NTTドコモが2021年3月より提供開始予定の新料金プラン「ahamo」(アハモ)が大きな話題となっています。月額2,980円で20GBの高速データ通信が利用可能であるなど、コストパフォーマンスが非常に高いことが幅広い層に注目されているようです。同社は、従来弱かった20代など若い世代の獲得のため、ahamoの提供にいたったとしていますが、そもそもなぜ最大手のNTTドコモが若い世代に弱かったのでしょうか。

店頭サポートを削り低価格、若者に注力したahamo

菅政権肝入りの料金引き下げに関する動向が注目を集めるなか、NTTドコモが2020年12月3日に新しい料金プラン「ahamo」を発表しました。複雑な割引などを適用する必要なく、月額2,980円で20GBの高速データ通信が可能であり、1回あたり5分間の無料通話も可能など、シンプルで低価格なプランながら豊富なサービスが利用できることから、発表直後から大きな話題となっているようです。

  • NTTドコモが2021年3月からの提供を予定している料金プラン「ahamo」。月額2,980円で20GBの高速データ通信が可能であるなど、シンプルで低価格なのが大きな特徴となる

ただ、料金が安いのには理由もあって、ahamoは従来のNTTドコモの料金プランとは大きく異なり、ドコモショップで契約したり、サポートを受けたりすることが基本的にできません。ahamoは、Webサイトやアプリ上から契約やサポートをする仕組みであり、店頭でのサポートに係るコストを削ることでこれだけの低価格を実現しているのです。

それゆえahamoは、スマートフォンを頻繁に利用しており詳しい知識を持つデジタルネイティブ世代の20代をターゲットにしたプランと位置付けられています。店頭でのサポートや家族契約による割引がないことを考えると、シニアやファミリー層にはあまり適したプランではないといえるでしょう。

なぜ、ahamoのようなプランを提供するにいたったのか、NTTドコモの代表取締役社長である井伊基之氏は「当社は若い世代が弱く、他社に押されていた」ためと答えています。NTTドコモは、携帯電話会社の中で最も多くの顧客を抱えていますが、20代など若い世代のユーザーからの支持が弱いというのが長年課題となっていたのです。

そうしたことから若い世代を獲得するため、若い人があまり必要としていないサポートのコストを削ることで、圧倒的なコストパフォーマンスを実現したahamoの提供にいたったようです。ですがそもそも、なぜNTTドコモはそれだけ若い世代から支持を得られていなかったのでしょうか。

  • ahamoは、デジタルネイティブ世代の20代の獲得を強く意識しており、開発メンバーも同世代が中心。同世代の声を積極的に取り入れて作られたプランだという

ファミリー重視の姿勢が若者離れの要因に

過去を振り返れば、若い世代に人気が高いアップルの「iPhone」シリーズの提供がソフトバンクやKDDIより遅れるなど、若い世代を取り逃した要因はいくつか挙げられます。そうしたなかでも本質的な要因といえるのは、同社の料金プラン設計がファミリー重視に偏っていたが故といえるでしょう。

2020年12月時点で現行の料金プラン「ギガホ」「ギガライト」も、確かに家族間の国内通話が無料になる「ファミリー割引」のグループの対象音声回線契約数に応じて適用される「みんなドコモ割」で、月額料金が最大1,000円割り引かれる仕組みです。ですが、2014年~2019年まで提供されていた1つ前の料金プラン「カケホーダイ&パケあえる」などは、より家族での利用に比重を置いたプラン設計となっていました。

それを象徴しているのが、データ通信量を家族間でシェアする「シェアパック」の存在です。カケホーダイ&パケあえるでは、主回線で家族分のデータ通信量をまとめて契約し、それを月額500円の「シェアオプション」を契約した副回線と分け合う仕組みだったのです。

  • 2014年から2019年まで提供されていた「カケホーダイ&パケあえる」は、主回線が契約したシェアパックの通信量をほかの家族とシェアするなど、家族での利用に力が注がれていた

一方で当時、1人でNTTドコモ回線を契約する場合は「ベーシックパック」を単体で契約する必要があり、契約年数に応じて月額料金が割り引かれる「ずっとドコモ割プラス」の割引額もシェアパックより少ないなど、お得感が薄かったのです。なぜそこまで家族契約に力を入れていたのかといえば、家族でまとめて同じキャリアを契約してもらった方が回線数を効率よく獲得できるが故といえるでしょう。

ですが、そうしたファミリー重視の姿勢には落とし穴もありました。それは、子供が成長して独立し、ファミリーから外れてしまうことです。新社会人になるなどして独立した人は携帯電話回線も親の契約から外れ、自身で好きなサービスを選ぶようになりますが、NTTドコモはファミリーを重視するあまり、独立したての若い世代をカバーできるプランを提供できていなかったのです。

  • NTTドコモによると、新社会人になる20代前半までに約5割が、携帯電話の契約を家族から自身単独のものに切り替える傾向にあるという

その隙を突いたのが、単身で契約しても安価、あるいは家族契約と大きな違いが出ないサービスを提供するライバル他社やMVNOです。例えば、KDDIがauブランドで2019年まで提供していた「(旧)auピタットプラン」「auフラットプラン」などは、家族の契約人数に応じた割引がなかったことから、単身者でも契約しやすかったといえるでしょう。

  • KDDIのauブランドは「(旧)auピタットプラン」「auフラットプラン」のころまで家族契約での割引にあまり力を入れておらず、その分単身者には契約しやすかった

ソフトバンクのサブブランドである「ワイモバイル」や、以前はMVNOだった「UQ mobile」なども、家族割引の適用がなくても安価に利用できたことから、若い世代にとってメリットのあるサービスだといえるでしょう。こうしたサービスは、若い世代に人気のiPhoneの最新モデルが販売されていないという制約もありますが、知識のある人ならSIMフリーのiPhoneを購入し、安価なサービスのSIMを挿入して利用することもできたので、大きなハードルにはならなかったといえます。

以前、NTTドコモの料金担当者に料金施策について話を聞いた際、「家族単位がドコモの考え方」と話す一方、単身者向けの対応については「対応を考えていきたい」と答えるにとどまっていたのを覚えています。その答えをなかなか出せなかった同社ですが、政府の料金引き下げ要求やNTTによる完全子会社化など、さまざまな環境変化により弱点に急いで手を付ける必要が出た結果、ahamoが生まれたというのが正直なところではないでしょうか。