マイナンバーカードを活用した政府の取り組みとして、新たに「マイナ免許証」が登場します。これは運転免許証とマイナンバーカードの一体化に伴うもので、「マイナ免許証」は警察庁のリリースにも記載されたれっきとした公式名称です。
そんなマイナ免許証ですが、同じような名称の「マイナ保険証」とは似て非なるものとなっています。今回は、マイナ免許証がどんなもので、どんなメリットがあるのかを解説していきます。
マイナ免許証は2025年3月から
マイナンバーカードと運転免許証の一体化は、政府が長年検討してきました。その結果として、道路交通法の一部改正が2022年4月に公布、2023年4月1日から施行されており、ここで「特定免許情報の個人番号カードへの記録に関する規定の整備」が行われました。
これによってマイナンバーカードと運転免許証の一体化が可能となり、マイナンバーカードのICチップ内に運転免許証がAP(アプリケーション)として保管できるようになりました。この「特定免許情報が記録された個人番号カード」を「免許情報記録個人番号カード」としており、これが「マイナ免許証」ということになります。
もともと現行の運転免許証はICカード化されており、ICチップ内に個人情報が保管されています。これをマイナンバーカードに保管するのがマイナ免許証というわけです。
マイナ免許証とマイナ保険証の最大の違いは、免許証では「マイナンバーカードと運転免許証の『一体化』であり、既存のICカード運転免許証は残す(マイナ免許証と既存の運転免許証の併用が可能)」という運用なのに対して、マイナ保険証では「単なる紙/プラスチックのカードで安全性の低い健康保険証を廃止し、マイナ保険証に『一本化』する(マイナ保険証と既存の健康保険証の併用は不可)」という点です。
つまり、今後の免許証の取り扱いは、
- 既存のICカード免許証単独(従来通り)
- ICカード免許証にマイナ免許証を追加
- ICカード免許証を返納してマイナ免許証単独
という3つのパターンになります。
なお、運転免許証を返納した人に交付される運転経歴証明書のマイナ免許証バージョンも用意されており、「運転経歴情報記録個人番号カード」としてマイナンバーカードに対して発行できます。
これに対して2024年9月12日に警察庁は、前記の改正道交法の施行に伴う関係規定の整備を発表。改正法の施行日を2025年3月24日にすることを明らかにしました。つまり、マイナ免許証の利用が来年3月にスタートするということになります。それに先立ち、まずは2024年9月13日から10月12日までパブリックコメントの募集を実施し、国民から広く意見を受け付けます。
運転免許証と同等のマイナ免許証
マイナ免許証実現のために整備されるのは、
- 道路交通法の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等及び経過措置に関する政令案
- 道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案
- 道路交通法の一部を改正する法律等の施行に伴う関係国家公安委員会規則の整備に関する規則案
の3つです。
既存の道交法に加えて内閣府令案をあわせると、「特定免許情報」は、
- 免許情報記録の番号(=免許証の番号)
- 免許の年月日・免許情報記録の有効期間の末日
- 免許の種類
- 免許を受けた者の本籍、住所、氏名及び生年月日
- 優良運転者
- 免許の条件(運転できる自動車の種類の条件など、視力の条件など)
- 免許を受けた者の写真
- その他公安委員会が必要と認める事項
が規定されているようです。
基本的に現行の免許証のICチップに保管されている情報に加え、券面に記載されている情報も追加されることになるのでしょう。
法的には既存の運転免許証とマイナ免許証は同等の効力を持つことになります。警察官は、運転手に運転免許証の提示を求めた際にマイナ免許証が出されたら、これを読み取れなければなりません。つまり、警察官はマイナ免許証を読み取る何らかの携帯端末を持ち歩いていることが想定されます。
ICカード免許証の返納はいつでも可能で、マイナ免許証に一本化できます。免許取得時にマイナ免許証単独にすることも可能。もちろん、マイナ免許証を返納してICカード免許証に一本化したり、これまで同様に免許取得時にICカード免許証単独の交付を受けることも可能です。
マイナ免許証の一本化で気になるのは、マイナンバーカードの有効期限が来て更新しなければならないときに運転免許証がどうなるかという点です。今回の「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」では、「マイナンバーカードが失効しても、移行した新カードに特定免許情報の記録をするまでの間、旧カードのICチップ内の免許情報記録が利用できる」と定められています。
そのため、マイナンバーカードの新カードが交付されるまでの間は、旧カードを免許証として持ち歩き、提示が求められたらマイナ免許証として提示すればいいということになります。マイナンバーカードの交付に多少の時間がかかっても、免許証不携帯になる心配はなさそうです。
もちろん、マイナンバーカードを紛失した場合には再交付が必要になります。運転免許証の場合、免許センターに行けば即日再交付となりますが、マイナンバーカードの場合は再交付に時間がかかります。その辺りをどう判断するかがポイントになるでしょう。マイナ免許証を持ち歩いて、ICカード免許証は自宅に保管するというのもありかもしれません。
