ソニーは2022年5月11日、スマートフォン「Xperia」シリーズの3機種を新たに発表しました。なかでも注目されるのは、フラッグシップモデル「Xperia 1 IV」です。同社が力を入れるカメラの進化点からは、市場のカメラニーズが動画に大きくシフトしている様子を見て取ることができますが、Xperiaで動画を強化するソニーの狙いはより大きなビジネスにあるといえそうです。
“4代目”でカメラの強化ポイントが写真から動画に
ゴールデンウィーク明けとともにスマートフォンの新機種が続々と発表されていますが、ソニーも2022年5月11日にスマートフォンの新機種を発表しました。具体的には、フラッグシップモデルの「Xperia 1 IV」とミドルクラスの「Xperia 10 IV」、そして低価格モデルの「Xperia ACE III」の3機種なのですが、注目されるのはやはりXperia 1 IVでしょう。
Xperia 1 IVはその名前の通り、同社のハイエンドモデル「Xperia 1」シリーズの最新機種。なかでも、ここ最近大幅な強化がなされているカメラ機能に注目が集まっていますが、Xperia 1 IVのカメラを見ると、進化の方向性がこれまでと大きく違っている印象を受けます。
それをひとことで表すならば「動画」ということとなり、それを象徴している変化の1つは望遠カメラです。前機種の「Xperia 1 III」は可変式の望遠カメラを搭載し、35mm判換算で70mmと105mm相当の2段階に望遠カメラが切り替わる点が大きな特徴となっていました。Xperia 1 IVではそれをさらに進化させ、35mm判換算で85~125mm相当に無段階でズームできるようになったのです。
これにより、85~125mm相当の範囲内であれば、望遠撮影時は常にデジタルズームではなく、画質の劣化しない光学ズームが利用できるようになっています。この変化がなぜ動画に影響するのかといいますと、動画撮影時は写真撮影時と違って撮影時にシームレスなズームが求められることから、それを光学ズームで美しくこなせるXperia 1 IVのカメラはより動画撮影に強くなったといえるわけです。
そして、もう1つの変化が「Videography Pro」の搭載です。Videography Proは、すでにカメラのプロ・セミプロ向けとして販売されている「Xperia PRO-I」に搭載されているものではあるのですが、Xperia 1 IVへの搭載でカメラ性能をフルに生かした動画撮影ができるだけでなく、新たにVideography Proから直接YouTubeでのライブ配信ができるようになるなど、近年需要が高まっているライブ配信への対応が進められたのです。
広角カメラ以外にも、120fpsの高速読み出し対応イメージセンサーが搭載され、すべてのレンズでHDR対応の20コマ/秒のAF/AE追従高速連写ができるなど、写真撮影に関する機能強化もなされてはいます。ですが、全体的な内容を見ると、やはり動画関連の機能に重点を置いた進化がなされていることは確かでしょう。
イメージセンサーのビジネスにも影響する動画シフト
これまで、写真撮影に関する機能強化に重点を置いてきたXperia 1シリーズですが、Xperia 1 IVで動画撮影を大幅に強化してきたのはなぜかといえば、やはり動画撮影のニーズが高まっていることを受けてのことでしょう。
実際、スマートフォンの基本性能が大幅に進化し、カメラだけでなくストレージやバッテリーが増えたことで、長時間の動画撮影に耐えられるようになっています。加えて、モバイル通信が4Gから5Gへと高度化が進み、大容量ながら低価格の料金プランが増えたことが、動画視聴のニーズだけでなく、動画を配信したいというニーズの高まりにもつながっています。
ソニーもそうした動画のニーズを捉えるべく、これまでにもVLogの撮影に特化したデジタルカメラ「VLOGCAM ZV-1」を提供するなど、動画撮影にこだわるユーザーに対応するための製品を提供してきました。ですが、本格的な動画配信をしたいというニーズがよりライトな層にまで広がってきたと判断し、今回はスマートフォンだけで高度な動画撮影ができる製品としてXperia 1 IVを投入するに至ったといえるでしょう。
そして、Xperia IVで見せた動画シフトは、ソニーの大きなビジネスでもある半導体にも大きな影響を与えていると考えられます。ソニーは、スマートフォンのカメラなどに用いられるイメージセンサーでトップシェアを獲得していますが、ここ最近はサムスン電子が急速にシェアを伸ばしていました。
その要因は、画素数が1億超という高精細なイメージセンサーの開発を先んじて実現したことで、ここ最近はサムスン電子自身だけでなく、いくつかのスマートフォンメーカーがフラッグシップモデルなどにこのセンサーを採用するケースが見られました。画素数が非常に高いセンサーを用いることで、より高精細な写真を撮影したり、複数の画素をまとめて高感度撮影を実現したりして、カメラの性能向上に役立つのはもちろんですが、「1億画素超」という数字がプロモーション要素として大きな意味を持っていたことも、採用が進んだ大きな要因といえるでしょう。
ですが、ここ最近の動向を見ますと、いくつかのメーカーがフラッグシップモデルのイメージセンサーをソニー製に回帰させる動きが出てきており、それはまさに写真から動画へとユーザーの関心が移っていることの影響が大きいとみられています。高精細なイメージセンサーは、その分撮像にも時間がかかり、動画撮影時には不利に働きやすいことから、センサーサイズを大きくして高感度を実現するなど、動画撮影に強さを発揮しやすいソニー製センサーの方向性が受け入れられ、それが変化につながったといえそうです。
そうしたことからXperia 1 IVは、ソニーの主力ビジネスとなっているイメージセンサーの今後を占ううえでも重要なモデルになることは確かでしょう。現時点では、国内での販売時期が2022年6月上旬以降とされているのみで、販売に関する詳細は不明な部分も多いですが、発売後消費者にどのような評価がなされるのかは、ソニーのビジネスの今後を占ううえでも注目されます。