Samsungの折りたたみスマートフォン「Galaxy Z」シリーズが、最新モデルから3種類のバリエーションになった。新たな形状として登場したのが横折りで、かつ開くと横長画面となる「Galaxy Z Fold8」だ。

最新のGalaxy Zシリーズについて、韓国Samsungの副社長でCore Component Technology Team副チーム長であるヤン・ビョンドク氏が来日し、日本メディアのインタビューに答えた。

  • Samsungの副社長でCore Component Technology Team副チーム長であるヤン・ビョンドク氏

    Samsungの副社長でCore Component Technology Team副チーム長であるヤン・ビョンドク氏

何度も頓挫しかけた新モデル、鍵は日本のパートナー企業

Galaxy Zシリーズは、今回で8世代目。初代は2019年に登場したが、当時はまだこうした折りたたみ端末は市場にほとんどなく、その後もSamsungは折りたたみの先駆者として毎年新端末を発表してきた。

  • 折りたたみスマートフォンのGalaxy Zシリーズは8世代目

    折りたたみスマートフォンのGalaxy Zシリーズは8世代目

ビョンドク氏は「より薄く、より軽く、より堅牢で実用的な折りたたみスマートフォンを実現するために技術革新を続けてきた」とアピール。新モデルは「歴代で最も進化した折りたたみスマートフォン」だとビョンドク氏。

理想的な折りたたみスマートフォンは、長年にわたり積み重ねられたユーザー理解などによって完成し、Samsungがたどりついた答えが「大画面での没入体験」「極限の薄型・軽量化」「妥協のないUltra級のパフォーマンス」だったという。その中で「理想的な折りたたみスマートフォンは1つの形だけでは定義できない」との考えに至り、Galaxy Zシリーズを3つの異なる形で設計したという。

  • 今回、初めて3モデル体制となった。従来のFoldはGalaxy Z Fold8 Ultraとなり、無印のZ Fold8が新たに登場した

    今回、初めて3モデル体制となった。従来のFoldはGalaxy Z Fold8 Ultraとなり、無印のZ Fold8が新たに登場した

そして、今回の新製品での技術革新が「Flex Titanium」の開発だ。これによって強度、耐久性、視聴体験を損なわず、より薄いデバイスを実現することを目指した。頑丈でありながら、ディスプレイに合わせて曲がり、開いたときには平坦になってディスプレイを支える構造を実現する必要があり、それが難題だったという。

これを可能にするために、チタンプレートとチタン合金フィルムを採用。チタンプレートは、折り曲げ部に精密なハイブリッド加工を施し、曲げられて、開いたときにはシワが見えにくい構造となった。

チタン合金フィルムは、人の髪の毛の約1/3という薄さで、これらによって頑丈になりながら薄く、ディスプレイの開け閉めを何万回繰り返しても安定した高い耐久性を実現した。

  • Flex Titaniumを採用したディスプレイ

    Flex Titaniumを採用したディスプレイ

  • 右から2枚目がチタン合金フィルム。非常に薄い

    右から2枚目がチタン合金フィルム。非常に薄い

ユーザーの声から生まれた「Easy Open構造」も新機能だ。本体が薄くなるほどディスプレイが開きづらいという声が高まり、それに対してヒンジ、マグネット、ディスプレイの張力を調整して、ディスプレイの端に爪をかけやすい溝を設けたうえで、自然にスムーズに開けられるようにしたという。

Flex Titaniumの採用により、開いたときによりフラットになり、折り目が目立たなくなったうえ、Z Fold8 Ultraは厚さ4.1mm、Z Fold8は重さ201gと、それぞれ世界最薄、世界最軽量を達成。ディスプレイモジュール自体は10%の薄型化を実現した。

その結果、内部のスペースが広がり、新型シリコンカーボン負極バッテリーを導入し、バッテリー容量を高めてバッテリー駆動時間を伸ばした。

初代から第8世代まで折りたたみスマートフォンの開発に携わってきたビョンドク氏は、今回が「最も困難で最も革新的だった」と強調。そうしたなかで、Flex Titaniumの実現には日本企業の貢献があったと紹介した。

