クアルコムが毎年ハワイで開催するコンシューマ向けSnapdragon SoCの発表会「Snapdragon Summit」を、今年も現地で取材しました。
昨年のイベントでは、スマートフォンでAIエージェントを使う「未来」が主題として扱われていました。それからわずか1年。今年は、AIエージェントを現実のものとして快適に動かす、最新のモバイル向けSnapdragonが発表されました。
AIエージェント時代の主役はやはりスマートフォン
クアルコムのモバイル事業を率いる責任者のクリス・パトリック氏が、イベントの初日に開催されたSnapdragonの発表会の壇上で、スマートフォンが「エージェンティックAI体験の出発点」であると表現しました。常に持ち歩ける「身近さ」、ユーザーの予定や好みなど「コンテクスト(行動の文脈)」を深く知り、そしてアプリやほかのデバイスとの「接続性」にも優れるデバイスであることがその理由です。
AIエージェントとは、質問に答えるだけでなく、使い手の目的に合わせて必要な手順を考えてアプリやサービスを使いながら自律的に作業を進めるAIです。こうしたAIが、目的に向けて自ら判断し行動する仕組みを「エージェンティックAI」と呼びます。
今年のイベントで発表された「Snapdragon 8 Elite Gen 6」と「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」は、AIエージェントを1日中快適に使えるスマホの土台を目指しています。
なぜ最上位のSnapdragonはふたつに分かれたのか
スマホの頭脳に当たるSoCは、演算を担うCPU、ゲーム映像を描くGPU、AIの処理を得意とするNPU、カメラの画像を整える回路などをひとつにまとめた基幹部品です。今年クアルコムが発表したふたつのSoCは、ともに現在最先端クラスの2nmプロセスを採用して、クアルコムが独自に設計する最新世代のOryon CPUのほか、Adreno GPU、Hexagon NPUを統合しています。上位標準版の8 Elite Gen 6も、クアルコムの公称値では前世代よりCPU性能が10%、GPU性能が35%向上しました。
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Primeコアは最高5GHz、Performanceコアは4GHzに達します。動的にキャッシュプールを割り当てる新しいFlex Cacheアーキテクチャを導入し、シングルスレッド処理やAIエージェントのコンテキスト解析を高速化します
フラグシップのSoCをふたつのラインナップに分けた理由は、フラグシップスマホの選択肢が増えたためです。パトリック氏は、標準モデルからカメラやゲームを重視する上位モデル、折りたたみ型まで、メーカー各社が多様な商品を展開するようになったことを理由に挙げました。「ひとつの製品だけでは、もはやフラグシップを定義できない」というわけです。
そこで、幅広いプレミアム級モデルのニーズに応える8 Elite Gen 6と、特に重いAI処理や映像制作、モバイルゲーミングにも力を入れるExtremeが揃いました。
AIエージェントがユーザーからの指示を待つだけでなく、状況を踏まえて自律的に動くには、軽めの処理を省電力で続けながら、必要な場面では大きなAIモデルを速く動かす必要があります。
ふたつのSoCが共通に内蔵するコンポーネントである「Sensing Hub」では、さまざまなデータを処理を低消費電力で処理し、Hexagon NPUなどと連携しながら処理を実行します。例えば、ユーザーが許可した範囲で会話や予定を記録しておき、その中から大事な情報を整理しておけば、ユーザーから「来週の約束は?」と聞かれたときに、AIエージェントがクイックに必要な情報を届けてくれます。
Extremeは、Hexagon NPUの共有メモリを前世代より50%拡大し、300億パラメーター級の「Mixture of Experts(MoE)」型モデルをデバイス内(オンデバイス)で実行する使い方も視野に入れています。MoEは、大規模なAIモデルの内部に複数の「専門家(Expert)」を持たせ、処理する内容に応じて必要なExpertだけを選んで動かす仕組みです。クアルコムによれば、300億パラメーターのMoEモデルでも、1回のトークン生成で実際に使うパラメーターを約30億に絞ることができます。
