KDDIのサブブランド「UQ mobile」が、5月22日に料金プランをリニューアルすると発表。新たに投入する「コミコミプラン」で、楽天モバイルやNTTドコモの「ahamo」などへの対抗を打ち出した一方、直接的な競合となるソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドとは料金プランに大きな違いも出てきました。今後、ワイモバイルが追随する可能性はあるのでしょうか。
大容量ニーズの高まりで料金プランをリニューアル
楽天モバイルが5月12日に新料金プラン「Rakuten最強プラン」を発表。KDDIとのローミングエリアでもデータ通信し放題とすることで、他社の力を借りる形ではあるものの、楽天モバイル最大の課題でもあるエリアの狭さやつながりにくさの改善が期待されるプランとして話題となりました。
ですが、その楽天モバイルにローミングで回線を貸しているKDDIも5月22日、それに対抗すべくサブブランド「UQ mobile」の料金プランを2023年6月よりリニューアルすることを発表しています。その最大のポイントとなるのが「コミコミプラン」の存在です。
コミコミプランは月額3,278円で、20GBのデータ通信と、10分間の音声通話定額が利用できるというもの。従来のUQ mobileの料金プランと同様、余ったデータ通信量は翌月に繰り越すことができますが、以前の料金プラン「くりこしプラン+5G」と比べた場合、指定の電力・固定ブロードバンドサービスを契約していると割引が受けられる「自宅セット割」などの各種割引は適用できません。
コミコミプランと同時に発表した「トクトクプラン」「ミニミニプラン」は、いずれも自宅セット割や、新たに設けられた「家族セット割」など、複数の割引サービスを適用して安くなる仕組みが用意されているのですが、コミコミプランだけは割引が適用できません。その理由は、コミコミプランの位置付けが大きく影響しているようです。
先にも触れた通り、コミコミプランの提供はRakuten最強プランに対抗する意味合いが強いのですが、それだけでなく実はNTTドコモの「ahamo」も強く意識したプランとなっています。これらのプランは、いずれも割引なしで月額料金が(最大で)3,000円前後での利用が可能であり、20GB以上のデータ通信量が利用できるほか、国内通話がahamoは5分間定額、Rakuten最強プランは「Rakuten Link」を使うことで定額での利用が可能です。
一方のUQ mobileは、これまでMVNOなどに対抗するべく小容量のプランに重点を置いてきましたが、動画の利用などが増えたことなどから3年間でデータ通信量が1.8倍も増加するなど、徐々にユーザーの大容量志向が強まっているとのこと。その流れを受け、より大容量のahamoや楽天モバイルが競合になるとして、先手を打ってコミコミプランを提供するに至ったようです。月額料金をRakuten最強プランの上限と同じ3,278円に設定したことからも、それらのプランを強く意識している様子を見て取れます。
「LINEMO」にあって「povo」にはないもの
確かに、コミコミプランの内容は、ahamoや楽天モバイルの対抗という意味でいえば悪くないといえます。ただその代わり、ベースの仕組みは共通ながらデータ通信量と料金が異なる「S」「M」「L」の3つから選ぶという、分かりやすい料金プランが特徴でもあったUQ mobileのセオリーが崩れ、スマートフォンに詳しくない人から見れば分かりにくい内容となった印象は否めません。
そして、この「S」「M」「L」という仕組みは、同じサブブランドという位置付けのソフトバンク「ワイモバイル」が先に取り入れていたもの。UQ mobileは低価格帯の開拓のため、先行するワイモバイルの仕組みを積極的に取り入れてきた経緯があるだけに、今回の料金プランのリニューアルによってUQ mobileがワイモバイルを踏襲する戦略を大きく変えたともいえるでしょう。
なのであれば、ワイモバイルがやはりahamoや楽天モバイルに対抗するため、リニューアルしたUQ mobileの料金プランに追随する可能性はあるのか?といいますと、その可能性は低いと筆者は見ています。なぜなら、ソフトバンクはすでにahamoや楽天モバイルに対抗するブランドとして「LINEMO」を持っているからです。
そもそも、LINEMOはahamoに対抗すべく生まれたオンライン専用のブランドであり、現在も月額2,728円で20GBのデータ通信量が利用できる「スマホプラン」を提供しています。もし、ahamoや楽天モバイルのニーズが高まればそちらを強化すればよく、あえてワイモバイルで対抗策を打つ必要がないのです。
一方のKDDIも、ahamo対抗として「povo」(povo 1.0)を提供していましたが、2021年に現在の「povo 2.0」にリニューアル。現在は月額0円から利用でき、必要な通信量やサービスを有料の“トッピング”で追加するという、非常に独自色の強い内容となっています。
povo 2.0は、維持費が基本的にかからないことから、メイン回線としてだけなく通信量が不足した時の予備や、通信障害時のバックアップ回線など幅広い形での利用が進み、従来にはない新しいニーズを開拓することに成功しています。それゆえ、いまさらpovoを1.0に戻すわけにもいかず、ahamoや楽天モバイルに対抗できる有効な料金プランがなくなっていたのです。
それゆえ、KDDIは市場の隙間をUQ mobileで埋める必要に迫られたといえ、LINEMOを持つソフトバンクがワイモバイルの盤石なプラン構成をあえて変える必要はないというのが正直なところではないでしょうか。ahamoや楽天モバイルへの対抗で仕組みが分かりにくくなったUQ mobileの料金プランリニューアルが、ワイモバイルにとってはむしろプラスに働くのでは?というのが筆者の見立てです。