前編から続く)

日立グローバルライフソリューションズが2023年10月に発売した、ビルトインタイプのIHクッキングヒーター「火加減マイスター」シリーズの最新モデル。グリル内に搭載したカメラによって調理中の庫内の様子を撮影し、トッププレート上のカラータッチ液晶画面でリアルタイムに映し出すことができる機能を実現した最新鋭の製品だ。

  • 日立グローバルライフソリューションズの「火加減マイスター」。グリル部にカメラと操作部にカラータッチ液晶を搭載した業界初のIHクッキングヒーターとして、2023年10月に発売された

    日立グローバルライフソリューションズの「火加減マイスター」。グリル部にカメラと操作部にカラータッチ液晶を搭載した業界初のIHクッキングヒーターとして、2023年10月に発売された

カメラと並んで目玉機能として挙げられるのは、「カラータッチ液晶」を採用した操作部。天面のクッキングヒーター部の中央付近に、解像度800×480ピクセルの5インチのIPS液晶が搭載されている。設計を担当した、日立グローバルライフソリューションズ ホームソリューション事業部 生活家電本部 第三設計部 技師の関 真人氏はその理由を次のように話した。

「選定した際に他の要件を満たしていて都合がよかったので、フルHDの解像度のカメラを採用しています。イメージセンサーはフルHD以外もいろいろと検討しましたが、素子サイズが結構違うんです。レンズとの組み合わせで画角が変わったりもしますので、結果的にフルHDのスペックになったという流れです。ただ、カラータッチ液晶画面のモジュールが対応できる液晶の画素数はそれほど大きくないため、そのまま800×480ピクセルで出力しています。見やすさとしてはそれぐらいの画素数でも十分ですので、カメラ側は画質を少し落として表示させています」

カラータッチ液晶を現在の位置に搭載するうえでは、安全性が重視された。「従来からキャラクター液晶とかドット液晶は採用していましたが、タッチ操作への対応は初めて。まずはやはり危険性を懸念する意見が多くありましたね」と、同事業部 環境機器事業本部 環境機器商品企画部 主任技師の北嶋正氏は語った。

そこで採られた方策は、エリアを限定したタッチ操作の対応だ。5インチの液晶画面のうちタッチ操作は全面が対応しているわけではない。次のような理由からだ。

「鍋を加熱している時に、指を近くまで持ってきて操作すると、接触して火傷したりする危険性があります。そこで熱源に近いカラータッチ液晶の上側は、表示だけでタッチ操作はできないエリアとして設定しました。その中で操作のUIなどを全部決めてもらいました」(関氏)

5インチの解像度800×480ピクセルのカラータッチ液晶を採用したことにより、操作上のUIとしての自由度が広がる。画面に表示される情報の構成やレイアウトなどUIデザインを担当した、日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ UXデザイン部の日下部結女氏は次のように説明した。

「デザイン側では、液晶画面上部から約30mmのエリアには指を触れさせるようなボタンを配置しないようにしたり、指でボタンを押しやすいよう、大きさや距離感に配慮しています。フォントに関しては、あらかじめ実装できるシステムフォントが決まっていたのですが、今回はメニュー画面の背景に写真を入れたりしたことで、そのままでは視認性が確保できない場合が多くあり、その上に文字を重ねるには後ろに影をつけないと見えづらくなってしまいました。そのため、システムフォントでは視認性を保てなかったため、太字の書体にしたり、影を付けたフォントを全部画像として書き出すことで、見えやすくなるよう工夫しました。画面を1つ1つ全部画像のパーツに切り分けてレイアウトしていくので、最終的に2500枚ほどのデータになりました。デザインを少し変えようとすると関連したパーツを全部変えなければならず、それもとても大変でした」

  • 操作部にカラータッチ液晶を採用しながら、従来同様、高齢者など幅広いユーザーが使用することを想定して手前側の操作部も残した。カラータッチ液晶を採用するにあたっては、加熱中の鍋に手が触れないようにするなど安全性を重視して配置なども決められた

  • 各コンロの温度設定の表示画面。左下のカメラのアイコンをタッチすると、グリル庫内の映像に切り替わる。1つの画面で直観的にわかりやすいようにいくつものパターンが検討されたという

  • 火力調整は、従来の操作部と同じ感覚で行える操作画面が採用されている

メニューを選択する画面は、全面にサンプルの写真があり、それを背景とした上に選択ボタンが表示される、これまでにない斬新なレイアウトが採用されている。

「カラータッチ液晶を搭載するので、大きな写真も入れるというのは最初から決めていました。最初のうちはオーブンレンジと同じように、ボタンの一部に写真を配置するデザインを想定していたのですが、途中から日下部の提案で今のデザインに変わりました。これまではこういった写真はだいたいカタログとか取説に使われているデータを使っていたのですが、背景に写真を使うことになり、文字の配置などに配慮したオリジナルの写真が必要です。通常、取説を制作するのはずっと後のスケジュールなのですが、それでは製品への実装に間に合わないので、今回はデザイナー側で先にイメージを伝えて、それに合わせて早めに写真を撮影してもらっています。デザイナーがディレクションをしているので、これまでの製品の写真よりも洗練されていますよ」(北嶋氏)

  • オートメニューの画面。背景に写真を用いることでイメージをしやすくした

  • 検討段階での操作画面の一例(写真の液晶ディスプレイは製品組み込みのものとは異なります)

