次世代半導体生産向け製造装置および製造プロセスの自動制御(Advanced Equipment Control/Advanced Process Control:AEC/APC)をさらに高度化して、科学に根差した効率的な生産めざす国際シンポジウム「AEC/APC Symposium Asia 2017」が、「IoTとAIの融合による次世代AEC/APCに向けて」というテ―マの下、11月に東京にて開催された。

主催は、半導体製造のノウハウをサイエンスに高めてScientific Manufacturing(科学的製造)をめざす半導体製造国際シンポジウム(ISSM)実行組織体で、AEC/APCシンポジウムは、ISSMの姉妹会議の位置付けとなっている。後援は、電子情報技術協会(JEITA), 日本半導体装置協会(SEAJ)、国際半導体装置材料協会(SEMI)など。科学的な半導体製造で歩留まりや生産性を向上させるための核となるAEC/APCに関して、海外からの参加者も交えて活発な議論が行われた。

  • AEC/APCシンポジウムの会場風景

    AEC/APCシンポジウムの会場風景

AEC/APC Symposiumは、デバイス、装置、材料、ソフトウェア、センサ、メトロロジーのメーカーが一堂に会し、よりインテリジェントで高効率な生産システムの構築を議論する場として、北米・欧州・アジアの世界3か所で毎年開催されている。アジアでは台湾と日本で交互に開催しており、AEC/APCは半導体製造分野における生産性および歩留まり向上の鍵を握る重要な要素としての成果を生んで来た。ここで議論されてきた技術は、太陽電池、ディスプレイ、電子部品、電池など多くの周辺産業にも応用されている。

日本では2007年の初開催から製造装置やプロセス状態をモニタリングしたデータを用いた科学的生産技術をテーマに活発に議論されてきたが、2017年は数えて10年目(第6回)の節目を迎えた。最近はIoTやAIの登場で、これらを適用することでAEC/APCのさらなる真価が期待できることが分かってきた。IoT/AIブームの影響で、シンポジウムの参加者も前回から約50名増加し、243名が参加した。

半導体の製造装置ではIoTを活用することで多角的なプロセスの状態をセンシングする技術が進化している一方、そうして収集された大量のデータを扱えるAI技術の登場で、APCも進化する動きを見せている。今回のシンポジウムでは、チュートリアル(講義)2件、基調講演1件、口述発表12件、ポスター発表4件の合計19件の発表が行われた。

チュートリアル1:機器の予知保全のためのデータ分析

東海大学情報通信学部の今村誠教授 (提供:AEC/APCシンポジウム)

最初のチュートリアルだが、東海大学情報通信学部の今村誠教授が「機器・設備予知保全におけるデータ分析方式」について語った。

同氏は「IoT、インダストリアル・インターネット、そしてインダストリー4.0の進展に伴い、機器・設備の予知保全へのデータ活用が注目されるようになってきている」と語る一方で、「産業分野はマーケティング分野と異なり、機器・設備が本質的に物理的なシステムであるため、マーケティング向けのデータサイエンスの手法を機器・設備に適用するだけではうまくいかない」とも述べ、データ処理、物理的な知識、そして費用対効果の観点から総合的に扱う実践的な方法論である「PHM(Prognostics and Health Management)」を紹介したほか、機器の動作原理である物理法則や経験的なドメイン知識を生かしたデータ分析方式、機器・設備特有のデータ分析アルゴリズムについても説明を行った。

チュートリアル2:次世代APCのあるべき姿とは?

名古屋工業大学工学部の仁科健教授 (提供:AEC/APCシンポジウム)

2番目のチュートリアルは、名古屋工業大学工学部社会工学科の仁科健 教授が「半導体製造工程における能動的な管理図管理」について語った。

同氏は、「製造工程におけるデータ獲得の環境は様変わりしており、工程のアウトプットの時系列データのみをモニタリングするような伝統的で受動的な方法によって工程管理を進めていくのは難しい。なぜならば、APCによって時系列データの変動は制御されており、そのために単なる工程のアウトプットは工程の鏡としての機能を失っているからである」として、このような状況でのAPCのあるべき姿を考える必要性を述べた。

また、「APCは意図的にプロセスパラメータの値を変える。その結果としてアウトプットが変わる。APCを入力信号と考えたとき、工程の入出力関係をモニタリングできる。また、劣化しない工程のパーツはないが、部品の劣化を入力とみなしたならば、同じように工程の入出力関係をモニタリングできる。伝統的なAPCは受動的であったが、入出力関係をモニタリングすることは能動的な管理となる」として、半導体製造工程での複数の能動的管理の事例を紹介。部品の劣化の事例では、「T2 - Q管理図」が有用であると述べた。これは、多変量管理図の一種で、Jackson and Mudholkarが1979年に提案した管理図である。仁科教授は、従来型管理図の主流であった変動の大きさの管理から、変動パターンの管理に視点を転換する必要性を強調した。

(次回は12月7日に掲載します)