NPU内の共有メモリを増やすことで、AIモデルのデータや処理途中の情報をNPUの近くに保持しやすくなり、そのぶん長い情報を踏まえた応答やトークン生成を高速化できるメリットが生まれます。また、AIエージェントが複数のツールやタスクをまたいで処理を進める際にも、よりスムーズな動作が期待できます。ただ、実際の使い勝手は端末メーカーが採用するAIモデルやソフトウェア、アプリなどの実装にも左右されます。
被写体をより賢く見分けるスマホのカメラ
デジタルイメージングの領域にも進化があります。ふたつのSoCには、撮影シーンを画素単位で分析する「Intelligent Pixel Control」が採用されています。Gen 5世代のチップにも脈々と受け継がれてきた、AI解析も活用するリアルタイムのセマンティックセグメンテーション処理の精度を高めた発展型です。Intelligent Pixel Controlは人物や背景を分類しながら、それぞれの被写体に合わせて画質をより細かく整えます。結果として、より質の高い写真やビデオが撮影できるようになります。
Extremeはさらに8K/60fpsの動画撮影、4K/240fpsのスローモーション、最新の動画コーデックであるAPV(Advanced Professional Video)形式による撮影と編集に対応します。APVは撮った映像を後から細かく編集したい人向けの形式です。上位標準モデルの8 Gen 6では、動画撮影は最大8K/30fpsと4K/120fpsのスローモーションに対応します。
ゲームではAIによる高精細化やコマ補間処理を行う「Adreno Neural Fusion」が利用できます。さらにExtremeにはその処理をGPU内で効率よく進める専用のMatrix Coreも加わります。簡単に言えば、高画質のゲーム映像を表示しながら、発熱や電池の消耗を抑えることを狙った技術です。
シャオミとモトローラが最新Snapdragon搭載スマホを発表
今年のSnapdragon Summitでも、最新のSoCをいち早く搭載するスマホがシャオミとモトローラから発表されました。
シャオミは、このクアルコムのイベントに時期を合わせて、Snapdragon 8 Elite Gen 6とExtremeのチップを載せたふたつの新製品を発表しました。「Xiaomi 18 Pro」には8 Elite Gen 6、「Xiaomi 18 Pro Max」にはExtremeを採用します。
ステージに立ったシャオミのAdam Zeng氏は、独自のHyperOSとの連携で処理の割り振りやメモリ管理を最適化し、ゲームを長く快適に楽しめるスマホになると特徴を語りました。上位のPro Maxには、より強力な冷却機構も組み合わせます。
モトローラが発表した「motorola signature 27」はExtremeのチップを搭載します。グーグルのGeminiを使い、テキストプロンプトや端末に保存した写真・動画からビデオコンテンツを生成する「Gemini Omni」、音楽を作る「Lyria」などの体験をスマホで実現します。カメラには50MPのソニー製イメージセンサー「LYTIA L910」を採用。このほか200MPのペリスコープ望遠カメラを備えます。AIやゲームを長時間動かすため、冷却機構「ArcticMesh」を大型化したといいます。グローバルでは2026年中に投入予定。なおシャオミとモトローラは、新製品を日本で発売する計画については言及していません。
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モトローラは「Snapdragon 8 Elite Extreme Gen 6」を搭載するフラグシップスマホ「motorola signature 27」を発表。2026年中にアメリカなど先行する諸国から発売します
そしてクアルコムは今後の搭載メーカーとしてHONOR、iQOO、OnePlus、OPPO、REDMI、RedMagic、vivoなどの名前も挙げています。
Snapdragon搭載の試作機で触れた身近なAIスマホ体験
