富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は2月13日、同社PCの生産拠点である島根富士通のPC累計生産台数が5,000万台を達成(2025年1月20日付)したと発表しました。これを記念し、島根県出雲市にある島根富士通では5,000万台記念式典を開催。特別な「5,000万台記念モデル」もお披露目されました。

  • PC累計生産台数5,000万台記念モデルは職人技が光る「組子細工」天板に注目

    PC累計生産台数5,000万台記念モデルは職人技が光る「組子細工」天板に注目

  • 累計生産台数5,000万台を記念して鏡開きも実施。島根県知事の丸山達也氏(一番右)、出雲市長の飯塚俊之氏(左から2番目)もお祝いに駆け付けた

島根富士通「次の30年」はさらなるスマートファクトリー化

島根富士通は1989年12月に島根県簸川郡斐川町で創業、1990年に事業を開始。当初はFM TOWNSなどのデスクトップPCを生産していましたが、1995年にFMVブランドのノートPCの生産に特化します。同年に生産100万台を達成し、その後は1年~2年ごとに100万台生産を積み上げていきます。

  • 島根県出雲市に位置する島根富士通。毎年夏休みには、子どもを招いたPC組み立て教室も開催される

累計生産1,000万台を達成したのは2003年。2011年からはタブレットの生産も開始し、2013年に生産3,000万台を、2019年に生産4,000万台を実現しました。なおこの間(2016年2月)、富士通のPC事業が富士通本体から分社化され、FCCLが設立。2018年5月には、2011年にNECのパソコン事業を買収したレノボグループが51%を出資する形でレノボ傘下の新生FCCLがスタートしています。

2021年には、もともと福島県伊達市の富士通アイソテックが請け負っていたデスクトップPCの生産を、島根富士通へ移管。富士通ブランドのPC生産は島根富士通に集約される形となりました。

そして今回、島根富士通で累計生産台数5,000万台を達成。式典の開催にあたり、島根富士通の神門明代表取締役社長は協力会社や地元の行政への感謝を述べた上で、これから島根富士通が狙う未来について紹介。「次の30年に向け、『変動力』と『逆境力』を身につけることで、最先端のスマートファクトリーの構築を目指します」とコメントしました。

  • 島根富士通の神門明社長

まずは2030年をめどにスマートファクトリー化を進めるため、プリント基板製造については完全自動化を目標とします。プリント基板製造は既に人の手を介す作業が少ない工程ですが、現状ではまだ部品の移動やエラー対応などに人間の対応が必要だそう。すでに導入している自動搬送車(AGV)を増設するなどして完全自動化を目指します。

工場の1Fで完成したプリント基板を、2FのPC組み立て工程へ直接(無人)供給できるシステム構築も目標の1つ。組み立て工程では、完全自動化ではなく、人と機械が長所を活かしながら協調して生産性を高める取り組みを実施したいとします。PCを組み立てる人の補助や、品質試験・梱包などで積極的にロボットを導入し、変種変量に対応していくとのこと。

また工場内における部品・部材移動を中心とした物流の効率化にも着手し、部品の入荷や完成製品の出荷まで、運搬作業は全て無人化したいとしました。「島根富士通は、パソコンの累計生産台数5,000万台という節目を迎えましたが、まだまだこれは通過点に過ぎません。協力会社の皆様、行政の皆様、そして地域の皆様とともに次の未来へ向かって進化してまいります」(神門氏)。

  • 島根富士通(SFJ)の“Next30”。市況の変化に臨機応変に対応できるスマートファクトリー化を図るとする

  • プリント基板への部品実装(SMT)は「完全自動化」、装置製造では人間と機械の「協調精算」、物流では省力化・効率化の追求を目指す。2030年におけるSMTの目標自動化率は100%

  • PC組み立て工程は人が得意なこと、機械が得意なことを組み合わせて生産性を高める。2030年における目標自動化率は65%(2024年は25%)

  • 物流の2030年における目標自動化率は80%(2024年は40%)

  • AGVは現在でも活躍中。床に描かれたラインに沿って棟間を自動で動き回りエレベーターにも単独で乗る

東京と島根の2拠点が連携する「ワンチーム」で高付加価値・高品質化

FCCL代表取締役社長の大隈健史氏も累計生産5,000万台のお祝いに駆け付けました。FCCLは2025年1月にPCブランド「FMV」を刷新しています。大隈氏は「法人向けも個人向けも、共通して求められるのは、日本での使用環境を考え抜いた高付加価値と、安心できる高品質の2つ」と紹介。

