半導体の製造・生産に特化したユニークな国際会議「半導体生産国際シンポジウム(26th International Symposium on Semiconductor Manufacturing;ISSM 2018)」が2018年12月10日~11日に東京都内で開催された。
主催は、米国電気電子技術者協会(IEEE)、国際半導体装置材料協会(SEMI)、日本半導体製造装置協会(SEAJ)、台湾半導体工業会などで、応用物理学会とエレクトロニクス実装学会が後援している。
ISSMは「半導体製造のノウハウをサイエンスに」を基本スタンスに、1992年以来、毎年、半導体生産技術者の議論・交流を通じて、新たな半導体生産技術の芽を育てると共に、半導体生産技術を科学する新しい流れを作り出してきた。最近のISSMは、半導体製造、装置・材料、計測・検査のみならず、ITやソフトウェア分野の研究者・技術者をも糾合し、21世紀の半導体産業の新たな飛躍に貢献しようとしている。
今回は基調講演7件、チュートリアル(教育的講演)2件、9カ国31組織から寄せられた一般講演54件(ポスター発表を含む)で構成された。ISSM 2018の様子を、注目テーマ(半導体製造でのAIの活用、中国半導体製造事情、将来の半導体デバイス・製造技術)や高い評価を受けた技術発表を中心に複数回に分けてお届けしたい。
半導体製造におけるAI活用が活発化
今回のISSM 2018では、半導体製造時の生産性向上に向けた「人工知能(AI)の活用」に関する発表が急増し、最大のトピックスなったことは注目すべき点であろう。
IoT時代を迎え、さまざまな種類の半導体製造装置やプロセス状態の多角的なセンシング技術がさらに進化してきており、半導体工場では多数のセンサで収集された大量のデータを扱えるようになった。しかし、当初はこれらのデータは人手で多変量解析し、判断し、現場へフィードバックをかけていたのだが、データ収集が先行し、データの有効活用は十分とは言えなかった。
しかし、最近のAI技術の進化とIoT技術との融合により、人手を介さないビッグデータの処理が可能になり、リアルタイムのプロセス最適化が可能になってきた。IoTやAIが単なるブームの段階を超え、半導体製造分野でも実用化の華を咲かせようとしている。これによりプロセス制御性の向上や設備の生産性向上、資材費低減活動などに新たな方向性が見出されることとなり、高効率のスマートファブの実現が可能となった。IoT/AIの追い風を受けて半導体製造はダイナミックに変貌を遂げようとしている。
AIを活用したスマートファクトリを目指すSK Hynix
ISSMには半導体技術者ばかりではなく、IoT/AI技術関係者も参加するようになったため、日本の半導体製造業の凋落とともに減少傾向にあった参加者数も前回より多く225名となった。7件の基調講演のうちの1つはズバリ、半導体量産へのAIの活用を取り上げて。韓SK HynixのVice President・技術革新チーム長のJ.C.Yang氏が「半導体大量生産においてインプットを最小にして高品質と高生産性を得る戦略」と題する基調講演にて、同社が全社を挙げてマシンラーニングやディープラーニングによるAIを最大限に活用しスマートファクトリ化を実現したことを明らかにした。
Yang氏は「半導体の製造現場では、パターニング不良やプロセス欠陥発生などの問題が繰り返し起こっているにもかかわらず、いままでは技術者個人のスキルと経験でプロセスの微細化になんとか対処してきた。しかし、今、開発現場はスケーリングの限界を打破するための新材料や新構造の開発に苦労している。一方、製造現場ではますます増えるプロセスフローやウェハ投入から完成に至る多数のプロセス間の相互依存性の複雑さに直面している。特に、最近はプロセスステップ数が増えて生産サイクルタイムが長引くことで、不良プロセスを特定し問題解決し、デバイス特性を向上させるのが難しくなってきた。もはや技術者の経験やスキルに依存した伝統的な問題解決の方法は、現在および将来の複雑な状況では有効ではなくなってきた」と述べた。
そして「半導体の大量生産を実現するためには、シリコンウェハをはじめとする材料、技術者やオペレーターなどの人材、プロセス・材料などの設計、製造装置、付帯設備などのインプットを最小限に抑え、最大のアウトプットを得るための新たな有効的な戦略が必要だ」としてSK Hynixでは、全社を挙げて機械学習(ML)によるプロセス最適化、ディープラーニングを活用したFDC(Fault Detection and Classification:装置異常検出・分類)、およびAI/IoTを活用したTTTM(Tool-to-Tool Matching:機差調整)を活用しているとした。
メモリ性能におけるマシンラーニング活用
半導体メモリの製造ラインで、例えば1人のエンジニアが100台の製造装置を担当し、1台当たり平均20プロセスを管理し、各プロセス当たり13パラメータを制御しなければならないとすると、このエンジニアは26000ものパラメータを同時に制御する必要性に見舞われることとなる。
これは、もはや人の手で処理できないビッグデータの領域であるといえる。そのため、従来はわずかなデータを基に人手を介したAPC(Advanced Process Control:先進プロセス制御)でプロセスを制御できたが、多数のセンサで収集したビッグデータに関してはマシンラーニングを用いて人手を介さずパラメータを自動的に最適化する必要があるという。
プロセス異常検出および分類を自動で診断
装置やプロセスの異常検出および分類(Fault Detection and Classification:FDC)も従来のような技術者の経験によらず、自動診断の方向にシフトしている。データを連続的に収集し、ディープラーニングに基づく多変量解析で人手によらないFDCを行ない、プロセスや装置異常を改善し、不良チップを減らしてアウトプットを最大化することを目指しているという。
装置間の微妙な機体差をAIで分析して歩留まり向上
DRAMの量産工場では、同じ装置が数十台並んで稼動しており、同じプロセスレシピでウェハを処理しても機差があるためまったく同じ結果が得られるとは限らない。
これが歩留まり低下の一因となっているわけだが、この対策として、装置に多数のセンサをつけてデータを収集し、AIを活用して分析し、製造現場へフィードバック。そのフィードバックをもとにプロセスパラメータの調整を行うことで機差の解消を図っているという。
「SK HynixではこれらのAIベースの半導体製造制御を統合してスマートファクトリの実現を目指して日々活動している」と同社技術革新チームを率いるYang氏は述べている。また、あくまで目標とはしながらも、「市場の需要に応じた適切なサイズの工場を建設し、AIを活用した装置異常の予防保全を徹底することで、市場の需要に適切に対応できる生産体制を敷くことが可能になる」との見解を示し、今後もAIを活用して、さらなる生産性の向上を目指していくことを強調していた。
(次回は1月10日に掲載します)