Samsungでは、Flex Titaniumの実現に必要な強度の高いチタン合金、そしてそれを数十μmで薄く均一に安定して量産できる超精密加工技術を求めて、世界中の企業にアプローチしたという。この条件を満たせる品質の素材を提供し、加工できたのは、世界中でも日本のパートナー企業だけだったそうだ。

ちなみに、このFlex Titaniumの開発は日本企業も大きな苦労をしたそうで、Samsung内部ではスティーブン・スピルバーグ監督の映画『プライベート・ライアン』(原題は『プライベート・ライアンの救出』)にちなんで「プライベート・ライアン救出プロジェクト」と呼ばれていたとビョンドク氏。映画で主人公が何度も死の危機に瀕したように、プロジェクトも何度も頓挫しかけたのだという。

ビョンドク氏は、今回のZ Fold8シリーズが日本のパートナー企業なしでは実現できなかったとして、感謝の意を示した。

Z Fold8シリーズでは、インカメラにおいてUDC(アンダーディスプレイカメラ)ではなくパンチホール型を採用している。この点について問われたビョンドク氏は、「UDCの技術の開発は終了したわけではないが、7世代にわたるユーザーの利用データから、ゲームや動画視聴時における画面表示、セルフィー撮影時の十分な画質、持っていて疲れないグリップ感の調和を総合的に考慮した結果、パンチホール方式を採用することがベストと判断した」としている。ただし、UDCは今後も検討を重ねていくという。

ディスプレイでは、Z Fold8で「フレックスモード」に対応していない点が、Z Fold8 Ultraとは異なっている。ビョンドク氏は、Z Fold8のコンセプトでフォーカスしたのは、「映像やマンガなどのコンテンツを最も快適に、疲れずに消費できる大画面スマートフォン」だったという。そこで、開いたときのアスペクト比は4:3にして手に持ったときのグリップ感、つまり重さと軽さのバランスを重視した。フレックスモードに対応するには、別途部材や設計が必要になり、どうしても厚みと重さが増してしまうことから、フレックスモード非対応にしたそうだ。

  • Z Fold8は、開くと4:3の横長ディスプレイ

    Z Fold8は、開くと4:3の横長ディスプレイ

コンテンツ消費を重視して横長のアスペクト比になったZ Fold8だが、昨今はショート動画や縦スクロールのWebtoonもあり、縦型コンテンツが広がってきている。ビョンドク氏もそれは把握しているとしつつ、もともとZ Foldシリーズの投入によってYouTubeなどの動画コンテンツの視聴や電子書籍の読書というユーザーの行動が増えていると指摘。

そうしたなかで、横長のアスペクト比に関する検討は「かなり以前から重ねてきた」とビョンドク氏。大画面で没入感を実現しつつ、携帯性が高く長時間持ち続けて使用できる重さと軽さを実現するために継続してきたという。

そして、Flex Titaniumの開発によって、これが実現できることになり、今回横長画面のZ Fold8が投入できることになったそうだ。「競合の参入を意識したものではなく、7世代にわたるユーザーインサイトと技術的な準備状況をもとに決定している」とビョンドク氏。

「個人的な話」と前置きしたうえで、ビョンドク氏は「私は日本のマンガが大好きなのです」と話す。自身もZ Fold8で日本のマンガを読んでおり、マンガを読むために最適化されていると感じているという。紙のマンガのようにページをめくって読むサイズとして、4:3の画面比率はマッチしており、長時間手に持っていても負担が少ないサイズ感となっているとビョンドク氏はアピールする。

