2020年に本格サービスを開始した楽天モバイル。2020年末に累計契約申込数200万を突破しましたが、NTTドコモが楽天モバイルと正面を切って対抗する料金プラン「ahamo」を打ち出したことで逆風が強まっているのも事実。楽天モバイルに求められるのは、弱点となっているエリアのいち早い整備ですが、そのための秘策はあるのでしょうか。

ahamoにあってRakuten UN-LIMITにないもの

2019年に携帯電話事業への新規参入を果たした楽天モバイル。開始当初は基地局整備が大幅に遅れ、試験サービスといっても過言ではない状況が続きましたが、2020年4月にようやく本格サービスを開始、月額2,980円で自社エリア内なら使い放題になる料金プラン「Rakuten UN-LIMIT」を打ち出し、300万人は無料で利用できるキャンペーンを実施するなどして市場に大きなインパクトを与えました。

  • 月額2,980円で自社エリア内であればデータ通信が使い放題というサービスでインパクトを与えた楽天モバイル

    2020年4月に本格サービスを開始した楽天モバイルは、月額2,980円で自社エリア内であればデータ通信が使い放題というサービス内容で大きなインパクトを与えた

さらに2020年9月30日からは、4Gに加え5Gも同じ料金で利用できる「Rakuten UN-LIMIT V」の提供を開始、2020年11月にはeKYC(電子本人確認)の導入でオンラインでの本人確認を実現するなど、攻めの姿勢を継続。それらの策が功を奏し、楽天モバイルは2020年12月30日に契約申込数が累計で200万を突破したとしています。

ただ一方で、楽天モバイルには急速に逆風が吹いているのも事実。NTTドコモが、割引適用の必要なくRakuten UN-LIMITと同じ月額2,980円で、しかも20GBのデータ通信が利用可能な料金プラン「ahamo」を発表したことです。

楽天モバイルは「楽天市場」など楽天が持つ会員基盤を生かし、オンラインでの契約やサポートを重視していますが、ahamoのコンセプトは楽天モバイルのそれに非常に近いもの。もちろん、自社エリア内でデータ通信がし放題というのはahamoにはないメリットですが、一方でahamoにはネットワークの質という圧倒的に優位な点があります。

実は、ahamoが話題を集めた最大のポイントは、全国津々浦々をカバーし、混雑時にも速度が低下しにくいNTTドコモの高品質ネットワークを、割引なしの低価格で大容量使えることだったといえます。割引なしで大容量、オンラインで契約……といった特徴を持つサービスは、MVNOなどにも幅を広げればいくつか存在するだけに、ネットワークの高い品質がなければahamoがここまで支持されることはなかったのではないでしょうか。

  • ahamo最大のポイントとなるのは、全国をカバーし高い品質を持つNTTドコモのネットワークを、月額2,980円で20GB利用できることにある

ahamoと同様に、オンライン専用で安価な料金を実現するプランは、他の携帯電話会社からも相次いで提供が発表されています。ソフトバンクは、LINEモバイルの基盤を活用した「SoftBank on LINE」をブランドコンセプトとしたサービスを提供予定。KDDI(au)は、シンガポール企業のノウハウを活用し、「24時間だけデータ通信し放題」など必要に応じて手軽にサービスを追加できる仕組みを備えた「povo」を1月13日に打ち出しています。

  • KDDIは、月額2,480円からの新料金プラン「povo」を発表。24時間データ無制限や国内通話5分間し放題などのサービスを「トッピング」という形で自由に追加できることを特徴としている

一方、楽天モバイルはサービスを開始して間もないだけに、データ通信し放題となる自社回線のエリアはまだ広くはなく、カバーできていないエリアはKDDIとのローミングで補っていますが、ローミングエリア内ではデータ通信が使い放題となるわけではありません。しかも、楽天モバイルは人口カバー率が70%を超えた都府県で、早くもKDDIとのローミングを終了しており、東京都でも一部エリアですでにKDDIとのローミングを終了。2021年3月末には、原則的に全エリアでローミングを終了することを明らかにしています。