メリットもあるが、スマホ搭載からが本番
さて、単独のICカード運転免許証を置き換えられるマイナ免許証ですが、どんなメリットがあるでしょうか。
これまでの運転免許証においては、本籍や住所などが変わった場合、記載事項の書き換えをするために免許センターなどに行く必要がありました。
改正道路交通法では、本籍/住所/氏名/生年月日の変更について「マイナ免許証のみ」(一本化してICカード免許証を返納している)の場合は、事前に措置をしておけば変更の届出を省略できることになっています。
具体的には、本籍の変更の場合は、戸籍電子証明書についてマイナンバーカードの署名用電子証明書かスマホ用電子証明書の署名用電子証明書を使って国家公安委員会に変更を申請します。
住所/氏名・生年月日については、署名用電子証明書を使って自治体と公安委員会の間で情報共有することに同意しておくと、自治体の情報が変更されるとマイナ免許証の情報も書き換わるため、変更手続のワンストップ化が実現します。
なお、このワンストップ化は運転経歴情報記録個人番号カードの場合でも同様です。
手数料も変更されています。ICカード免許証の新規交付は300円上昇して2,350円、同時にマイナ免許証を交付する場合は+100円なので2,450円になります。マイナ免許証単独での新規交付だと1,500円。ICカード免許証保有者はいつでもマイナ免許証を作成できますが、その場合の手数料も1,500円です。
ICカード免許証の再交付は350円の値上げで2,600円。マイナ免許証の書き換えは、単独の場合は1,550円、免許証も書き換える場合は+100円で1,650円です。
更新の際は、ICカード免許証単独の場合が2,850円、マイナ免許証単独だと2,100円、同時更新だと2,950円。ICチップに書き込むだけなのに値段がずいぶんかかるなあというのが正直なところです。同時交付・更新の場合に+100円にとどまるのに対して、単独だとそれなりの金額になります。このぐらいの費用差なら、ひとまず新規・更新時にマイナ免許証をプラスしておくとよさそうな印象です。もちろん、いきなりマイナ免許証単独でもいいでしょう。
物件費及び施設費に 対応する額 |
人件費に 対応する額 |
合計 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
運転免許証新規交付 | 1,500円 | 850円 | 2,350円 | 従来より300円アップ |
運転免許証新規交付と同時にマイナ免許証交付 | 100円 | 100円 | 運転免許証の新規交付手数料とは別途 | |
新規交付時にマイナ免許証のみ交付 | 600円 | 950円 | 1,550円 | |
運転免許証新規交付時にマイナ免許証の交付を受けていない人が、マイナ免許証の交付を受ける | 600円 | 900円 | 1,500円 | |
運転免許証再交付 | 1,700円 | 900円 | 2,600円 | 従来より350円アップ |
マイナ免許証の書き換え | 600円 | 950円 | 1,550円 | |
マイナ免許証の書き換えと同時に運転免許証の書き換え | 100円 | 100円 | マイナ免許証の書き換え手数料とは別途 | |
運転免許証更新 | 1,850円 | 1,000円 | 2,850円 | 従来より350円アップ |
マイナ免許証更新 | 1,000円 | 1,100円 | 2,100円 | |
マイナ免許証と運転免許証の更新 | 1,850円 | 1,100円 | 2,950円 |
もう1つのマイナ免許証のメリットとしては、免許更新時の講習でオンライン講習を選択できるという点があります。これは優良・一般ドライバー(70歳未満なら5年間に軽微な違反が1回まで)の人が利用できるようになります。オンライン講習は現在、一部自治体でテスト施行されており、マイナンバーカードの署名用電子証明書を活用しています。
ただし、オンライン講習を受ける場合も基本的に免許に関する申請はオフラインで行う必要があるため、マイナ免許証のみでオンライン講習を選択したとしても、最終的な免許更新では免許センターなどに行く必要はあります。
現時点で想定されているだけでもこのように多少のメリットはありますが、マイナ免許証の本番は「スマホ対応」してからです。
アメリカではいくつかの州で運転免許証をデジタル化してAppleウォレット/Googleウォレットに搭載する事例が始まっています。日本国内でも、2025年春にAppleウォレットにマイナンバーカードが搭載される予定になっています。
Appleウォレットにマイナンバーカードを搭載する仕組みはmdocと呼ばれる国際的な標準規格に基づいています。このmdocのサブセット――というか運転免許証向けの規格――がmDLで、アメリカの例はこれを採用しています。
マイナンバーカードとともに免許証がスマホのウォレットに搭載されれば、物理カードを持ち歩く必要がなくなることが期待できます。運転免許証を持ち歩く必要がなくなるので利便性が向上すると同時に、マイナンバーカードが同時に「デジタルID」としてスマホに搭載されるので、2つをあわせてトータルでデジタル化が実現します。
その先駆けとなるのがマイナ免許証の登場ということになります。今後のさらなる進化に期待したいところです。