クアルコムが新世代のチップセットを発表するイベント「Snapdragon Summit」、今年もハワイ・マウイ島で開催されました。独自の設計によるCPU「Oryon」(オライオン)の最新世代を載せたモバイル向けの「Snapdragon 8 Elite Gen 5」と、PC向けの「Snapdragon X2 Elite」ファミリーを発表しました。筆者も「より賢くなるAIスマホとAI PC」を現地で体験してきました。
コンスタントにイノベーションを達成してきたSnapdragon
世界中から多くのジャーナリストが集まるSnapdragon Summitは、今年開催10周年を迎えました。筆者は、2017年ごろに初参加していたようです。当時は、イベントの名称が「Qualcomm Snapdragon Technology Summit」と呼ばれていて、同じハワイのマウイ島で「Snapdragon 845」がお披露目されました。
-

今年、Snapdragonのスペシャルイベントは10周年を迎えました。初日の基調講演では、クリスティアーノ・アモン社長がAIの未来を語り、イベントに集まったファンコミュニティ「Snapdragon Insider」の代表者とともにステージ上で節目の開催を祝いました
それから数年は、モバイル向けチップセットのフラグシップと、ワイヤレスオーディオ向けのチップセットを発表するイベントとして位置付けられてきました。近年、クアルコムはこのイベントでオートモーティブやXR/ARデバイス向けのプラットフォームを紹介することにも力を入れています。そして2023年以降は特に、コンピューティングデバイス(PC)向けのチップセット「Snapdragon Xシリーズ」の進化をこのイベントで伝えています。
今年は、クアルコムが自社で設計する第3世代のOryon CPUを搭載する、モバイル向けとPC向けSnapdragonのフラグシップを発表しています。まずはその概要からお伝えします。
自律的にユーザーを支援する「AIエージェント」がスマホにやってくる
モバイル向けのチップセットは「Snapdragon 8 Elite Gen 5」です。今年は残念ながらこのイベントで、新しいチップを搭載する次世代の新製品を見ることができませんでした。でも、このところ毎年新しいSnapdragonのフラグシップを一番乗りで載せてくるシャオミが、中国の現地時間9月25日にSnapdragon 8 Elite Gen 5を搭載する「Xiaomi 17」を発表しています。
クアルコムは、ほかにもソニーにサムスン、OPPO、Honorなどのグローバルブランドから新しいSnapdragonを載せたフラグシップスマホが続々と誕生するだろうと、期待を込めて伝えています。日本ではシャープの動向にも注目です。
新しいチップセットは、現行のSnapdragon 8 Eliteに比べるとOryon CPUのパフォーマンスが20%向上しました。GPUのAdrenoもアーキテクチャを見直し、例えばグラフィックスの情報量に富んだゲーミングコンテンツの体験を向上させます。そして、AI関連の処理に活躍するHexagon NPU(Neural Processing Unit)は、現行の8 Eliteよりも37%速くなっています。
クアルコムの幹部であるアレックス・カトゥージアン氏は、イベント期間中に開催した基調講演の中で、Snapdragon 8 Elite Gen 5が「世界最速のモバイル向けSoC」であることを強調しながら発表しました。
クアルコムも、自社のチップセットを搭載するAIスマホによるユーザー体験を高めることに力を注いでいます。チップセットの進化も毎年顕著ですが、今年は単にユーザーから指示を受けてリクエストに応える受動的なAIではなく、ユーザーの行動を把握し、環境にも適応しながら自律的にユーザーを支援する「agentic AI」(AIエージェント)を実現する機能が強化されています。
代表的なものが「Qualcomm Personal Scribe」という、新しくチップセットに追加されたソリューションブロックです。次世代Snapdragonを搭載するスマホのカメラ、マイク、その他の多種多様なセンサーにアプリの情報などと連携しながら、ユーザー個人の好みや情報(ナレッジグラフ)を学習して、ユーザーのプライバシーにも配慮しながらAIエージェントが支援することに、このPersonal Scribeが貢献します。
Personal Scribeは、Hexagon NPUとさまざまなセンサーから集まる情報を制御するSensing Hubという、超低消費電量なサブシステムとつながりながら、個人に最適化されたAIエージェント体験を提供します。
