国内におけるAndroidスマートフォンメーカーのシェアが、ここ最近大きく変動している。シャープやサムスン電子が躍進する一方、ソニーモバイルコミュニケーションズが大きく落ち込んでいるのだが、その背景にあるのは携帯電話市場を取り巻く大きな変化にあるといえそうだ。

シャープやサムスンが躍進、ソニーモバイルの一人負けに

日本のスマートフォン市場は、かつての携帯電話会社による優遇販売などによって、iPhoneが半数、あるいはそれ以上という圧倒的なシェアを獲得しているというのは多くの人がご存知の通りだ。その傾向は、iPhoneの優遇がなくなってきた現在も変わっていないのだが、2位以下のメーカー、つまりAndroidスマートフォンのシェアに関してはここ1、2年のうちに大きな変動が起きているようだ。

中でもそのことを象徴しているのがシャープである。シャープは2017年に、日本のAndroidスマートフォン販売数でトップシェアを獲得して以降、現在もトップシェアを維持し好調を続けている。

  • 国内Androidスマートフォンのシェアが激変している

    シャープは2017年に国内のAndroidスマートフォンでトップシェアを獲得して以降、2年連続でトップシェアを獲得している

同様に、最近まで好調を続けていたのが中国のファーウェイ・テクノロジーズである。米国の制裁によって今後の動向が不透明となっているファーウェイではあるが、同社はここ数年来日本での販売シェアを急速に高めており、2018年発売の「HUAWEI P20 lite」は、同年に日本で最も販売数が多いAndroidスマートフォンとなっていた。また最近では韓国サムスン電子も販売を伸ばしているようで、GFKの調査によると前年比で38%の伸びを記録するなど好調な伸びを示しているという。

  • 2018年に最も販売数が多いAndroidスマートフォンとなった「HUAWEI P20 lite」。米国の制裁によって先行きが不透明となっているファーウェイだが、それまでは日本市場で大躍進を遂げていた

一方で、大きくシェアを落としているのがソニーモバイルコミュニケーションズだ。長らく国内のAndroidスマートフォンで販売シェアトップを獲得していた同社だが、最近では急速に販売数を落としており、2017年にシャープにトップの座を奪われて以降減少が止まらない状況が続いている。海外での不調が伝えられてきたソニーモバイルだが、これまで強みを持っていた国内での販売シェアも大きく落とし、“一人負け”というべき状況が続いているのだ。

スマホ値引き規制とミドルクラスの端末進化が市場を変えた

なぜこのようなシェア変動が起きているのかといえば、行政主導で進められた日本のスマートフォン市場の激変が大きく影響しているといえよう。総務省はかねてより、スマートフォンを大幅に値下げして販売する代わりに、毎月の通信料からその値引き分を回収するため顧客の契約を縛る仕組みが、競争阻害につながるとして問題視。その改善のため、携帯電話会社に対しSIMロック解除の義務化や実質0円販売の禁止など、厳しい行政措置を次々と打ち出してきた。

その極めつけとなったのが、2019年10月に実施された電気通信事業法の改正である。この改正によって、通信料金を原資として端末代を値引きすること自体が禁止され、通信契約に紐づかない値引きも2万円が上限となるなど、スマートフォンの大幅値引きが非常に難しい状況となってしまったのだ。

スマートフォンのハイエンドモデルは、最近では10万円を超えるものも少なくないなど、従来以上に高額となっている。にもかかわらず、行政の措置によって端末の値引きが期待できなくなったことから、実質0円販売が当たり前だった頃は最も売れ筋となっていたハイエンドスマートフォンが買いづらくなってしまったのだ。

一方で販売を伸ばしているのが、3万円前後で購入できるミドルクラスのスマートフォンである。これらのスマートフォンは、電気通信事業法改正後の割引上限限度額を適用すれば1万円前後で購入できてしまうし、値引きがなくても24カ月の分割払いであれば1300円前後の負担で済む。消費者にとって非常に購入しやすい価格を実現しているのだ。

だがかつて、ミドルクラスのAndroidスマートフォンといえば、性能が低く使い勝手が悪いとして評判が悪いものが少なくなかった。だが現在では技術進化によってハード性能自体の底上げがなされていることから、ミドルクラスであっても普段使いであれば十分満足できる使用感を得られるものが大半を占めている。そうしたことからスマートフォンの売れ筋がハイエンドからミドルクラスに移行してきており、その変化をいち早くキャッチアップしたメーカーがシェアを伸ばしている訳だ。

ミドルクラスのHUAWEI P20 liteが、昨年Androidスマートフォンで販売トップとなったことがその傾向を象徴しているといえよう。他にもシャープであれば「AQUOS sense」、サムスン電子であれば「Galaxy Feel」シリーズや、最近であれば2万円を切る価格で話題となった「Galaxy A20」などでミドルクラスのモデルに力を入れており、ミドルクラスの層が厚い企業がシェアを伸ばしている傾向が見えてくる。

  • サムスン電子が2019年の秋冬商戦に向けて提供した「Galaxy A20」。防水性能やFeliCa、FMラジオなども搭載しながら、税抜きで2万円を切る価格を実現している

一方でソニーモバイルは、そうした市場変化がありながらも国内ではハイエンドモデル重視の姿勢を続けてきたことから、市場シェアを大きく落とすに至ったといえよう。それゆえ同社も2019年に入ってからはミドルクラスの「Xperia Ace」を投入し、さらに秋冬商戦に向けても5万円台の「Xperia 8」を投入するなど、ミドルクラスのスマートフォン販売に力を入れるようになってきている。

  • ミドルクラスの端末提供に消極的だったソニーモバイルも、不振を受けてか2019年に「Xperia Ace」でようやくミドルクラスの端末を投入。巻き返しを図ろうとしている

そうしたメーカーの動向からは、行政の影響によって日本のスマートフォン販売の主戦場が、完全にミドルクラスに移っている様子が見えてくる。それゆえ今後はミドルクラスの端末開発に強いメーカーほどシェアを伸ばす可能性が高いが、それはメーカーにとって、利益率の高いハイエンドモデルの販売が減少することにもつながるだけに、痛しかゆしの変化であることに間違いはないだろう。