高付加価値と高品質を実現するため、東京・川崎にあるFCCLの企画開発部門と島根富士通が「ワンチーム」で密に連携することで、これらを生み出せたと話しました。実際、若年層向けのノートPC「FMV Note C」でも開発にあたって企画開発部門のリーダーが島根富士通へ出向き入念に打ち合わせる場面もあったそう。

コロナ禍前の2018年と比べ、2024年におけるFCCL製品の国内製造比率は、65%から80%へ高まっています。大隈氏は「PC製品を取り巻く市場の変化が激しい現在、島根富士通は単なる製造拠点ではなく、日本のものづくりの誇り。これを象徴する場所でありたいと願っています」と、さらなる期待を寄せました。

  • FCCL代表取締役社長の大隈健史氏

  • FCCL製品の国内製造比率の高まり。2018年は65%だったところ2024年では80%まで伸ばした(数字は島根富士通のもの)

繊細な組子細工を天板に組み付けた5,000万台記念号機

さて、島根富士通では記念的な累計生産台数を記録するたびに「記念号機」を製作しています。1994年8月の50万号機はWindows 3.1を搭載した“ゴールド”色のデスクトップPC「FMV466D2E」。プロセッサはIntelの32bitマイクロプロセッサ「i486DX2」でメモリ4MB/ストレージ340MBの仕様となっています。記念号機の一覧はこちら。

  • 50万号機はWindows 3.1を搭載した「FMV466D2E」

50万号機(1994年8月) FMV466D2E Windows 3.1
100万号機(1995年8月) FMV-BIBLO 475NL/S Windows 95
300万号機(1998年11月) FMV-BIBLO NEVIII23 Windows 98
500万号機(2000年7月) FMV-BIBLO NE4/50C Windows 98
1000万号機(2003年8月) FMV-BIBLO NB18D/F Windows XP
2000万号機(2008年2月) FMV-BIBLO LOOX R70Y Windows Vita
3000万号機(2013年5月) FMV-LIFEBOOK UH90L Windows 8
4000万号機(2019年5月) FMV-LIFEBOOK UX-X/C3 Windows 10

2025年2月13日にお披露目された5,000万号機は、FMV Note Cをベースに特別色の天板に島根に伝わる伝統木工技術「組子細工」を組み合わせた特別なPCとなりました。舟木木工所の代表であり組子細工職人の船木清氏が、約4mmと薄く削った木のパーツを約5,800ピース組み上げ、2カ月半かかって完成させたといいます。

  • 5,000万号機は細かな組子細工が目を引くモデル。通常モデルより厚みを持たせた金属天板の中を削り、組子細工を入れ込んでいる。黒い地の部分は液晶を隠すための専用シート

  • 前面は一般的なNote Cと同じ

その意匠は2025年の干支・へび年にちなみ、島根県出雲市にまつわる「ヤマタノオロチ」が2頭、右肩上がりに上昇しているもの。「へびが脱皮するように、会社がより発展することを願った」という縁起の良いデザインです。

素材には桜、ヒノキ、槐(えんじゅ)、朴木の4種類の木材を使い、自然の色を活かして模様を描いています。伝統工芸というくくりでは2019年5月に製作された4000万号機が、島根県ふるさと伝統工芸品に指定されている「八雲塗」の天板になっていますが、より自然で素朴ながら細かな細工で職人芸を感じられる、印象的な1台に仕上がっていました。

  • 2頭のヤマタノオロチが上昇している意匠をデザイン

  • 使用した木材に着色はせず、木そのままの色を使った細工。幾何学模様が美しい

  • FMVのロゴがワンポイントとして左下に

  • キーボードは島根富士通を示す「S」「F」「J」が木製キーキャップとなっている

  • 通常モデルのNote Cよりやや厚みがある特別天板となっている

  • 島根富士通の神門社長(左)と、5,000万台記念号機の天板を製作した舟木木工所の舟木清氏(右)。舟木氏は2014年に黄綬褒章を受章し、島根県技能士連合会の会長および島根県建具協同組合の相談役も務めている

  • 4,000万号機は八雲塗で描かれた宍道湖の夕景

  • 2019年5月の4,000万号機と2025年1月の5,000万号機を並べたところ。スマートファクトリー化が進むことで次の6,000万号機の達成は意外と早いかもしれない