最近、トイレが変わった。最新のカタログに目をやると、トイレが大きく進化しているのがわかる。たとえば、以前のトイレにあって、最近のトイレになくなったものがある。それは何かというと、水を貯めておく「タンク」だ。古い型のトイレは、腰かけると背後霊のようにタンクが背中あたりに存在していた。今、ショールームに足を運んでみると、そこに並んでいるのはタンクが見あたらない、形のすっきりしたトイレが主流だ。

このタンクレスのトイレがここ2年くらいで、大きく伸びたのはパナソニック電工の全自動おそうじトイレ「アラウーノ」のヒットが一因となっている。アラウーノは「節水」「ラクラク清掃」といった点をウリにして消費者に訴えた。主婦にしてみれば、水道代が安くなるとか、掃除がラクという話に弱い。狙い通り、広く支持を得て売り上げを伸ばした。

これまで、トイレの市場といえばTOTOとINAXの2強だった。今でも、順位に変わりはない。だが、パナソニック電工の追い上げには無視できない勢いがある。その中で、TOTOはどう打って出るのか。などと思っていた矢先にテレビを眺めていたら船越英一郎出演のサスペンスドラマ風のTOTO CMが。そんな掟破り? なCMで新製品を大々的にアピールする、TOTOのテクニカルセンターに今回はお邪魔させてもらった。

トイレ業界は何を競っているのか

新商品の名は「ネオレスト ハイブリッド」シリーズ。「AH Type」「RH Type」の二種類が用意されている。なぜ、二つのデザインを用意したかは、後ほど説明するとして、とにかく、この商品を味わうと、なぜTOTOがずっとこの市場でトップの座についていたのかがわかってくる。「節水」「ラクラク清掃」といった点でもちろん優れた性能、機能性を出している。しかも、そのアプローチの手法が、他社の模倣や新しいものへの迎合といったセコい手ではなく、正々堂々と自社独自の設計思想を貫いているところが格好いいのである。TOTOは昔からある古い会社で、申し訳ないけど、「格好よさ」には縁のない会社だというイメージが強かった。でも、設計思想とか、経営哲学とかに触れると、魅力的なところがある。今回は、意外と(という言い方は失礼だけど)、とにかく格好いいTOTOとそのトイレ「ネオレスト」の最新商品を紹介しようと思う。

ネオレスト ハイブリッドシリーズ「AH Type」。AHでは直線的なデザインを採用している

新しいネオレストの特徴は「節水」、洗浄水量4.8リットルは現時点で国内最小である。ここ何年か、トイレメーカーの節水競争はすごい。戦後から1970年くらいまで、トイレは20リットルも水を使っていたという。2リットルのペットボトル10本分だ。TOTOの浅妻令子さん(東京広報グループ)によると、その後は13リットル、8リットルと、どんどん水量は少なくなっていった。

ネオレスト ハイブリッドでは、タンクを内蔵してすっきりとしたデザインに。さらにタンクと水道直圧式の双方のメリットを融合させた「ハイブリッドエコロジーシステム」を採用した ※写真は従来モデル

節水の競争が激化したのが、世の中で少しずつ「エコ」が意識され始めた2006年。それまではパナソニック電工が1995年に洗浄水量6リットルのものを発売。業界最小の水量とされていた。そこへINAX、TOTOが6リットルのトイレを開発して並ぶ。さらにその直後、パナソニック電工がアラウーノで5.7リットルを実現させ、一歩リード。わずか300ミリリットルであるが、節水No.1になった。対するTOTOも負けていない。2007年に5.5リットルのネオレストを発売してトップに返り咲く。そこに横やりを入れてきたのはINAXで、5.0リットルを市場投入。そして、2009年になって、TOTOが今回のネオレストで国内最小、4.8リットルを実現させた。

トイレ業界には、激しい"洗浄水量"争いが

とはいえ、これで決着がついたわけではない。明日、私が気がつかない間に、INAXかパナソニックがさらに、水量が少ないタイプを発表してしまうかもしれないのである。どのメーカーが勝ったとしても、消費者にとって節水は水道代が節約できるから、うれしい限りなんだけど。

節水もとことん徹底している

ネオレスト ハイブリッドシリーズのことを、浅妻さんは、「環境にも、使っている人にも、心地いいトイレ」だと表現する。つまり、今回のネオレストの特徴は環境への配慮。節水、省エネが徹底されている。

節水だって、「4.8リットル」という数字を出しただけではない。というのは、先に書いた4.8リットルというのは、「大」「小」でいえば、「大」のときの水量だ。新製品の節水は「大」だけではなく、「小」のときの節水も考慮されている。

「eco小」ボタンでの洗浄水量は3.8リットル。4.0リットルの「小」と比べて0.2リットルの差だが年間を通した節水効果は高いという ※スティックリモコン

それは何かというと、今回、新しく登場した「eco小」ボタンがそうだ。多くのトイレの場合、「大」「小」の二つのモードがある。同じ「小」の用をたしたとき、実は、必要な水量は女性と男性では違うのである。今の「小」は、トイレットペーパーもきれいに流れるように設計されている。でも、紙を流さないときは、もっと少ない量の水で十分なのだ。そこで、そのムダを省くために登場したのが「eco小」(3.8リットル)なんである。男性は「小」ではなく、「eco小」が推奨なのである。

ウォシュレット機能も進化。連射される水玉に大小をつけ、汚れ落ちをよくしたほか、節水効果もある「新ワンダーウェーブ洗浄」を採用している ※フラットリモコン

そのほか、ダブル保温便座といって、ふたと便座に断熱材を入れて、熱を逃がさないように工夫したものを搭載している。これは省エネに貢献する機能だ。もうひとつ節電でいえば、「お任せ節電」。夜中など使わないときは、そのことを学習して、便座の温度を自動で下げて節電モードになる機能も付いている。昼間、家にだれもいないような家庭は昼間に節電モードになる。単に、節電するだけでなく、利用者の使用パターンを学習して、便座の温めが決まるのである。なんとも賢いネオレスト ハイブリッドシリーズ、AHとRH。そのほか、環境へ配慮した魅力的な機能がたくさんついている。詳細は次回に譲る。