、そして4chサラウンドへの切り替えはボタンで行う、前/背面のマイクを使い、2chで録音することも可能だ

さらに前後二組のステレオマイクは、同時に使用して4チャンネルサラウンド録音することまで可能。この場合はフロント/リアで別々に2つのWAVファイルとして保存される。SACDやDVD-Videoなどサラウンド収録の音楽ソフトは多くなってきたが、録音環境はまだ一般的ではないため、興味がある人にとっては手軽に試せて面白い機能だろう。

録音操作はRECキーを一度押して録音待機、左右キーで録音レベルを調整し、RECキーを押して録音開始、もう一度RECキーを押して停止だ。手順そのものは標準的だが、停止キーがないところに少々戸惑う。また各キーのクリック感は薄く、サイズも小さいため、指が比較的太い筆者は少し押しづらかった。

ディスプレイは小さいもののレベルメータの視認性、ピークホールド時間などは問題を感じない、クリッピング時はMIC ACTIVEインジケータが点滅することで表す。録音レベル設定は127ステップとかなり細かい。なおマイクゲインは右側面のスイッチで3段階切り替えが可能

付属品は前述の512MB SDカード、ACアダプタ、スタンドのほか、ウィンドスクリーン、マイクスタンドアダプタ、インナーイヤータイプのヘッドフォン、RCAピン-ステレオミニプラグケーブル、USBケーブルと豪華だ。別途オプションを購入しなくともよいのは嬉しいところ。

付属品は非常に充実している

録音ファイルの音質は、少し高域が弱く音がこもった印象を受ける。とはいえリニアPCMレコーダらしく細かい音ひとつひとつをきちんと拾っており、価格を考えれば納得できるレベルだ。生録派にもプレイヤーにも便利な機能を満載し、オプションを買わなくともすべてが揃う充実の付属品、そして手の出しやすい価格。本格的なレコーディングにこれからチャレンジしてみたい人には、これもまた魅力的な製品だ。