モトローラ・モビリティが初めて防水・FeliCa対応の「moto g52j 5G」を発表するなど、従来オープン市場向けモデルでは消極的だった、防水性能やFeliCaに対応する海外メーカーが急増している。裏を返せばFeliCaなどの搭載だけでは差異化ができなくなりつつあるといえ、今後はハード面以外でのローカライズが問われることになりそうだ。

急速に進む海外メーカーの防水・FeliCa対応

水場でも安心して使える防水・防塵性能や、「おサイフケータイ」などを利用するのに必要なFeliCaは、日本のスマートフォンユーザーにとって重要な存在だが、日本以外でのニーズがあまりないものでもある。そうしたことから日本に進出する海外メーカー、とりわけオープン市場(従来の「SIMフリー」)を主体にスマートフォンを販売しているメーカーは、従来これら機能の採用にとても消極的だった。

その理由はFeliCaなどを追加するのにカスタマイズコストがかかり、製品の値段が上がって価格競争力が弱まってしまうからだ。とりわけオープン市場では、携帯電話会社による端末値引きや端末購入プログラムなどが適用できないことから、端末の価格がダイレクトに消費者の評価につながる傾向が強いこともあって消極的な対応が続いた訳だ。

それゆえMVNOなどの安価なサービスに乗り換えたユーザーが、オープン市場で販売されているスマートフォンに買い替える際、FeliCaや防水性能がないことを不満として挙げるケースが少なくなかった。だがそのことをチャンスとして、逆に防水・FeliCaへの対応を積極化したのが中国の新興メーカーである。

実際オッポは2018年に日本市場に参入し、その年に防水性能やFeliCaを搭載した「R15 Pro」を投入。以後も2019年に投入したミドルクラスの「Reno」シリーズを主体として、防水・FeliCa対応機種を継続的に投入している。

  • 防水・FeliCa搭載はもう当たり前、海外スマホメーカーに問われる新たなローカライズ

    オッポは参入直後の2018年に発売した「R15 Pro」で、初めてFeliCaへの対応を実現。以降は「Reno」シリーズで防水・FeliCa対応機種を投入している

だがより積極的なのがシャオミで、日本参入は2019年末ながら、2021年にはソフトバンク向けに提供した「Redmi Note 9T」で初めてFeliCaに対応。さらに同年にはFeliCaに加え、防水性能にも対応した「Redmi Note 10 JE」をKDDI向けに提供しており、オープン市場に向けても低価格の「Redmi」シリーズだけでなく、上位モデルの「Mi」「Xiaomi」シリーズにもFeliCa、あるいはFeliCaと防水に対応したモデルを積極投入している。

  • 2022年5月30日発売予定のシャオミのスマートフォン新機種「Redmi Note 11 Pro 5G」。オープン市場向けにも投入され、防水ではないがFeliCaには対応している

これら新興勢力が国内向けのローカライズを積極化し、好評を得てシェアを急拡大させていることもあってか、従来防水・FeliCaの対応に消極的だった海外メーカーも対応機種を投入するようになってきた。実際、台湾のエイスーステック・コンピューターは2021年の「Zenfone 8」で防水・FeliCaに対応したほか、米モトローラ・モビリティも2022年5月18日、ついに防水・FeliCa対応の「moto g52j 5G」の投入を発表。オープン市場で端末を販売する主要海外メーカーのほぼ全てが防水・FeliCa対応を実現させたことになる。

  • モトローラ・モビリティが2022年6月の発売を予定している「moto g52j 5G」。同社として初めて、防水とFeliCaの両方に対応したモデルとなる

マーケティングのローカライズが競争を左右

こうした変化は消費者にとって非常に嬉しいものだが、一方でメーカーからしてみれば、ここまで対応機種が増えると、もはや防水やFeliCaの搭載だけでは差異化できなくなってしまったともいえる。

もちろん細かな所を突き詰めていけば、現在も多くの機種が非対応としているNTTドコモの5G向け4.5GHz帯(バンドn79)への対応など、ハード面でのローカライズにはまだ課題がある。だがそれも、5Gの普及とともに対応を進めるするメーカーが増えると考えられることから、ハード面でのローカライズによる差異化はそろそろ限界に達しつつあるともいえるだろう。

そうなると今後重要になってくるのは、ハード面だけに限らないローカライズでいかに日本市場への浸透を図るかである。とりわけオープン市場を主戦場としている海外メーカーは一般消費者に対するブランド認知が弱い傾向にあるので、認知を高め継続的に買い替えてくれるユーザーをいかに獲得できるかが重要になってくるだろう。

それゆえオッポが有名タレントを起用したプロモーションを実施するなど、最近では新興メーカーを主体としてマーケティングに力を入れる傾向が強まっている。中でもここ最近、積極的な取り組みを実施しようとしているのがシャオミで、今後新たに2つの施策を日本でも展開することを打ち出している。

その1つが独自のショップ展開である。シャオミはスマートフォン以外にも多くの製品ラインアップを持つことから、それらを日本でも独自ショップを通じて販売することを計画しているという。そしてもう1つは同社のユーザーに向けた「Xiaomiモノづくり研究所」の発足で、製品のフィードバックを得たり、日本向けに販売するプロダクトの選定などに意見をもらったり、新製品のβテストに参加してもらったりするというものだ。

  • シャオミが国内向けの新たな施策として打ち出した「Xiaomiモノづくり研究所」。ユーザーから製品に関する意見を募るイベントなどを今後実施予定とのことだ

これらはいずれも海外では既に展開しているものであり、日本でもそれらの施策を展開することでブランド認知を高め、ファンの忠誠心を高める狙いがいあるようだ。ハードだけでなくマーケティング面でもローカライズを強め、オープン市場で急拡大したシェアを確固なものにしようとしている様子がうかがえる。

一方で、他の海外メーカーがそこまでのマーケティング施策を取ることができるとは限らない。それだけに防水・FeliCa対応が進んだ今後は、マーケティング面でのローカライズを高めた企業が日本でより支持を集める一方、それができない企業は販売面で厳しくなる可能性があるといえ、その結果としてオープン市場における海外メーカーの淘汰が再び起きる可能性も十分あり得ると筆者は見ている。