パソコン上でデザインした画面と、実装されたガラスの液晶上で表示された画面とは別物だ。視認性や色味などを実際に目で見て確認する必要がある。「我々がデザインしたものはあくまで机上のもので、液晶画面上に実際に表示された色味まではわかりません。この色の差だったら見えにくいなとか想像しながら調整するのですが、実装の液晶画面で表示してみたらクリア過ぎていて雑然すぎると感じて変更したりもありました。実機の液晶と検討用に使用していた液晶でもまったく違うし、ガラスの色味もまた異なるので、実機を目で見て確認することもとても大事なんです」と日下部氏。

というのも、実はガラスには着色がなされているという。「耐熱性が非常に高く、かつ収縮しないガラスを採用しなければならないのですが、そういった素材はとても限られています。我々が使っているものはオレンジ味が強いため、グレーに見えなかったりといったことがあり、下にある部分で青味を強くして補正をしたりしているんです。でも初めて実機で確認してみたところ、非常にキレイで、それまでの心配はまったく無用だったみたいな例もありましたね」と北嶋氏は補足した。

  • 試作・検討段階では、小さな液晶ディスプレーに画面を出力して見え方などの確認が行われるが、実装される液晶では耐熱ガラスが上部を覆うので、色味や画面の印象が異なる可能性もある

  • デザイナー陣の“密かなこだわり”として明かしてくれた、起動時のアニメーション

北嶋氏によると、製品全体の外観のデザインで意識しているのは、「システムキッチンとの相性や調和」と語る。

「デザイナーというのは、どうしてもその製品自体の恰好よさを追い求めていろいろと付け足したりしてしまいがちなのですが、ビルトインのIHクッキングヒーターは最終的にはシステムキッチンの一部として使用されるので自己主張しすぎるのは禁物です。キッチンに入れた時にその一部に見えるように、落とし込んでいく、まさに弊社がデザインフィロソフィーに掲げている"Less but Seductive (一見控えめながら、人々を魅了するモノのあり方)”そのものです。今回もシステムキッチンメーカーの商品開発の方にもご意見いただいて、デザインを進めています。素敵なキッチンに入れてもらって、購入を検討している方がしっかりとイメージができた上で欲しいと思ってくださるようなものをめざしており、そういう気持ちになるような商品デザインを大切にしています」

その上で、今回の製品のデザインにおいて特に配慮したポイントとして「要素を減らす」ことを挙げる。

「ビルトインなので、最終的にシステムキッチンに入った時にはもう部品の一部でしかなくなりますから、要素はやはり少ない方がいいです。システムキッチンの扉幅をつかったラインデザインのハンドルは各社それぞれにあります。ハンドルが右側にもあるのは最近のシステムキッチンにこういうデザインが多いからです。そこにこの製品を入れてもらうと、水平にきれいに納まってなじむんですね。逆に右側だけパネルで埋めてハンドルをなくすと、そこで段差ができなくて要素が多く見えてしまうのではないかと。入れてみた時に、まるで最初から入っていたように見せるのがポイントです」

加えて、もう1つの極意は「飛び出さないこと」。「飛び出していると、そこに汚れが溜まります。そのため、設計担当者にも相当無理を言って、ハンドル部分の飛び出し量を1cmに抑えてもらっています。というのも、キッチンのカウンター自体がだいたい1cm程度飛び出していますので1cmは許容範囲です。飛び出さなければそこに汚れもつきません」と説明した。

  • 日立のデザインフィロソフィーである"Less but Seductive"を体現した、外観デザイン。グリル部の右側は従来はグリル部の操作部だったが、今回、操作部がトッププレートに移動したことで不要になった要素だが、システムキッチンと調和させるために、デザイン上あえてそのまま残されている

これ対し、設計者側が苦労したのは放熱の問題だ。そこで採られた解決策を関氏は次のように明かした。

「ハンドルをフラットにさせようとすると、熱源にどんどん近づいていきます。だからどうしたら熱除去できるのかをかなり苦労しましたね。前のモデルと同じように、もともとの構造は断熱層が1層でした。1層の断熱層と冷却層で熱を逃そうと考えていたのですが、ハンドルを内側に引っ込めたことで、ドア表面の温度は結構冷えているのですが、上側のハンドルの温度が上がってしまいました。そこで、仕切るためにもう1層断熱層を入れて2層にしています。当初デザイナーの希望は、高さもガラス面とまったく一緒にするところでしたが、かなり難しく、できるだけ飛び出さず、かつ冷却もできる位置を調整しながら許容範囲の今の高さに落ち着きました」

  • ハンドル部分をフラットにするために、グリル部のドアの表面を2層構造に変更し放熱性を高めた

近年、IoT化が広がっている家電製品。かつては"シロモノ家電"と呼ばれていた代物がインターネットにつながり、カメラや液晶ディスプレーなどを搭載するなど"クロモノ家電"との融合化が進んでいる。家電製品はこれまで高機能、多機能化の一方向でひたすらに進化してきた感がある中で、本製品はIoT化によりそれに伴う操作の複雑性という課題をも解決した、象徴的かつ先行事例としても大いに評価に値するのではないだろうか。

  • 「火加減マイスター」の設計を担当した、日立グローバルライフソリューションズ ホームソリューション事業部 生活家電本部 第三設計部 技師の関 真人氏、デザインを担当した、同事業部 環境機器事業本部 環境機器商品企画部 主任技師の北嶋正氏、日立製作所 研究開発グループ デジタルサービス研究統括本部 デザインセンタ UXデザイン部の日下部結女氏(右から)