具体的な事例のひとつとして、Snapdragon Summitの会場ではAIエージェントを載せた端末のプロトタイプによるデモンストレーションを体験しました。スマホで撮影した膨大な写真データの中から「今年の夏のバケーションの写真」を選択して、その中から映える写真をインスタグラムに投稿するところまでをAIエージェントがフルオートで支援してくれます。デモ体験の都合上、「写真を選んで、インスタにポストする…」という一連のタスクが処理される様子を端末のディスプレイに表示しながら、ゆっくりと再現していましたが、クアルコムのスタッフによると「ユーザーが音声操作でAIエージェントにリクエストすると、アプリを立ち上げて画面に表示することもなく、同じタスクをより素速くこなすことができる」そうです。
クアルコムでAIに関連するテクノロジーの開発をリードするヴィネシュ・スクマール氏は「例えば『来年の夏に日本に旅行するプランを立ててホテルも予約して」といった、複数のタスクを連携して実行するAIエージェントの存在がますます重要になる」という考えを、日本から参加したジャーナリストによるグループインタビューの中で答えています。このような複雑な処理には高い計算能力が求められるため、NPUの性能は今後も止まることなく向上し続けるだろうと、スクマール氏は語っていました。
実際のところ、Snapdragon 8 Elite Gen 5には、AIエージェントの実現を助けるSensing HubやPersonal Scribeといったシステムが揃い、またクアルコムが外部に提供するAIソフトウェア開発プラットフォームのQualcomm AI Stackがあります。これらを活用して、Snapdragonを搭載するデバイスのメーカー、あるいはアプリの開発者が思い思いのAIエージェントをユーザーに向けて提案できます。AIエージェントが学習したユーザーのデータをどのように扱うか、機種変更やアプリの環境を引き継ぐ時にはどうすればよいのかなど、今後はAIエージェント搭載スマホへのさまざまな「期待と課題」も浮き彫りになってくると思われます。
AI PCの進化を加速させるSnapdragon X2 Eliteシリーズ
クアルコムは、次世代の「AIエージェント」をコンピューティングデバイス、つまりはパソコン上で実現するために、パワフルな次世代のSnapdragon Xシリーズのチップセットも発表しています。
現行の最上位のチップを受け継ぐのは「Snapdragon X2 Elite」シリーズです。モバイル向けのチップセットと同じく、第3世代のOryon CPUを載せてパフォーマンスを強化。Adreno GPUはアーキテクチャを見直して、パフォーマンスと電力効率が現行世代のSnapdragon X Eliteから2.3倍向上しています。
なお、X2 Eliteをさらに強化した「Snapdragon X2 Elite Extreme」というチップセットも同時期に提供を開始します。それぞれを採用するパソコンは、2026年の第1四半期ごろからの商品化が見込まれています。
今回のイベントでは、Epic Gamesの「フォートナイト」をはじめ、Snapdragonのチップを搭載するモバイルPCでも快適にプレイできるようになり、また他のゲームスタジオによるタイトルも続々と対応することが伝えられました。
AI関連のタスクをこなすHexagon NPUは、80 TOPSの処理能力を備えました。WindowsのCopilot+ PCによるAI体験のレベルアップにつながると、クアルコムは期待を込めて発表しています。
イベントの会場で筆者は、アメリカのスタートアップ企業Collovが提供するインテリア・不動産のAIシミュレーションツール「collav.ai」を、Snapdragon X2 Eliteのチップを載せたリファレンスモデルで動かすデモンストレーションを体験しました。
クアルコムは、デバイス上のAIとクラウドAIが、ユーザーにその切り替えを意識させることなくシームレスに支援する「Hybrid AI」の考え方をベースにしたAIエージェントを一歩ずつ実現しようとしています。collav.aiは、ユーザーが撮影した写真データをパソコンで読み込み、ウェブアプリを使って内装家具の色や形状、配置などを自由に変えられるシミュレーター的な使い方ができます。現在のサービスでは、クラウドAIをメインに動かしていますが、今回の会場で披露されたデモは、デバイス上のAIをメインに使う次世代のプロトタイプでした。
