楽天モバイルが新料金プランで月額0円から利用できる仕組みを止めたことが大きな話題となったが、一方で競合他社などからは、月額0円でサービスを提供する事業者には対抗できず「価格圧搾ではないか」という声も出ていた。楽天モバイルやKDDIの「povo 2.0」などのいわゆる「0円プラン」は価格圧搾なのだろうか。
楽天モバイルの「月額0円」終了に安堵する競合
楽天モバイルが2022年5月13日に発表し、2022年7月1日より適用する新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」に、従来の料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VI」の特徴でもあった、通信量が1GB以下であれば月額0円で利用できる仕組みがなくなったことが、大きな話題となったことは記憶に新しい人も多いことだろう。
この出来事は月額0円で楽天モバイルのサービスを利用していたユーザーから大きな批判を集めただけでなく、発表直後より他社の低価格サービスの申し込み数が急増、楽天モバイルから多くの顧客が流出したのではないか? という動きも見せている。月額0円という仕組みの終了が、市場に大きな影響を与えたことは間違いない。
ただ見方を変えると、競合他社にとっては楽天モバイルの一連の対応に安堵したというのが正直なところではないだろうか。なぜならRakuten UN-LIMIT VIは月額0円ながら、1GBの通信量だけでなく「Rakuten Link」による国内通話定額、そして「楽天市場」で買い物をした時のポイント付与率が高まるなど、ある意味非常に充実したサービスを利用できたからだ。
もちろん楽天モバイルはエリア面で不利な部分もまだあるが、月額0円となれば他のサービス、とりわけ1GB前後の小容量・低価格サービスに力を入れているMVNOにとっては対抗のしようがなかったのは確かだ。それだけに競合からは、楽天モバイルが月額0円の仕組みを止めたことを評価する声も聞かれる。
実際、MVNO大手のインターネットイニシアティブの代表取締役社長である勝栄二郎氏は、2022年5月13日の決算説明会で楽天モバイルの料金について言及、「0円というサービスは想定しにくい。止めたことは正しい方向だと思う」と話している。
また総務省の有識者会議「競争ルールの検証に関するWG」などでも、Rakuten UN-LIMIT VI、そしてKDDIの「povo 2.0」など、月額0円から利用できる仕組みを備えたいわゆる「0円プラン」について、価格圧搾なのではないかという指摘いくつかなされていた。ここでいう価格圧搾とは、携帯電話会社が自身で、MVNOに回線を貸し出す料金と同じ、あるいはそれより安い料金のサービスを提供することでMVNOの事業を困難にすることで、0円プランがそれに該当しMVNOの競争を阻害しているとの見方がなされていた訳だ。
総務省は0円プランのチャレンジを認める姿勢
そうしたことから2022年6月7日に実施された同WGの第32回会合では、0円プランと価格圧搾の関係について総務省が一定の方向性の案を示している。あいにく筆者は日程の都合上、この会合を傍聴することはできなかったのだが、公開された資料を見ると、総務省はpovo 2.0とRakuten UN-LIMIT VIのそれぞれに異なる方向性を示していることが分かる。
まずpovo 2.0に関しては、「モバイル・スタックテストのスキームの中で、必要に応じて、小売料金と接続料等の関係について、価格圧搾の問題がないか、検証・確認を行うことが適当」とされている。
モバイル・スタックテストとは、要は携帯電話会社の料金と、MVNOに貸し出す際の料金を検証し、価格圧搾がないかどうかを検証するもの。そのスタックテストの方法や対象については別の有識者会議「接続料の算定等に関する研究会」で議論がなされているが、現在のところテストの対象となる料金プランは、基本的に競争阻害の対象となるMVNOが「検証すべき」というものになるようだ。
そしてKDDIはモバイル・スタックテスト対象の第二種指定電気通信設備を設置する事業者であり、実際にMVNOに回線を貸している立場であることから、MVNOから要請があればpovo 2.0もモバイル・スタックテストの対象に加えるべきという方針が示された訳だ。ただこれはKDDIの他ブランドの料金プランにも言えることであり、povo 2.0だけに価格圧搾の疑惑がかけられた訳ではなく「他の料金プランと同様の検証対象とすべき」ということのようだ。
一方のRakuten UN-LIMIT VIに対しては、楽天モバイルが現時点で第二種指定電気通信設備の指定を受けておらず、楽天モバイルの回線を借りているMVNOもいない。そうしたことから「価格圧搾の観点から小売料金と接続料等の関係について検証する必要性は乏しい」とし、モバイル・スタックテストの対象にすべきではないとしている。今後第二種指定電気通信設備の指定を受けた際に、必要に応じて改めて検証すべきという考えのようだ。
さらにRakuten UN-LIMIT VIに関しては、価格圧搾よりむしろ携帯大手3社への競争圧力となり、その後の各社の料金引き下げにつながったことから「市場全体として競争の活性化に貢献したという面が大きい」と、むしろ高く評価している印象だ。それに加えて資料では「一般論として、新規事業者によるこうした料金設定について直ちに問題視することは控えるべきではないか」など、新規参入である楽天モバイルがこうした取り組みをしたことへの批判は、むしろ抑えるべきとしている様子も見て取れる。
一連の内容を見ると、月額0円からという仕組み自体が直接価格圧搾につながるものではないと行政側が見ていることが分かるだろう。その根拠の1つとして、総務省はいわゆる「かけ放題」のサービスを挙げており、一部でコストを度外視してしてでも、リスクを取った料金設計をすることは想定し得るものだとしている。
総務省がこのような方針を打ち出した背景には、「月額0円から」であるという理由だけで0円プランを価格圧搾と見なしてしまうと、リスクを取って新しいサービスにチャレンジする事業者がいなくなってしまう懸念があったのではないかと考えられる。実際、2社の0円プランがかなり“攻めた”内容で業界に大きな変化を与えたことは確かで、そうしたチャレンジが失われてしまえば料金プラン、ひいては市場競争自体が硬直化しかねない。
もちろん、povo 2.0は今後モバイル・スタックテストの対象となる可能性もあることから、現時点で0円プランが完全に肯定された訳ではない。だが企業のチャレンジを増やすことは競争加速にもつながるだけに、従来にない仕組みのサービスをある程度認めていく姿勢も必要なことは確かだろう。