学生優秀論文賞:高速計算を実現する仮想検査技術を構築

学生優秀論文賞は、筑波大学大学院の石崎祐莉氏とHuizhen Bu氏(ともにシステム情報工学科社会工学専攻)による「スパースモデリングによる自動変量抽出と高精度な仮想検査モデルの構築」が受賞した。

  • 学生論文賞を受賞した筑波大学大学院修士課程学生

    学生論文賞を受賞した筑波大学大学院修士課程の石崎祐莉氏(右)とHuizhen Bu氏(左) (提供:筑波大学)

同論文は、半導体の少量多品種生産に対応可能な仮想検査技術の構築を目的として、スパース(疎性)モデリングによる自動変数抽出を論じたもの。具体的には、半導体薄膜形成工程における膜の均一性と設計遵守度の2軸の製品出来栄え(全9クラス)を、薄膜形成装置の加工時の各種変量値から推定・予測する仮想検査モデルを構築した。変量の数がサンプル数より多い場合の変数抽出にスパースモデリングで多用されるLasso技術を、また、クラス判別にカーネル・サポートベクターマシン(KSVM)を用いた。半導体量産工場を対象とした数値実験により、線形カーネルを用いたLasso-KSVMにより、推定精度を維持しつつ(100%)、変数空間の圧縮(60%減)と高速計算を実現する仮想検査技術が構築できたというものとなっている。

これら以外の一般講演として、FDC関連では、

  • 「深層学習による新しい異常検出手法の確立」 (ソニーセミコンダクタ)
  • 「FDCデータを使ったリアルタイム・ウェーハ在庫管理の品質評価」 (韓BISTel)
  • 半導体プロセス装置のe診断およびFDC適用 (米TEL NEXX)
  • 「サファイア隔膜真空計による安定計測と異常検知の可能性」 (アズビル)

の4件の講演が行われた。

また、東芝グループからは、 * 「スパースモデリングによるウェーハ品質管理のための自動要因解析システム」(東芝) * 「リソグラフィのフォーカス性能向上のためのショット毎Focus&Tilt-XY補正技術」 (東芝メモリ)

の2件の発表があったほか、海外の半導体メーカーからの講演は、

  • 「ファウンドリ専業のウェーハファブにおける多品種生産のためのプロセスフローAI(人工知能)」 (米GLOBALFOUNDRIES)

の1件だけであった。

製造ラインでの計測手法の分野では、

  • 「ウェーハ上の残留電荷をモニタする新しい手法」(ルネサスセミコンダクタマニュファクチャリング)
  • 「パルス光伝導法によるシリコン酸化膜中の微量金属汚染評価」 (熊本大学)

の2件の発表が行われた。このほか、アズビルは「制御システムにおける効果的な正規化応答性の活用」に関しての発表も行っている。

4件の発表がなされたポスターセッション

  • ポスターセッション風景

    ポスターセッション風景 (提供:AEC/CAPCシンポジウム)

ポスターセッションでは4件の発表が行われ、韓BISTelのTom Ho氏が発表を行った「ダイナミックな異常検出において誤警報をさらに低減するための実際的な手法」にBest Poster Award(最優秀ポスター賞)が授与された。

  • 最優秀ポスター賞を受賞したBISTelのTom Ho氏

    最優秀ポスター賞を受賞したBISTelのTom Ho氏(右) (提供:AEC/APCシンポジウム)

このほか、3件のポスター発表は、

  • 電子線照射によるパターニンググラフェン作製に関する研究
  • パルス光伝導法による非破壊界面準位密度測定
  • クリーンルームにおける相関法を用いた風向風速測定法に関する研究

であり、いずれも熊本大学からの発表であった。

次回の日本開催は2019年予定

同シンポジウムの西村組織委員長(ルネサス エレクトロニクス)によると、「今年は『IoTとAIの融合による次世代AEC/APCに向けて』をサブテーマに開催したが、投稿された論文も変数選択や次元圧縮を学術的に探究されたものから、実際のラインで適用するために物理モデルと融合させ精緻なプロセス制御を目指したもの、プロセスの現象をより正確に知るためのデータ取得観点からセンシングに関するものなど、幅広く投稿をいただき、参加者も今までで2番目に多い243名が参加され、活発な討議が繰り広げられた」とのことで、プロセスや装置のデータ収集で先行してきた半導体産業の土壌にIoTやAIが単なるブームの段階を超え実用化の華を咲かせたことを印象付けるエポックメイキングなシンポジウムとなったという評価であった。

また、「IoTやAIの進化とともに2年後の日本開催のシンポジウムがさらに成長を遂げることを期待する」と、IoTやAIの勢いを受ける形で、今後の成長に対しての期待も述べており、半導体生産技術の核ともなっているAEC/APC分野で、プロセス制御性向上、設備生産性向上、資材費低減活動、工場運営効率化などに新たな方向性を見出す機会を提供する同シンポジウムとして、さらに発展していきたいとしていた。

なお、次回のAEC/APC Symposium Asia(日本開催)は、2019年11月開催の予定であるが、その前に、同シンポジウムの親会議ともいえる「International Symposium on Semiconductor Manufacturing (ISSM2018)」が2018年12月にSEMICONジャパン2018の併催行事として開催される予定である。