日本でも、スマートフォンに運転免許証を搭載する動きが進んでいます。海外ではいくつかの事例があるモバイル運転免許証ですが、まだこれを生かして実際のサービスに繋がっている例はほとんどないようです。

そんな中、トヨタ系のトヨタ・コニック・アルファが、モバイル運転免許証を想定したサービスの実証を行うデモを行っており、モバイル運転免許証の将来像を垣間見ることができました。

  • トヨタ・コニック・アルファによる実証実験

    モバイル運転免許証を想定した実証実験が実施されました

3月24日から導入されるマイナ免許証

日本では、3月24日から国民IDカードのマイナンバーカードに免許証を一体化したマイナ免許証の発行が開始されます。これは、免許証の情報の一部をマイナンバーカードのICチップ内にAP(アプリケーション)として保管し、専用アプリなどを用いて情報を読み出して活用する、というものです。

  • マイナ免許証の告知

    間もなくスタートするマイナ免許証。マイナンバーカードに免許証の情報が保管され、法的には従来の運転免許証と同じものとして扱われます

免許証が物理カードではなくデジタル化していく移行期の仕組みという感じではありますが、物理カードを一体化できるというメリットはあります。それをさらに進めて、完全に物理カードをなくしてスマートフォンに内蔵させるというのがモバイル運転免許証です。

先行する事例としては、米国の一部州や韓国でモバイル運転免許証が発行されています。米国の場合、米TSA(運輸保安庁)がモバイル運転免許証(mDL)を使って空港のセキュリティチェックの本人確認を可能にしています。5月7日からは、TSAが免除を認めた州が発行したmDLが正式に認められるようになるようです(現在は州が発行したmDLであればTSAの認定なしで利用できていたようです)。

  • セキュリティチェックイメージ

    米国ではmDLを使ったTSAのセキュリティチェックが利用され始めています

このmDLはISO/IEC 18013-5で規定された国際標準の規格です。ISO/IEC 18013-5ではmdoc形式のデータフォーマットが規定されており、これを運転免許証に特化させたのがmDL(mobile Driver's License)です。米国ではウォレットアプリとしてAppleウォレット/Googleウォレット/Samsung Walletなどに搭載されています。

  • TSAが対応するさまざまなID

    TSAではさまざまなIDへの対応を図っているようです

現時点で同様の仕組みを検討しているのが日本です。まずは今春から、マイナンバーカードをmdoc形式でAppleウォレットに搭載。この時点でマイナ保険証に対応し、さらに早期に免許証をmDL形式でウォレットに搭載できるようにする考えです。

  • 日本で導入するmdoc発行システム

    日本の場合、mdoc発行システムをデジタル庁が構築してマイナンバーカードのmdocを発行。さらに運転免許証も発行する予定です

他には、前述のとお韓国がすでにモバイル運転免許証を発行しています。これは独自仕様のようですが、韓国では他にも複数の身分証明書をスマートフォンに内蔵できるようにしており、400万人が発行をしているそうです(2024年12月時点)。そのほとんどがモバイル運転免許証だといいます(韓国の運転免許証保有者は1,300万人とのこと)

  • 韓国のモバイル運転免許証

    韓国が2022年に発行を開始したモバイル運転免許証

データを車から個人に紐付けるmDL

このmDLを活用して、車における新たなユーザー体験を検討したのがトヨタ・コニック・アルファで、「クルマウォレット連携」という形で実証実験を行っています。

この実証実験では、スマートフォンと車を接続する際に、mDLの情報を使って運転手を特定して認証を行えるようにしています。例えばレンタカーであれば、mDLにより本人が特定できるので、無人で貸出を行えます。鍵の受け渡しも、デジタルキーを配布してUWBで解錠するという仕組みが、米国などではすでに登場しています。

  • デジタルキーで乗車

    スマートフォンに保管したデジタルキーで車に乗り込んで運転できるので、レンタカー店でのやり取りも不要。自動運転車の利用でも利用できるでしょう

  • 乗車後、運転免許証を確認

    車に乗り込んだら、今度はmDLの運転免許証を確認します

車内でも運転手のスマートフォンの位置をUWBで特定して接続。車載機器と連携するため、カーナビなどの画面でスマートフォン内のデータが活用できます。今回の実証では、「ナビでハンバーガーショップのアプリを選び、車内でオーダーをすると、スマートフォン内にある決済情報を使って決済を行う」ということができるようになっていました。

