シャープが今春発売した「プラズマクラスターサーキュレーター PK-18S01」。同社初のサーキュレーターとして、性能面だけでなく、インテリア性の高さでも人気を集めている。本製品の商品コンセプトや開発秘話を担当者に語ってもらった。

  • シャープの「プラズマクラスターサーキュレーター PK-18S01」。ファブリック調のデザインを採用するなど、インテリアとの調和を意識したデザイン性でも注目を集めている

本製品のデザイン上のコンセプトを定めるにあたり、サーキュレーターの設置状況や利用状況の調査が行われたという。商品企画担当の同社 プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 国内PCI商品企画部 参事の馬場木綿子氏は次のように説明する。

「まずは市場調査として、SNSや通販サイトのレビューなどをチェックした結果、サーキュレーターがさまざまな目的で使われていることがわかりました。そして、設置方法も床置きだけでなく棚の上であったり、いくつかのパターンがあることがわかりました。そこで、サーキュレーターを真上から下向き50度まで送風できるようにして、それをデザインに反映しようと考えました」

  • サーキュレーターの設置場所やスタイル、利用方法などさまざまなパターンをイメージして形状が検討された

設置場所についても、リビングであったり、寝室、小部屋であったりいろいろなところで使われている。そこで重視したのはインテリアの親和性。同社デザインスタジオ デザイナーの岡勇樹氏は「インテリアへの親和性を意識して外観の仕上げはファブリック調を採用し、製品の全体的な造形は外観の仕上げと相性の良い丸みを帯びたやわらかな形でデザインしました。樹脂素材だけど、高品位、完成度の高いものを目指しました」と説明した。

本製品のサーキュレーターとしての機能面でのこだわりの1つとして低騒音性が挙げられる。最大風量の時の運転音は49dB、寝室(約8畳)に適した風量4の運転時では34dBにまで抑えられている。

シャープでは、これまで"ネイチャーテクノロジー"と呼ぶ、自然界の動植物の形態をヒントに製品に活かした技術を数々採用してきたが、今回注目されたのは"フクロウ"だという。

「弊社ではドライヤーやリビングファンの羽根の設計に、アマツバメやアサギマダラ(蝶)など生物の形態からヒントを得た“ネイチャーテクノロジー”を応用しています。今回、実は当初は別の技術で羽根の設計を進めていたのですが、サイズ感などでベストな解ではなく、風量と運転音の両立で行き詰ってしまいました。そこで風量を向上させながら静音性と両立させる方法をネイチャーテクノロジーの部門に相談したところ、候補に挙がったのがフクロウでした。夜行性のフクロウは夜間に地上の獲物に気づかれずに捕獲するために、大きな翼でゆっくりはばたきながら音を抑えて飛翔するという特徴があります」と馬場氏。

  • "ネイチャーテクノロジー"と呼ぶ、生物の形態からヒントを得た応用技術が採用された過去のリビングファンの例。今回は"フクロウ"の翼に注目した

そこで、フクロウの羽根の断面形状を応用した羽根の試作を使ったさまざまな検証が行われた。「羽根の大きさや高さを変えて、それらを組み合わせた試作機を何十個も作っては確認しました」と語る。

しかし、その過程は1つ条件を変えると別の要件が成り立たなくなるといったような紆余曲折の繰り返しだったいう。岡氏は次のように明かす。

「例えばファン形状が変わると気流が変わるため、変更の都度、送風部の前面側と背面側の2つのグリルの形状も性能面とデザイン面から精査して調整を重ねて行きました。特に背面側のグリルはもともと側面側には出てこない形状でしたが、性能をさらに向上させるために最終的には側面側にまで出すことになりました。送風部の印象に大きな影響を与えるエリアですので、背面の格子が側面に心地よく回り込むように意識しながら調整をしました。その結果、送風性能はもちろんのこと、見た目としても大風量を感じさせる機能表現に至れたと思っています」と岡氏。

  • ファンだけでなく前後のグリルの形状もさまざまなデザインや設計を検証し、細かな調整がされている

外観上は、外側にファブリック(布目)調のデザインを採り入れているのも特徴だ。岡氏は、その意図や経緯について、「最初はメタリックなデザイン案もありました。しかし、インテリアとの親和性を考え、布目調の仕上げで、それを素直に体現できるやわらかな造形のデザインを採用しました」と説明した。

ファブリック調のデザインは、塗装ではなく、金型にレーザーで特殊な加工を施し、樹脂にパターンを彫り込んで仕上げられている。

「品位や風合いを出したいというのがあり、金型に布目調のパターンを彫り込みました。今回は、様々な布目調の壁紙や建材のシートからいくつかの候補を選定し、生産現場と実用化に向けて様々な調整を行いました。この方法により、風合いのある凹凸感があり、光の当て方によって変化する表情によっても品位を出すことができ、他社製品との差別化にもつながったと思います。塗装加工の場合には、塗装部分が不純物となり、塗装された部分をリサイクルして再利用することが難しくなるのですが、金型にパターンを彫り込んでいるため、その懸念がなく、環境負荷にも配慮することができました」(岡氏)

  • 表面に施されたファブリック調のデザインは塗装によるものではない。金型に布目のデザインを彫り込み、樹脂で成型されている

本製品を手にした際に、光の当たり方や設置場所により、微妙に表情が変化するデザインの美しさに目が留まった。品あるデザイン性はこうした質感へのこだわりにあると納得した。

  • シャープ デザインスタジオ デザイナーの岡勇樹氏(左)とプラズマクラスター・ヘルスケア事業部 国内PCI商品企画部 参事の馬場木綿子氏

後編に続く)