スマートフォンを介して他の機器をインターネットに接続する「テザリング」。auが「auピタットプラン」「auフラットプラン」などの料金プランで、そのテザリングを利用するためのオプションを有料化するとしたことが話題となっているようだ。スマートフォン単体で通信しても、テザリングで他の機器から通信しても消費するデータ通信量は同じなのに、なぜキャリアはテザリングを使わせるのに、別途料金を取るのだろうか。

キャリアにとってテザリングは“厄介者”

去る3月2日、KDDI(au)が「auピタットプラン」「auフラットプラン」、そして旧料金プランのうち、「スーパーデジラ」と呼ばれる「データ定額20」「データ定額30」において、これまでキャンペーン施策で無料となっていたテザリングオプション利用料を、4月より月額500円の有料とすることを明らかにした。この措置に対して、批判的な声が多く集まっているようだ。

テザリングとは、要するにスマートフォンなどを用いて、他の機器をインターネットに接続する機能のことで、パソコンやゲーム機などをWi-Fi経由で接続する「Wi-Fiテザリング」が良く知られている。そして当然のことながら、テザリング機能を使っても、スマートフォン上から通信をしても、消費する通信量が変わることはない。

  • iPhoneでは「インターネット共有」の名称で提供されているテザリング機能。スマートフォンを経由してパソコンなど他の機器をインターネットに接続する機能だ

しかも現在、各社のデータ定額サービスは、毎月支払う金額に応じて3GB、5GB、20GBといった通信量が割り当てられ、その容量を消費してデータ通信する仕組みが主流。にもかかわらず、なぜテザリングを使用するのにオプション料金を追加で支払う必要があるのか?ということに疑問を抱く人が多いことから、auの対応に批判の声が集まったといえる。

では一体なぜ、KDDIはテザリングの無料キャンペーンを終了し、有料化という措置に至ったのだろうか。それはテザリングが、キャリアにとって“非常に厄介”な存在であるためだ。

キャリアはテザリングによって意図しない機器、特にパソコンからのデータ通信が増えることを以前より強く警戒している。なぜパソコンが警戒されるのかというと、スマートフォンより利用できるアプリやサービスの自由度が高いのに加え、動画サービスの利用だけでなく、クラウドストレージを経由して大容量ファイルのやり取りをするなど、ビジネス・ホビー用途を問わず大容量データ通信をすることが多いためだ。

しかも無線のネットワークは、広域で複数のユーザーが電波を共有して通信する仕組みなので、特定のユーザーが大容量通信をすると、他のユーザーに悪影響を及ぼす可能性が高まる。テザリングによる予期しない大容量データ通信が頻発し、ネットワーク品質が大幅に落ちる、最悪の場合ネットワークがダウンしてしまうことを、キャリアは非常に恐れているわけだ。

なのであれば、「Pocket Wi-Fi」などのモバイルWi-Fiルーターも同じではないか?という疑問を抱く人もいるかもしれない。だがWi-Fiルーターは最初からパソコンなどで利用されることを前提にサービスを提供しているため、事前の備えができているだろうし、その利用者もスマートフォンほど多いわけではない。それよりも契約数がはるかに多いスマートフォンの回線を使い、パソコンで頻繁に通信することをキャリアは想定していないことから、強い警戒心を抱いているのである。

  • モバイル回線を用いたWi-Fiルータータイプの端末も存在するが、こちらは元々パソコンでの利用が前提となっているのに加え、スマートフォンほど契約者も多くない

大容量プランの登場が有料化に拍車をかけた

実はテザリングのサービス提供開始当初は、利用するため有料のオプションを契約する必要があった。当時はLTEのサービスが開始したばかりで、3Gによる通信が主流であり、大容量通信に耐えるインフラが整っていなかった。そうしたことから大容量通信をする可能性があるテザリング利用者から追加料金を取ることで、ユーザー間の公平性をある程度保っていたといえる。

  • auは2012年、 LTEによる通信サービスを開始したのを機としてテザリングオプションの提供を開始。当時は税抜きで月額500円の料金を取っていた

それゆえLTE、そしてLTE-Advancedがネットワークの主流となって以降は、テザリングオプションが実質的に無料という状況が続いていた。それをauが再び有料としたのには、最近増えている20GB、30GBといった大容量を安価に利用できるプランの存在が影響したと考えられる。

  • auも2016年に「スーパーデジラ」の提供を開始して以降、20GBを超える大容量のデータ定額サービスの提供に力を入れている

かつて主流だった5GB程度のプランであれば、テザリングを使用してパソコンから通信したとしても、容量をすぐ使い切ってしまうためネットワークにかかる負荷を強く意識する必要はなかった。だがそれが20GB、30GBもの容量となると、ユーザーからしてみれば完全定額制に近い環境となるため、パソコンから大容量通信する人が増えてネットワークへの負荷が増える可能性が高まる。

そこでauは、無料キャンペーン期間中に大容量プランのトラフィックの推移を見た後、最終的にテザリングの有料化という措置に踏み切ったといえそうだ。実際auがテザリングオプションを有料化したのは、20GB以上の大容量プランと、上限が20GBに設定されているauピタットプランのみ。それ以外のプランのテザリングに関して、料金は無料のままとなっている。

しかしキャリアの事情がどうあれ、同じ通信量を消費しているのに、テザリング利用のため追加料金を取られることに納得がいかない人が多いのは事実だ。そうしたユーザーの不満をすくい取り、あえてテザリングを解禁し、料金を無料にすることで顧客獲得につなげる戦略を取る事業者もある。かつてのイー・アクセス(イー・モバイル)やウィルコム、最近であれば多くのMVNOが、そうした存在といえるだろう。

特にパソコンなどを外出先に持ち運んで利用することが多い人などにとって、テザリングはとても便利で重要なサービスである。それだけに「テザリングに優しい」ことを基準にするというのも、これからのキャリア選びの1つのあり方になるといえるかもしれない。