ユーザーのプライバシー情報を安全に守りながら、オフラインでもAIを活用しながらスムーズに仕事ができれば、多くのビジネスパーソンに歓迎されそうです。Snapdragonのチップが提供するインフラの上に、さまざまなデベロッパが独自性豊かなアプリやサービスを実現する近い未来が楽しみです。
Snapdragon搭載スマホはカメラもより高性能になる
話題をSnapdragon 8 Elite Gen 5に戻します。このクアルコムによるモバイル向けチップセットには、画像信号処理プロセッサーの「Spectra ISP」が統合されています。最近ではHexagon NPUやOryon CPUとも連携しながら、AIモデルを活用するデジタル画像処理性能を高めてきました。
最新のSpectra ISPも、データ処理のパイプラインを現行の18ビットから20ビットに拡大して、約4倍のダイナミックレンジ拡大を実現しました。さらに豊かな明暗の再現力を獲得しています。ほかにもAE/AF/AWBのオート機能のブラッシュアップや、暗所の撮影性能を高める「ナイトビジョン3.0」の機能についてはノイズリダクション性能を高めています。このSpectra ISPに最先端のイメージセンサーを組み合わせた次世代のフラグシップスマホが楽しみです。
Snapdragon 8 Elite Gen 5には、搭載するデバイスのカメラで撮影した写真・ビデオにコンテンツのC2PAの規格に準拠するクリエーションの来歴情報を付与する機能も統合されます。オプションとして提供される機能であるため、今後はデバイスをつくるメーカーが任意にこの機能の採用を決めて、C2PAに対応するスマホを世に提案することが可能になります。生成AIの時代に、デジタルコンテンツの真正性や透明性を確保することはとても重要なテーマのひとつであるとされています。いわゆるフェイク画像の流布が、スマホのカメラで写真やビデオを撮る時点から断てることには、とても大事な意味があると思います。
「AIヘッドホン」をWi-Fi経由でクラウドにつないで楽しむ
最後に、クアルコムのワイヤレスオーディオに関連するアップデートをひとつ紹介します。
クアルコムによるBluetoothオーディオ向けのチップセット「Snapdragon S7+ Gen 1 Sound Platform」(およびS7)は、超低消費電力のマイクロWi-Fi回路を搭載したことにより、ワイヤレスオーディオの「音質」「ロバストネス」(通信の安定性)「伝送遅延」の3点を大きく改善する「Qualcomm XPAN」(エクスパン)という特徴的な技術を実現しています。筆者は昨年のSnapdragon Summitで、その詳細を取材・レポートしています。
XPANの仕組みについては本稿では割愛しますが、現在その高音質は日本でもシャオミが発売するワイヤレスイヤホン「Xiaomi Buds 5 Pro(Wi-Fi版)」とスマホの「Xiaomi 15 Ultra」を組み合わせると体験できます。
音質の良さ以外にもXPANの特徴である、ワイヤレスイヤホンをWi-Fiアクセスポイントに直に接続して、Bluetooth通信の限界範囲を超えてより広いエリアでオーディオストリーミングを受信する「Whole Home Coverage」(家まるごとワイヤレス)の機能も近日シャオミのペアが対応します。
現在、シャオミのペアができるWi-FiのP2P(Peer to Peer)接続によるリスニングは、Bluetoothによる接続からの正常進化のようなものです。XPANにはさらにその先の「続き」があり、S7+/S7チップを搭載するワイヤレスヘッドホン・イヤホンを、スマホを介することなく「直接クラウドにつなぐ」ことも可能になります。
イベントのデモ会場では、アメリカのマーク・レビンソンが試作したXPAN対応ワイヤレスヘッドホンが用意されました。通常は、スマホのアプリを介することなく、ヘッドホンだけで聴きたい音楽などのコンテンツを選んで再生することは困難です。今回の試作機には、ChatGPTを載せて音声で操作するユーザーインターフェースが載っていました。筆者も現地で使い勝手を体験しています。音声入力に対して少し間を置いてから、ChatGPTが「今日のニュース」を声で返してくれたり、インターネットラジオ番組の再生を始める体験を味わいました。「いよいよポータブルオーディオもAIを搭載するスマートデバイスの一員になる!」という強い期待感を、今年もSnapdragonのイベントに参加しながら高めることができました。









