「Modular Architecture」。日本ではそのままカタカナで書いてしまうことが多そうだ。「モジュラー化」あるいは「モジュラー設計」という言葉なら、他所の業界でも出てくる。「Modular Architecture」は、それをどう実現するか、という領域の話といえるだろうか。
なぜモジュラー化という考え方が出てくるのか?
ウェポン・システムの分野でモジュラー化という考えが出てきた背景には、ウェポン・システムの高度化、ウェポン・システムを構成する機器や技術の進歩が早くなった事情、そして多用途性や派生の実現しやすさが求められるようになった事情があると考えられる。
ウェポン・システムに求められる機能・能力を実現するにはさまざまな構成要素が関わってくるが、それをすべてひとまとめに、一体のものとして扱うと、後で困ったことになる。
最初に作った状態のままでライフサイクルを終えるのであれば、全体がひとまとめになった状態でもいい。しかし、「処理能力が上がったコンピュータができました」「能力を高めたセンサーができました」といった時に対応が難しい。総取り替えになってしまう。
モジュラー化のためのアーキテクチャを最初に定義して、それに基づいた設計を行っていれば、一部の構成要素だけを新しくするのは相対的に容易になる。それは結果として、相対的に安価に能力向上を実現できる、という話になると期待できる。
また、新たな用途に対応する必要が生じた時、そのために必要な構成要素を付け加えたり、既存の構成要素と入れ替えたりできれば、総取り替えするよりも実現は容易になる。これが「多用途性や派生のやりやすさ」につながる。
それだけでなく、対外輸出の際に「機微に触れる技術は外したい」とか「客先が求める製品を組み込めるようにしたい」とかいう場面でも効いてくる。「うちが提案する組み合わせが最善です。技術的にも優れています」といってゴリ押ししようとしても、買ってもらえない。
ことに無人ヴィークルの分野では、ドンガラ(車両、船艇、飛行機といったプラットフォーム)と、アンコ(そこに組み込むセンサーやコンピュータや武器など)の組み合わせを自由に行えるように、との要求が出る傾向が強い。また、メーカー側もそれを売りにしている。
また、ミサイルは一般的に推進・誘導・弾頭の機能をそれぞれ独立したモジュールにしておいて、個別に交換や更新ができる設計にする。陳腐化・老朽化したものを新しい同等品に変えたり、能力向上版に替えて性能を高めたり、弾頭を変更して別の用途に対応できるようにしたり、といった使い方をする。
モジュラー化のために何が必要か
身近なところで分かりやすい例を挙げると、いわゆる自作PCの分野が近いだろうか。パーソナルコンピュータを構成するさまざまなパーツはそれぞれ、決まった規格の下で作られているから、その規格に合う範囲であれば、要求や懐具合に応じて最善(と思われる)パーツを選んできて組み合わせることができる。
それと同様に、物理的な形状・サイズ、コネクタの種類とピン配置、電気的インターフェイスの仕様、その上で使用するプロトコルの仕様、といったものを最初に規定してしまい、それに合わせてさまざまな武器や機器を作る。そうすれば、自由な組み合わせ、柔軟な入れ替えが可能になる。はずである。
概念的・抽象的な話では分かりやすくないから実例を、と思ったのだが、本連載では過去に、モジュラー設計の例としてイージス戦闘システムと無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)について取り上げたことがある。それと同じではつまらないから、別の例を考えてみよう。
ドイツの造船所、ブローム・ウント・フォス(B+V)が数十年前に売り出した輸出用艦艇で、MEKOシリーズという製品がある。これの特徴が、搭載兵装のモジュラー化設計だ。
艦艇に載せる兵装というと、まず、いわゆる武器として艦載砲やミサイル発射機。センサーとしてレーダーや電子光学センサー。そして、それらをコントロールする指揮管制装置といったあたりが主役になる。どれをとっても、顧客によって「何が欲しい」という要望は違う。馴染みのある国のもの、既存品と同じもの、同盟国と同じもの、自国で作れるもの、といった背景事情があるからだ。
そこでMEKOシリーズは、「搭載する武器が変わっても、設計を大きくいじらずに済むように」と考えた。そこで船体や上部構造に、武器を組み込むための規格化された凹みをいくつか設けた。
そこに搭載する武器の側は、たいてい、甲板の下まで食い込む形で弾庫や駆動装置を備えている。そこで、艦の側の凹みに合わせたサイズ・形状になるように、甲板の下に食い込むあれこれをカバーする箱を組み合わせる。これで、艦と武器の物理的なインタフェースは規格化される。
もっとも、実際にはそれだけの話ではなくて、使用する電源の規格や、指揮管制装置につなぐ際の物理インタフェース・上位プロトコルといった問題もある。本気を出してモジュラー設計にするのであれば、そういうところまで規格を揃える必要がある。
ISOコンテナの活用
最近の艦艇分野では、ISO規格の20フィート・コンテナを入れ物に使う事例が増えている。コンテナの中に電子機器類や操作卓を収めておいて、艦内に搭載したら電源と通信ケーブルを接続するだけで良い、というわけだ。ただし、砲やミサイル発射機は外部に出ていないと仕事にならないから、別個に載せることになる。
ISOコンテナを使うメリットは、物流分野で世界的に使われている規格品だから、保管や輸送や積み下ろしの際に都合が良い、というあたり。中には悪知恵の度が過ぎて、ISOコンテナの中にミサイル発射機を隠し持った製品を考え出した人までいる。これを貨物船に載せていても、外から見ると無害なコンテナと区別がつかないので、実に危なっかしい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。