NTTドコモは2025年2月18日、「通常のご利用を目的としていない場合の契約解除料」を新設することを明らかにした。2024年にはKDDIやソフトバンクも同様の契約解除料を設けており、携帯各社が再び“縛り”を導入する動きが強まっているように見えるのだが、かつての“2年縛り”とは内容も適用範囲もかなり異なっている。“縛り”が復活する背景には何があるのだろうか。
契約解除料は「ホッピング」防止のため
長年さまざまな“縛り”があって他社への乗り換えが非常にしづらいことが問題とされてきた携帯電話の料金プラン。だが2019年の電気通信事業法改正により、携帯電話の料金プランとスマートフォンとのセット契約を前提とした割引が禁止されるなど、契約の“縛り”がほぼ排除。現在提供されている料金プランはいつ解約しても契約解除料などがほぼかからず、乗り換えが非常にしやすくなっている。
だが2025年2月18日、NTTドコモが気になる発表をしている。それは2025年3月1日以降、新規契約した回線を対象として「通常のご利用を目的としたご契約ではない場合」の解約時における契約解除料を新設するというものだ。
具体的にはNTTドコモの料金プランを新規契約後に1年以内の短期間で解約し、なおかつ次の2つのうち1つでも条件を満たすと、通常の利用を目的としていないとみなされるようだ。
条件の1つは利用実態がない場合、そしてもう1つは解約日から過去1年以内に、同じ名義で契約した他の回線が契約1年以内に解約されていた場合とされている。つまり回線契約後、ほとんど通信せずに短期間で解約し、なおかつそうした行為を繰り返している場合は、通常の利用とはみなされず契約解除料がかかるようだ。
一般的なスマートフォンの使い方をしている人から見ると、なぜ短期間で契約と解約を繰り返すような行為をするのか? と疑問がわく所だろうが、これは携帯電話業界で「ホッピング」と呼ばれる行為でもある。
ホッピングとは短期間で携帯電話会社の契約を次々と乗り換えることを指し、その目的は、携帯電話会社が新規・乗り換え契約者を獲得するため提供しているインセンティブをより多く得るためだ。携帯各社は他社から乗り換えたユーザーに対してポイントやお金、あるいはスマートフォンの大幅値引きなどのインセンティブを提供することが多いのだが、そこに目をつけて短期間のうちに乗り換えを繰り返すことで、複数の携帯電話会社からインセンティブを獲得して稼ぐ訳だ。
こうした行為はとりわけ、先の電気通信事業法改正で解約がやりやすくなった2019年以降に増えていると見られ、インセンティブを提供する携帯各社の側からすると“取られ損”となることから非常に深刻な問題となっている。NTTドコモはそうした収益化目的でホッピング行為を繰り返す人達にペナルティを与えるべく、1年以内の解約に条件を付けて“縛り”を設けたのだろう。
国の規制が携帯各社のホッピング対策を阻む
実はホッピング行為に対処するための契約解除料を設けたのは、NTTドコモが初めてという訳ではない。既にKDDIは2024年6月から、「au」「UQ mobile」ブランドで、通常の利用を目的としていない場合の契約解除料を新設しているし、ソフトバンクも2024年7月に開始した「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」で、加入当月に解約した際の契約解除料を設けている。
それゆえ今回のNTTドコモの動きは順当なものともいえるのだが、気になるのはその契約解除料がかなり安いことだ。NTTドコモが設けるとした契約解除料は基本的に1100円で、「irumo」の500MBプランなど月額料金が1100円以下の場合は、月額料金と同額を請求するとしている。
またKDDI、ソフトバンクのLINEMOの契約解除料は、いずれも990円とされており、いずれも1000円前後に設定されていることが分かる。その一方で、携帯3社が他社から乗り換えた際にキャッシュバックやスマートフォンの値引きなどで提供されるインセンティブは数千円から数万円程度であることが多く、契約解除料を支払っても十分儲かってしまうのだ。
それゆえ1000円程度の契約解除料を付与するだけではホッピングの防止につながらないのだが、契約解除料の水準が低いのにはれっきとした理由がある。先に触れた2019年の電気通信事業法改正で、料金プランの契約解除料にも規制が加えられているからだ。
具体的には、違約金(契約解除料)を定めた料金の契約期間上限は2年までとされたほか、違約金の上限も税込みで1100円までと規制がなされている。これはかつて、長期間の契約を前提に月額料金を割り引く、いわゆる「2年縛り」のある料金プランで違約金が1万円近い額に設定されていたことが、乗り換えを阻害する要因になっていると総務省で問題視されたため。2年縛りを有名無実化するため、このような規制が設けられた訳だ。
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総務省「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備について」(2019年8月)より。2019年の同法改正により、通信サービスの期間拘束を途中で解除した際の違約金上限は1100円までに規制されることとなった
だがその規制により、悪意あるホッピング行為をする人達に対し、携帯電話会社が自衛することを難しくしてしまったともいえる。しかしだからといって、9割超を超える携帯大手3社のシェアを引き下げるべく乗り換え競争を加速させたい総務省が、再び解約を難しくする規制を強化するとは考えにくい。
もちろん総務省もホッピング行為は問題視しているのだが、その原因は携帯各社のインセンティブ施策にあるという姿勢のようで、インセンティブの1つとなるスマートフォンの大幅値引きに、毎年規制を加えていることがその一端を示している。乗り換え顧客にインセンティブを提供するくらいなら、毎月の携帯電話料金を値下げするべきというのが総務省の考えなのだろう。
だが携帯電話料金の値下げは、携帯各社の業績に与える影響が非常に大きく、菅義偉元首相の政権下で進められた過度な料金引き下げと、料金競争の加速によって携帯各社からは5Gインフラや人材への投資に影響が出てきているとの声が挙がってきているのが実情だ。それだけにホッピング行為を減らすには、やはり総務省が過度な競争促進に振り切ってしまった規制のあり方を一度見直し、携帯各社が悪意あるユーザーにより効果的な制限を加えられるようにすべきではないかと筆者は感じている。