楽天モバイルが早々にローミングを終了させるのは、ローミングエリアでの利用が増えるほどKDDIに支払うお金が増えてしまうことから、コスト削減が主な理由と見られています。ですが、エリア整備が十分進んでいない状況でKDDIとのローミングを終了してしまうと、ユーザーのエリアに対する不安が高まるのも事実であり、それがahamoなどと対抗するうえでの弱みとなっている印象は否めません。

楽天モバイルはプラチナバンドを獲得できるのか

2021年には、先に触れた無料キャンペーンが終了するユーザーが出てくるので、エリア品質を理由に楽天モバイルを解約し、ahamoなどに乗り換えてしまう人が続出することが懸念されます。そうしたことから2021年、ahamoなどに対抗しながらも楽天モバイルが契約を増やしていくには、やはりエリアの拡大が最も重要ポイントとなることは間違いないでしょう。

楽天モバイルは、4Gのエリアを2021年3月末までに人口カバー率80%超、2021年夏までには人口カバー率96%を目指すとしています。これは、当初の整備計画を5年前倒しするもので、急ピッチでエリア整備を進めることによりライバルとの差を埋めようとしていることは確かでしょう。

  • 楽天モバイルは、エリア整備計画を5年も前倒しし、2021年夏に人口カバー率96%を目指すなど、急ピッチでエリア拡大を進めようとしている

ただ、それでも楽天モバイルと大手3社の間には環境面で越えられない壁があり、その1つがいわゆる“プラチナバンド”の存在です。プラチナバンドは、主として1GHz以下の周波数帯のことを指し、周波数が低いので障害物の裏に回り込みやすく、遠くに飛びやすいことから、広いエリアを整備するのに有利とされています。

NTTドコモとKDDIは700MHz帯と800MHz帯、ソフトバンクは700MHz帯と900MHz帯の免許を保有していますが、楽天モバイルは現在のところ1.7GHz帯の免許しか保有しておらず、競争上不利な状況にあります。そうしたことから楽天モバイルは、2020年12月23日に実施された「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の第2回会合で、プラチナバンドの割り当てがないことが競争上不利になるとし、平等な機会を得るためにもプラチナバンドの再分配を検討するよう主張しています。

  • 総務省「デジタル変革時代の電波政策懇談会(第2回)」の楽天モバイル提出資料より。楽天モバイルは後発の事業者ということもあり、使い勝手がよいプラチナバンドの免許割り当てがなされていない

ただ、そのプラチナバンドを巡っては、これまで各社が周波数帯の再編や、以前その帯域を利用していた事業者に、他の帯域へ移行してもらうなどのために、多額の費用をかけてきたのも事実。それを再編するとなると再び大きな負担が発生するだけに、プラチナバンドの再編には難色を示しているようです。

  • 同じく「デジタル変革時代の電波政策懇談会(第2回)」のソフトバンク提出資料より。同社は900MHz帯の割り当てを受けたが、その帯域を使っていた既存事業者への移行促進のため、累計で979億円を費やしたとしている

そうしたことから、楽天モバイルがプラチナバンドを獲得できるかは現時点では不透明ですし、仮に獲得できたとしても、実際にそれを利用できるまでには周波数帯の再編に向けた準備などが必要で、時間がかかるものと考えられます。それゆえ、楽天モバイルがエリアの問題を解決するには当面、現在の1.7GHz帯を用いて地道にエリアを整備する以外に道はないといえそうです。

ですが、楽天モバイルを巡ってはエリア以外にも課題を抱えており、とりわけオリジナル端末「Rakuten Mini」の対応周波数を無断で変更してしまうなど、トラブルが相次いだことも消費者にはネガティブに映ったといえます。エリアの問題を解決するにはどうしても時間がかかるだけに、まずは顧客から信頼を得るための体制整備が最優先で求められるところではないでしょうか。