「メール見落としておりました」「なぜか迷惑フォルダに入ってました」

これは担当から何らかの催促を受けた時に返すメールの常套句だ。これに加えて「原稿はできていたけど送信するのを忘れていた」というのもある。

Twitterには「ヤバい担当エピソード」の方があふれているので、編集者というのは全員アンドレイ・チカチーロの生まれ変わりで、漫画家はそれに振り回される被害者と思っているかもしれない。

しかしそれは編集者が立場上、取引先とのやり取りを時には漫画化してまでSNSに晒すというヤバい行動を取らないからそう見えるだけであり、ヤバい奴率は漫画家の方が遥かに高いと思われる。

実際私も常に催促される側であり、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』でいうなら、私がディカプリオで担当がトム・ハンクスだ。

しかしごく稀に、今日もキャッチミーと行きますか!と思ったらディカとトムが入れ替わっている『君の名は。』が始まるケースがある。

つまり担当の方がメールの返事を寄越さず、こっちが催促をしなければいけないのだ。

そして冒頭と全く同じ言い訳をしてくるので、確実に「嘘だ」と思うのだが、証拠はないし、何せいつもは自分が同じ嘘をついているので怒るに怒れない。

それでも、次同じことがあったら「お前はいつも俺のメールを見落とすな、ビジネス用のメールにカレー沢という文字列が並んでいるのが視力を失うほど耐え難いか?」と詰めてやろうと思うのだが、そういう時に限ってちゃんと返事を返してきたりする。

この「相手がキレるギリギリのライン」を見極めている感じも自分と被っていて余計腹が立つ。

しかし、そんな俺たちも「メールが届いていません」という言い訳はあまり使わない。メールが見当たらない時はあるが、どうせ届いたものをこっちが消しているに決まっている。

そもそも相手に送信履歴が残っているので、届いていないというのは無理がありすぎ、火に油を注ぐ結果になりかねない。しかし、ごく稀にシステム上の都合で本当に届いていない場合もなくはない。

auの通信障害に続き、Teams・Slackの不調で混乱

  • メールの返信遅れ、昔と比べて「理由」を見つけにくくなってますね……

    メールの返信遅れ、昔と比べて「理由」を見つけにくくなってますね……

通信手段が発達するのに反比例して、我々は音信不通の手段を奪われてしまった。

ガチの失踪ならいくらでもできるが、連絡が取れない正当な理由というのは年々失われており、「電子機器が全部壊れた」「64時間ずっと寝ていた」「スマホを電子レンジに入れていた」「青ヶ島にいた」など、事実はどうあれ、嘘だと思われてしまうものばかりになりつつある。

そういう意味では先日のKDDI大規模通信障害は、現代では珍しい「どうしようもない理由での音信不通状態」が起こったといえる。

さらにKDDIに続き、システム側の問題でやり取りができないという現象が最近立て続けに起こったようである。

「Teams」そして「Slack」が相次いでダウン、一時期使用不可能となり、各地で業務に支障をもたらしたという。

などど伝聞したことをそのまま書いているが、KDDIに続いてどちらも私には無影響であった。

そもそも両方知らないツールである。「Teams」なんて名前からして私に未来永劫無関係だと断言できる、私の仕事は常に「only」または「loneliness」なのだ。

どうやら両ツールはビジネスチャットツールであり、これらが使用不可能になったことにより業務が滞ってしまった職場も多かったようである。

私のTwitterタイムラインでも、それらが使えなくなっていることに言及しているつぶやきが散見されたが「ヤバい」「詰んだ」という悲観的なつぶやきばかりで、「仕事しなくていいドン!」という確変突入を喜ぶつぶやきが見当たらなかったあたりに病理を感じる。

みんな私のように社会的な影響がゼロの仕事をしているわけではないので、そんな安易に「仕事しなくてよくなった」とは思えないだろうが、何が起こっても第一に「仕事ができなくても困る」という発想は、「大災害の日に出社」や、「親が死んだときですら半休」などの奇行につながるので注意が必要である。

ちなみに私は担当がメールの返事を返してこないときは「仕事をしなくてよい」ということだと判断して、ギリギリまで催促メールを出さない。

流石にもう間に合わないという状況になったら催促するのだが、そういうのっぴきならない状態まで放置した方が「なぜ返事を寄越さなかったのだ」と、担当をより鋭く詰められるので一石二鳥である。

もちろんその後困るのは自分だが、担当を鬼詰めするためだったらこちらも多少の痛みは厭わない。

しかし、ギリギリまで貯めて怒る計画で「原稿料が振り込まれていない」という大災害を3カ月黙っていたことがあるのだが、そろそろこっちも噴火しますか、というところで、相手が気づいてしまい何となく怒り損ねるということもあった。

「何の気兼ねもなく怒れるチャンス」というのは意外と少ないのだ。そういうチャンスを発見した時は、逃さないようにその場で怒ることをお勧めする。