長期化する半導体不足や急速に進んだ円安などでスマートフォンの価格高騰が懸念されているが、一方で、価格高騰を見越してよりコストパフォーマンスが高い製品を投入する企業も出てきている。物価高がスマートフォンメーカーに与える今後の影響を確認してみよう。

半導体不足や円安に悩むスマホメーカー

コロナ禍が落ち着いて景気回復傾向にあったことに加え、ロシアによるウクライナ進行の影響による資源などの高騰、その影響を受けて急速に進んだ円安の影響などによって、ここ最近さまざまな商品の値上げが進んでいるというのは多くの人が実感していると思う。その影響はもちろん、スマートフォンにも及んでいる。

スマートフォンはここ最近の半導体不足の影響によって、既に一部モデルで価格上昇やスペックが低下するなどの事例が出てきていたのだが、それに加えて懸念されているのが円安の影響である。スマートフォンなどのIT製品は海外で製造し日本に輸入して販売することが多いので、為替変動の影響を大きく受けやすいからだ。

実際、NLNテクノロジーが販売している中国Nubia Technology製のゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 7」は2022年4月に日本で販売を開始したが、急激な円安の影響を受けて同月に1度、さらに7月には2止めの値上げを実施。当初の価格から2万円もの値上げがなされている。

  • スマートフォンにも大きな影響を与える物価高、市場の動向に大きな変化を与えるか

    NLNテクノロジーが販売するNubia Technology製のゲーミングスマートフォン「REDMAGIC 7」。円安などの影響を受け、発売後に2度値上げしている

とりわけ懸念されているのが、日本で最も人気があるアップルの「iPhone」の、今後発表されるであろう新機種である。iPhoneは毎年秋に新機種を発表する傾向にあるが、その時まで円安が続けばiPhoneの価格に円安の為替レートが反映され、iPhoneの価格が大幅に上昇するのではないかと懸念する声が増えているようだ。

ただ一方で、日本市場では2019年の電気通信事業法改正による端末値引き規制の影響によって、スマートフォンの大幅値引きに慣れている消費者からして見れば端末価格が大幅に上昇したと感じていたタイミングでもある。そうしたことからメーカー側としては、一連の価格上昇の影響を消費者に転嫁することには悩みもあるようだ。

例えば2022年6月16日にオッポの日本法人であるオウガ・ジャパンが発表した「OPPO Reno 7 A」の価格は4万4,800円。2021年発売の前機種「OPPO Reno 5 A」の発売当初の価格が4万3,800円であったのに比べると小幅の上昇にとどまっている。

  • オウガ・ジャパンが2022年6月16日に発売した「OPPO Reno 7 A」。コストアップを企業努力で抑え、価格は前機種と比べ1000円の上昇にとどめたという

その背景について同社の専務取締役である河野謙三氏は、半導体不足の影響は小さいが為替の影響などは大きく受けており、「製造コストが20%上がっている」と話している。だが消費者にそのままコストを転嫁すべきかは社内で議論があったそうで、日本市場全体で3~4万円台の端末に対するニーズが強くなっている現状を受け、今回は企業努力でカバーし価格上昇を抑えたと説明している。

新ブランドであえて攻めに出るシャオミ

一方でそうした国内の状況を見据え、よりコストパフォーマンスを重視したスマートフォンを販売して攻めようという動きも出てきている。それが2022年6月23日、シャオミが打ち出した新ブランド「POCO」の日本展開である。

シャオミは「Xiaomi」「Redmi」という2つのブランドを展開しているが、これら2つが普遍的な層を対象にした製品を提供しているのに対し、POCOはテクノロジー愛好家に対象を絞ったブランドで、なおかつ独立した運営体制を取っているのが特徴だ。実際POCOは、日本においても販売をオンライン主体に絞り、プロモーションは一切実施しない一方で、テクノロジー愛好家が好むハイパフォーマンスな製品を低価格で販売することに力を入れていくという。

  • シャオミの新ブランド「POCO」は他のブランドとは独立した運営体制を取り、販売もオンラインに絞ることでコストパフォーマンスを一層重視するとしている

日本で最初に投入される「POCO F4 GT」からも、その傾向を見て取ることができる。POCO F4 GTはクアルコムのハイエンド向け最新チップセット「Snapdragon 8 Gen 1」や、120Wの急速充電に対応するなど非常に高い性能を備え、その性能を生かせるゲーミング関連機能の充実を図りながらも、カメラの性能をミドルクラスと同等に抑えることや、販路を絞ることなどで価格を抑え、最も安いRAM8GB・ストレージ128GBのモデルで7万4,800円と、他社フラッグシップモデルの半額近い値段を実現している。

  • POCOブランドの新機種「POCO F4 GT」。ハイエンドモデルと同等の性能を持ちながらも低価格を実現する“フラッグシップキラー”という位置付けのモデルとなる

低価格に強みを持つシャオミが、より一層価格を重視したPOCOブランドを導入するに至ったのにはいくつかの要因があるが、値引き規制や円安など、ここ最近の日本市場の動向も少なからず影響しているようだ。端末価格の上昇で高性能なスマートフォンを購入できなくなった人、とりわけスマートフォンに詳しい人達を狙うことで、国内での販売を拡大したいというのが同社の狙いといえるだろう。

多くの企業にとって苦しい状況を招いている現在の物価高だが、それを好機として攻める企業も出てきている。消費者にダイレクトに影響する物価高が、スマートフォンの市場環境を変える可能性は小さくないといえそうだ。