銀行へ現金を預けたり、その預けた現金を引き出したり、送金をしたり。ATMは日本における決済で重要な役割を担っています。ところが最近、銀行ATMがどんどん減っています。そうした中で、コンビニエンスストアに設置されているATM、通称「コンビニATM」が拡大しています。

しかも、ATMとして単に現金を扱うだけではない進化を遂げているのがコンビニATMです。今回は、セブン-イレブンに設置されているセブン銀行ATMの新機能「FACE CASH」について解説していきたいと思います。

  • 金融機関のCD・ATM設置台数推移

    金融機関のCD・ATM設置台数推移。参考としてゆうちょ銀行の台数も記載している。全国銀行協会のデータから作成

  • セブン銀行ATM企画部長兼グループ長の柏熊俊克氏

    今回話を聞いたセブン銀行ATM企画部長兼グループ長の柏熊俊克氏

間もなくすべてのATMが最新型に、セブン銀行ATMのサービス

セブン銀行ATMは、全国のセブン-イレブンなどに設置されているATMですが、従来の金融機関にあったATMの機能に加えて、特に最近はQRコード決済のチャージなどでも使われているのが特徴です。コード決済各社に聞いても、セブン銀行ATMから現金チャージをしている例が多いという話はよく聞きます。

設置台数はすでに27,857台(2025年1月末)。全国の金融機関のCD・ATM設置台数が9万台弱なので、セブン銀行1社でその1/3の規模になっていることになります。

セブン銀行ATMは順次性能を向上させており、現在設置されているのは2019年9月から稼働している第4世代ATMが中心です。すでに27,000台以上がこの世代に置き換わっており、2025年3月中にもすべてのATMが新型ATMに切り替わる予定です。

この新型ATMをセブン銀行では「ATM+」と表現。「+エリア」を設けてマイナンバーカードや免許証、パスポートといった本人確認書類の読み込みに対応し、顔認証対応のカメラを設置することで、ATM上で顔認証を行うことが可能です。

この高機能化したATMをプラットフォームとして様々に活用するのがセブン銀行の戦略です。それが「+Connect」で、「ATMが、あらゆる手続き・認証の窓口になる」ことを目指しています。

  • 「+Connect」サービス

    ATMを使った手続き・認証の窓口を目指す「+Connect」サービス

このうちの「ATM窓口」は、口座開設や住所・電話番号などの届出情報の変更手続きなど、窓口での一部手続きをセブン銀行のATMで行えるというもの。2023年9月のサービス開始以来、2024年12月までで22,000件の口座開設、42,000件の住所変更などの手続きが行われたといいます。しかも、通常の金融機関の営業時間外/営業エリア外での利用が多く、新たなニーズを掘り起こしている印象です。

「ATMお知らせ」は、出勤時にサービス提供企業から利用者に対する情報の通知を行うというもの。さらに利用者が通知に対して回答することもできます。特に金融機関は顧客の情報の最新化が求められており、郵送やメールなどで顧客の対応を求めていますが、郵便やメールは届かない、電話は繋がらないといった例が多く、回答率は20~30%とされています。それをATMで表示することで回答率が向上。ATMお知らせでのお知らせ数は120万件、回答率は85%に達したそうです。

導入企業は金融機関を中心に25社。ネット銀行のPayPay銀行やソニー銀行がATMお知らせを利用しているほか、ATM窓口を含めて地銀が多いようです。

こうした「+Connect」サービスの最新機能が「FACE CASH」です。

顔認証でATMを利用

「FACE CASH」が目指すのは、顔認証を使った手軽で簡単、安全な金融取引です。これまでのキャッシュカードのような物理媒体が不要で、スマートフォンでQRコードを読み取るといった作業もいりません。生体認証なので紛失や盗難の被害は起こりづらく、他人のカードを悪用する、といったなりすましも防げます。

ちなみに、盗難キャッシュカード被害の発生件数は2023年度で8,779件、平均被害額は同81万円となっています。この被害件数のうち、43.3%が金融機関によって補償されていません(金融庁「偽造キャッシュカード等による被害発生等の状況について」より)。こうしたことからも、キャッシュカードを持ち歩くことによる盗難・紛失などによる不正引き出しを避けられる効果はありそうです。

  • 「FACE CASH」のコンセプト

    「FACE CASH」のコンセプト

「FACE CASH」を利用するには、まずATMでキャッシュカードと暗証番号を使って本人確認した上で顔認証を行います。ここで顔を動かすなどのライブネス認証を実施。携帯電話番号へのSMS認証を行って登録をします。3桁のパスコードが通知されるので、これを知識認証として記憶しておき、取引時に利用します。

実際に取引をする際は、パスコード入力と顔認証が求められ、生体認証と知識認証の2つでセキュリティを確保して取引を行います。さらに、キャッシュカードの4桁PIN入力も必要になりますが、カード自体は不要です。

  • 「FACE CASH」利用時のフロー

    「FACE CASH」利用時のフロー。顔認証だけでなく、4桁PINや3桁(番号が尽きたら4桁化)のパスコードも併用します

「FACE CASH」のメリットは、取引においてキャッシュカードの持ち歩きが不要で、スマートフォンアプリのダウンロードや設定も不要というところ。スマートフォン自体を取り出す必要もありません。「新しい金融体験でちょっとしたワクワクを提供していきたい」と柏熊氏は話します。

  • 実際の利用画面

    実際の画面。カード、スマートフォンに加えてFACE CASHが追加されています

  • 顔認証の画面

    顔認証の画面

  • ATM上部のカメラ

    カメラは画面上部にあり、広角カメラなので特に位置合わせをしなくても自然と顔認証できます

安心面では、NECの顔認証技術を採用したことで認証率を高め、カメラも工夫することで認識率を向上させているといいます。さらに有人監視センターで24時間365日のATM監視を行い、お面などを判定するなりすまし対策、取引中のモニタリングによって操作する人が変わるような入れ替わり検知などを搭載して、セキュリティを高めているそうです。

  • セキュリティ対策

    セキュリティにも配慮しており、スマートフォンによる自撮りを使ったeKYCよりは安全でしょう

  • セブン銀行独自のセキュリティ対策

    銀行ATMとしてセブン銀行独自の対策も併用されています

金融機関向けがメインとなっているこの本人確認のプラットフォームですが、応用範囲は広いとセブン銀行では見ています。ホテルのチェックイン、人材派遣や古物売買、シェアリングサービス、給付金・補助金申請などでの利用を想定しています。

  • サービス起点としての「ATM+」

    同社は「ATM+」を様々なサービスの起点として位置づけます

顔認証自体は、セブン銀行側が提供するため、金融機関などのサービス提供側の開発負担が減少することもメリットです。こうした取り組みは、顔認証技術を提供するNEC自身も開発をしていますが、リアルの接点であるセブン銀行ATMにおける本人確認プラットフォームは、一定のニーズに応えられるサービスと感じました。今後のサービス提供者の拡大に期待したいところです。

  • NECの顔認証サービス連携ポータル解説1

    NECの顔認証サービス連携ポータル。これは3月に開催されたリテールテックJAPAN 2025のNECブースで参考出展されていたもの

  • NECの顔認証サービス連携ポータル解説2

    一度このポータルに顔の情報を登録すると複数のサービスで顔情報を登録しなくても、顔認証が利用できる