ポイントは、「車内にデータを残さない」と言うことです。現在、車載決済機能としてETCがあり、高速道路での支払いに専用クレジットカードを使用しています。これを拡張したETCXでは、有料道路、ゴミ処理施設、駐車場、ガソリンスタンド、ドライブスルー(予定)といった施設で支払いが可能になっています。

ETC車載器と対応クレジットカードがあれば利用でき、ETCのような大がかりな施設が必要になるわけではなく、こちらも対応クレジットカードさえ車内に持ち込めばデータを残さずに決済できますが、現状では普及が十分でないのが難点です。

今回の実証では、車載機器に搭載された「クルマウォレット」とスマートフォンを連携。決済情報はスマートフォンから伝送するため、ETCカードと同様に車内にデータは残りません。

一部カーメーカーなどは車載決済として車自体に個人のデータを保管する方向性も示していますが、レンタカーやカーシェア、今後の自動運転によって、自己保有が減少する可能性もあります。

そうした場合に、今回のような仕組みは有効でしょう。特に、確実に本人を認証するためにmDLと連携するという点もポイントです。

トヨタ・コニック・アルファでは、「車両のデータが誰のものか分からない」としていましたが、mDLとの連携では当人認証の仕組みを使って本人の認証と許諾が得られます。そうすれば、車両の現在位置のデータを店舗に送信して、「間もなく到着する」と言った情報も提供できます。

逆に、レンタカーなどの自己保有ではない車での走行データを、本人に紐付けることもできそうです。将来的に自動運転車が一般化して、所有せずに都度、車を呼び出して乗り込む場合でも、車内環境や走行データを毎回、自分専用に設定するといったこともできるかもしれません。

クルマウォレットとmDLの組み合わせでは、提供するデータを選んで限定したデータのみを送ることができます。デモでは、衛星を使った車両の位置情報、UWBによる詳細な位置情報、ナンバー情報を提供していました。mdoc/mDLも同様に、本人が提供情報を選択することができます。

  • 情報共有の許可画面

    デモで使われた送信する情報。店舗に近づいたことを示す衛星による位置情報、店舗敷地内で正確な位置を把握するUWBによる詳細な位置情報、そして車両を特定するナンバーが送信されます

  • 受け取り方法・決済方法の選択画面

    決済情報はスマートフォンの情報を使ってオンラインで決済しています。そのため、店舗で直接支払う必要はありません

  • ハンバーガー店の端末の画面に表示される位置情報

    これはハンバーガー店の端末側に表示されている情報。UWBによって車両の位置が正確に分かるので、ドライブスルー受け取り口に到着していることが把握できる

  • @ハンバーガー店の端末の画面に表示される注文情報

    店舗側には注文内容や決済手段、ナンバーが提供されている。さらに近づいている車が分かるので、どのぐらいで調理を行えばいいかも分かる

例えば、予約に必要であればmDL内の氏名のみを送付するといったことができますし、年齢確認のために「20歳以上」という情報だけを送信することもできるので、それによって酒やたばこの購入をするといった使い方もできるでしょう。

日本だと、マイナンバーカードがmdoc形式でスマートフォンに搭載されるため、一般的な本人確認や店舗での利用などではマイナンバーカードが使用されることになりそうですが、mDLは単に運転免許証だけでなく、クルマとサービスとのデータ連携で活躍しそうです。

  • ガソリンスタンドの例

    こちらはデモのガソリンスタンドの例で、これは店舗側の端末に表示されている画面。ナンバーで車両を特定し、必要なガソリン種類と量、作業内容、支払い方法が指定されているので、そのまま店員が作業を行って、最終的に「作業完了」をすればOK。利用者との対話は不要で決済もその場ですぐに完了します

仕組み上は、マイナンバーカード(mdoc)と同じこともできるようになるはずですが、今後日本で、店頭の本人確認や年齢確認においてスマートフォンに搭載したマイナンバーカード(mdoc)と運転免許証(mDL)が同じように使えるようになるかどうかは不明です。

  • 社内のUWB/BLE基板

    車内には8個のUWB/BLEの基板が配置されていました。これだけの数を内蔵するとなれば自動車メーカーを巻き込む必要がありそうですが、メーカーはこうした仕組みをどのように判断するでしょうか

とはいえ、今後はモバイル運転免許証が広がることは間違いないでしょう。海外との接続性も実現すれば、国際免許証がなくても海外での運転が可能になるかもしれませんし、グローバルのサービスを構築することもできるかもしれません。

欧州でもこうした取り組みは進められていますが、どのような将来が実現できるのか、これからも注目が必要そうです。