初日の展示では、最新のSnapdragonを載せたAIスマホのリファレンスモデルと、クアルコムが提案するユースケースのいくつかに触れました。
ひとつめは、短い動画ファイルから画になるシーンをAIが選り分けてくれる自動編集機能です。屋外で撮影した10本・計2分前後のクリップを選ぶと、AIがシーンを解析しながら、撮影に失敗している箇所は省きつつ約10~15秒のハイライト動画を仕上げてくれます。シーンの入れ替えのような簡単なマニュアル編集も加えられます。このデモでは、上位SoCのExtremeに搭載されるパワフルなNPUによりオンデバイスで処理を完結していました。
ふたつめのデモは静止画の自動補正で、やはりExtremeのチップに統合されているNPUの真価が発揮されるユースケースです。暗く写った猫の写真を選択して補正処理をかけると、暗部に隠れていた瞳やヒゲのかたちが浮かび上がりました。デモを担当していたスタッフの説明によると、いわゆるAIによる情報の足し引きは一切行っていないそうです。なので、元の画像に情報が残っていなければ復元はできません。
3つめのデモはオーディオに関連する、2種類のAI処理にハイライトを当てていました。ひとつは「音声と字幕の自動切り替え」の機能です。元の音声をフランス語で収録した映画をスマホで再生しながら、ユーザーがデバイスの画面に目を向けているときには英語字幕を表示して、画面から視線を外すと英語の翻訳音声に切り替わるデモです。筆者もよくキッチンで料理をしながら、スマホで海外の映画を観ることがあります。火を使って調理をする時など、画面に注意を向けられない時には、自動的に翻訳音声に切り替わってくれるとストーリーから置き去りにされずに済みそうです。このソフトウェアは、アメリカのOne Tech audioという企業が試作しているもので、音声翻訳および音源分離(ボーカル抽出・除去など)のAIソリューションを提供する、クアルコムのパートナー企業です。
オーディオ関連のデモでは、スマホと物理的に近い距離にいる話者の声だけを通話相手に届ける「AI Voice Bubble」という機能も見せていました。あらかじめ内蔵マイクの集音指向性を設定して、その方向から聞こえてくる音声にフォーカスする手法ではないことから、端末のどの方向からランダムに話しかけてもクリアな音声をピックアップします。人の声以外の環境音を減衰させるノイズリダクションや、集音できる距離を自在に変更できる機能も実装される予定。AI Voice Bubbleはクアルコムが独自に開発する機能で、今回発表されたSnapdragon 8 Elite Gen 6世代での展開が予定されています。
そして4つめのデモが音声の文字起こしです。SoCに搭載されたNPUを活用しています。クラウドとの通信を必要とせず、端末内で処理を完結する「Timber(ティンバー)」というアプリが実演を交えて紹介されました。単に発話された単語をそのまま並べるのではなく、文脈を理解して「um」「uh」といったフィラー(言いよどみ)を自動でフィルタリングしてくれます。ほかにも発話内容から「リスト形式」であることを認識し、自動的に番号付きリスト(1.~、2.~のような)として整形・書き出す機能が搭載されています。
「AIまかせ」にしない心地よい体験をSnapdragonが実現する
こうした実際の利用シーンに近いユースケースに触れると、数値上の進化だけではなく、最新のSnapdragonがAIスマホとの親和性を本格的に高めてきたことがよくわかります。スマホがユーザーのコンテクストを理解しながら、その場に応じて必要な支援を確実に提供できることの意義を、あらためて実感しました。
クアルコムのCEOであるクリスティアーノ・アモン氏は、イベント初日の基調講演で「AIスマートフォンは、もうここにあるのだ」と繰り返し語りました。一方で「アプリとエージェントは共存する」とも述べています。
「何でもAIに任せればよいわけではない。自分でアプリを起動し、直接操作した方が早い場面も当然ある」。そうした従来の使い方を残しながら、AIがユーザーの意図を理解して、それを具体的な行動へとつなげる場面をどこまで増やせるのでしょうか。ハワイで示されたふたつのSnapdragonの真価を、まもなく登場する実機で確かめられる機会が楽しみです。




















