最近よく耳にするようになった「5G」という言葉。これは、現在スマートフォンで使われている通信規格「4G」の次の世代の通信方式なのですが、そもそもなぜ5Gに規格をアップデートする必要があるのでしょうか。
世代交代は増え続ける通信量に耐えるため
ここ最近、ニュースなどで「5G」という言葉を耳にする機会が増えた……と感じる人も多いのではないでしょうか。実際、4月10日には、総務省が携帯電話3社と2019年に新規参入する楽天モバイルに、5Gの電波を割り当てたことが多く報道され、2020年には日本でも商用サービスを開始する予定とされています。
この5G、簡単に言ってしまえば、現在スマートフォンで利用している、俗に「4G」と呼ばれるモバイル通信規格の次世代版です。「G」は「Generation」、つまり「世代」のことを表しており、5Gは“第5世代目の通信方式”というわけです。
5Gは4Gより新しい世代ということもあって、その性能もけた違いです。国内における4Gの理論上の通信速度は、最も高速なNTTドコモのネットワークで、受信時最大1.288Gbps、送信時最大131.3Mbpsとなっています。ですが、5Gでは理論値で最大20Gbpsもの通信速度を実現できるというのですから、まさに“けた違い”の実力だということが分かります。
ですが、冷静に考えてみると、スマートフォンで動画などを視聴していて「ギガ死」、つまり毎月のデータ通信量を使いすぎて困ることは多いかもしれませんが、現在の4Gのネットワークでも速度が遅くて困った、という思いをすることはそれほどないのではないでしょうか。にもかかわらず、なぜ新しい通信規格を導入する必要があるのか?というのは疑問に感じるところです。
実は、それはギガ死にも大いに関係してくることなのです。これまでの歴史を振り返ると、携帯電話の通信規格はおおむね10年おきに新しい世代へとアップデートされているのですが、その理由はユーザーが利用する通信量が増加の一途をたどっているからなのです。
確かに、私たちがスマートフォンで利用しているSNSやLINEなどでのやり取りを見ても、最初はテキストや写真を使ったシンプルなものに過ぎませんでしたが、現在はよりデータの容量が大きい動画を使い、さらにライブ配信をするのも当たり前になってきています。そうした大容量のデータ通信を多くの人が同時にすると、ネットワークが渋滞してしまい、通信速度が遅くなったりパンクして通信ができなくなったりしてしまうのです。
そこで、よりネットワークの道幅が広い新しい通信規格に移行することで、大容量通信をしても渋滞しないようにしているわけです。
「低遅延」「多接続」で社会インフラに
ですが、5Gがいま大きな注目を集めている理由は、通信速度が速くて大容量通信に耐えられるからではありません。それに加えて「低遅延」と「多接続」という2つの特徴を備えていることが、5Gが注目される真の理由なのです。
低遅延とは、ネットワークの遅延、要するに要求したデータが手元に送られてくるまでの時間が非常に短いこと。この時間が長いと、例えばLINEの無料通話やビデオ電話などであれば、相手との会話に“ずれ”が生じてしまい、「なんだかうまく会話ができない」という事態を招いてしまいます。4Gでは、遅延が10~50ミリ秒と言われていますが、5Gではその遅延が1ミリ秒程度と、一層小さくなるとされています。
なぜ、そこまでの低遅延が必要なのかというと、自動運転や遠隔医療など、命を預かる新技術にとって非常に重要だからです。例えば、高速道路上で車を遠隔操作する場合、ネットワークの遅延によってハンドルを切る操作が反映されるタイミングがちょっとでもずれてしまったら、大事故を起こしかねません。そこで、遅延がほとんどなく、遠隔でも正確な操作を反映できる5Gが、こうした分野の技術で注目されているのです。
もう1つのメリットである多接続とは、1つの基地局に多数の通信機器を同時に接続できること。我々がスマートフォンだけを利用するだけであればさほど重要ではない要素ですが、実はこれが5Gの要といってもいいくらい重要視されているのです。
その理由は「IoT」にあります。IoTとは「Internet of Things」、要するにあらゆるモノがインターネットにつながるという概念です。今後、スマートフォンだけでなく、家電や車、さらには道路や建物など、社会を支えるあらゆるモノや場所がインターネットと接続するようになり、そこから収集したデータを活用することでより快適な生活を実現しようという動きが進められているのです。「スマートシティ」「スマートハウス」など、最近よく耳にする「スマート○○」といった言葉の多くは、そうした概念のことを指しています。
そのIoTを支えるネットワークとして最も有力視されているのが、全国津々浦々で、ケーブル不要で利用でき、なおかつ多数の機器を同時に接続できる5Gというわけです。それゆえ5Gは、個人の携帯電話やスマートフォンで利用するためのネットワークから、道路などと同じ社会インフラへと変貌する可能性があるとして、企業や自治体などからの期待が高まり、大きな注目を集めるようになったのです。
一見すると、スマートフォンの通信が高速になるだけであまりメリットがないように感じる5Gですが、こうして見るととても大きな可能性や影響力を持つ技術であることが理解できるのではないでしょうか。2020年のサービス開始を前に、2019年の秋には国内でもプレ商用サービスが始まる予定で、今後大きな盛り上がりを見せると考えられるだけに、ぜひ注目しておきたい技術といえます。
著者プロフィール
佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。