  • コンテンツ視聴に適した4:3のディスプレイ

    コンテンツ視聴に適した4:3のディスプレイ

なお、今回も省かれたSペンだが、ビョンドク氏は製品の方向性とユーザーニーズを総合的に判断して検討していくとの回答だった。

ビョンドク氏は、Galaxy Zシリーズを複数世代にわたって投入し、ユーザーの実際の使い方を学んできた点を優位点として強調。ディスプレイやヒンジ、熱設計などのハードウェアだけでなく、独自UIのOne UIやアプリ体験といったソフトウェア面での最適化も強みだとしている。他社から折りたたみ端末が登場すれば、市場は活性化するとして歓迎の意向を示しつつ、強みを生かしてさらに進化させていきたい考えを示していた。

日本での状況は?

サムスン電子ジャパン 常務・MX事業本部CMOの小林謙一氏は、「7世代分のさまざまなユーザーの声やフィードバックを蓄積して、折りたたみスマートフォンの幅広いニーズに沿ったラインナップ展開が必要という結論に至った」と説明。日本でのマーケティングも、通常のスマートフォンユーザーに「なぜ折りたたみスマートフォンが必要か」と説明するのではなく、「どの折りたたみを選択するか?」という訴求に変えたという。

3モデルとなったことで反響も増え、発表後のSNSの言及数は前作比で2倍になったという。さらに、折りたたみスマートフォンを実際に体験してもらうべく、端末に触れられるタッチポイントを2.6倍に増やしたそう。

販売実績は、前作モデルの1.2倍。「手応えを感じる滑り出しになっている」と小林氏は強調する。このタッチポイントは、家電量販店とキャリアショップの効果が高く、Samsungのコーナーを増やして対応してきたそうだ。

小林氏は課題として、「折りたたみスマートフォンが世の中にあることが、まだバーチャルな話題にとどまっている」という点を挙げ、体験場所を増やすことで「リアルな選択肢」につなげていきたい考えだ。

こうしたショップでの体験では、特に4キャリア全体で取り扱うことになり、「本来の正しい価値や体験を伝えてもらいたい」と小林氏は強調。そこで「Galaxyアンバサダー」制度を導入し、キャリアショップのスタッフに対する研修などを通じて、Galaxy端末の魅力を伝える環境を構築。「非常に大きな手応えを感じている」という。

高騰が続く価格面では、「発表の直前まで社内で検討を重ね、紆余曲折があった」とサムスン電子ジャパンの常務・MX事業本部副本部長の大橋秀俊氏は言う。

  • サムスン電子ジャパンの常務・MX事業本部CMOの小林謙一氏(右)と、常務・MX事業本部副本部長の大橋秀俊氏(左)

    サムスン電子ジャパンの常務・MX事業本部CMOの小林謙一氏(右)と、常務・MX事業本部副本部長の大橋秀俊氏(左)

半導体やメモリー価格の高騰と円安環境によってコストも上昇しており、当然最低限の利益ラインがあるが、単純にコスト上昇分を上乗せすると誰も買えなくなってしまう。そのため、グローバル本社とも交渉を重ね、最大限の企業努力と調整を行ったそうだ。

Galaxy Zシリーズ限定の話ではないが、Samsungが独自で提供するウォレットアプリ「Samsung Wallet」について、大橋氏は「Samsungのエコシステムにおいて極めて重要なコアツールの1つ」だとしている。グローバルでは、決済機能としてクレジットカードなどの登録だけでなく、運転免許証やデジタルキー、暗号資産ウォレットなどの機能を備えたプラットフォームとなっており、Appleウォレット、Googleウォレットと並ぶサービスとなっている。

「日本では、厳しい法規制や既存の決済インフラ、パートナーとの個別の調整が必要で、提供できる機能はまだ限られている」と大橋氏。

そのなかで、2027年上半期にはSuicaへの対応を予定しているほか、マイナンバーカードについても「極めて重要な領域としてとらえており、現時点で具体的な対応内容や詳細な時期は公表できないものの、各省庁や関係方面と前向きかつ非常に緊密な協議を継続して進めている」と話している。