海軍の戦闘場面のうち、無人化があまり進んでいなかったのが、対潜水艦戦闘(ASW : Anti Submarine Warfare)である。しかし最近では、この分野でも無人ヴィークルを持ち込む動きがポツポツと出てきている。
ASWの基本的な流れ
ASWを含む水中戦の話は第92回~第100回で、ASWに関連するソナーの話は第197回~第207回で、それぞれ取り上げたことがある。海中に潜む潜水艦はレーダーによる探知ができないので、基本的には音響を用いる探知手段、すなわちソナーに頼っている。
そのソナーには、自ら音波を出す「アクティブ・ソナー」と、聞き耳を立てるだけの「パッシブ・ソナー」がある。前者は「捜索している誰かさんがいる」ということが敵潜にもわかってしまうが、後者は聞き耳を立てているだけだからわからない。しかし、前者なら距離と方位の両方がわかるのに対して、後者は方位しかわからない。
ソナーで探知あるいは聴知しただけでは、まだ交戦はできない。敵潜の正体を識別したり、針路や速力をつかんだりといったプロセスも必要になる(その辺の話は過去にも書いているので、ここでは割愛する)。その上でようやく、交戦の手段を決めて、魚雷や爆雷などを撃ち込むことができる。
この一連のプロセスのうち、無人化・自動化できそうな分野は何か。それは主として、ソナーの展開であろう。特に、パッシブ・ソナーによる監視は継続的に行わなければならないので、長時間に及ぶ。
米海軍や海上自衛隊は、SURTASS(Surveillance Towed Array Sonar System)という大がかりなパッシブ・ソナーを曳航する「海洋監視艦」を保有・運用して、敵潜の動向監視や情報収集を担当させている。だが、フネに人を乗せて長期航海させなければならないのだから、それなりにコストはかかる。
シー・ハンター
そこで、米国防高等研究計画局(DARPA : Defense Advanced Research Projects Agency)が試作して、後に米海軍に移管したのが、MDUSV (Medium Displacement Unmanned Surface Vehicle)こと「シー・ハンター」。全長130フィート(39.6m)の三胴船で、レイセオン社製のMS3(Modular Scalable Sonar System)という中周波ソナーを搭載する。
DARPAがリリースしている動画があったので、紹介しよう。
2017年12月にレイドス社が、2隻目の「シー・ハンターII」を3,549万ドルで受注しているから、見込みはあると判断しているようだ。なお、MDUSVは当初、計画名称をACTUV(Anti-Submarine Warfare Continuous Trail Unmanned Vessel)といっていた。
MDUSVの狙いは、敵対的環境(contested environment)で人命を危険にさらさずに、常続的なソナー監視と潜水艦の捜索を実現すること。人が乗っていなければ、疲れたり眠くなったりトイレに行きたくなったりしない。すると、指示された通りの航路を行き来しつつソナーを作動させて、「潜水艦はいないか~」と捜索し続けるには好都合だ。なにか探知したら、データは直ちに衛星通信経由で送る。
ただし当然ながら、他の行合船と接触・衝突する危険性は存在するから、自動的に回避行動をとれるようにする必要がある。実は、MDUSVの開発における要点がそこ。肝心のソナーの話よりも、それを載せるプラットフォームの方が課題になっているわけだ。
あと、「無人だから敵が寄ってきて拿捕しようとしても抵抗の手段がない」というのも気になるところだが、それをどう解決するつもりなのかはわからない。
もっとコンパクトなところで最近、イスラエルが似たようなことをやっている。エルビット・システムズ製のヘリコプター搭載用吊下ソナー・HELRAS(Helicopter Long-Range Active Sonar)を、同じエルビット・システムズ製の「シーガル」という無人艇に載せて走り回らせようというもの。
シーガルは全長が12m足らずの小型艇だから、そんな重装備にはできない。その代わり、安価だし、小さいから目立たない。運用に際しての基本的な考え方は「シー・ハンター」と同じで、あくまで捜索専用である。
ただ、そこで「自律的に航行・回避ができる無人艇から作ってしまおう」とするアメリカと、既存の小型無人艇でとりあえず使えるものを作ってしまおうとするイスラエルのアプローチの違いは興味深いものがある。
ソノブイ散布UAV
「シー・ハンター」にしろ「シーガルASW型」にしろ、使用するのはアクティブ・ソナーである。それに対して、ソノブイ散布を無人化しようという構想もある。
まだ構想段階にとどまっていて、実用事例には至っていないが、ソノブイ・ランチャーを搭載したUAVが展示会に姿を見せた事例はいくつかある。UAVは自律的に測位してプログラムされた通りの経路を飛行できるから、パターン通りにソノブイを展開するぐらいのことはできる。
その一例が、ベルのティルトローター型UAV「V-247ヴィジラント」。これのペイロード・ベイにソノブイ・ランチャーを組み込んだ状態の模型が、実は「国際航空宇宙展2018」(JA2018)に登場していた。
実大模型ではなくスケールモデルなのでピンとこなかったが、実はV-247という機体、機内搭載ペイロードが2,000lb(907kg)もある。だから、タイプAソノブイ(全長910mm、直径123mm、重量11~14kg程度)のランチャーぐらいは組み込める。
また、P-8Aポセイドン哨戒機のソノブイ・ランチャーを担当しているL3ハリス社では、MLT(Modular Launch Tube)というソノブイ発射筒を開発した。空気圧でソノブイを射出するもので、たとえばこれを9基束ねてUAVの翼下に搭載できるようにする。これもタイプAのソノブイに対応しているので、もっと小型のタイプFやタイプGなら、搭載数を増やすことができる。
といっても、大型の有人哨戒機と比べるとソノブイ搭載数は少ないので、長時間の哨戒には難がある。それは機数を増やして補う考えのようだ。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。