2023年9月にParamount+の日本参入が発表されてから間もなく1年。Paramount+単独で配信サービスを行うのではなく、J:COMおよびWOWOWをパートナーとして両社の動画配信プラットフォーム「J:COM STREAM」「WOWOW オンデマンド」上でコンテンツを提供するという形で同年12月1日にサービスが開始され、2024年4月にはAmazon Prime Videoでのチャンネル配信もスタートしました。この間の手応えと今後の展望をパラマウントとJ:COMの両社に聞きました。

パラマウントとしては「現状まで順調」、日本では多様なコンテンツが注目される傾向

パラマウントから取材に対応してくださったのはパラマウント・グローバル・ジャパン株式会社ヴァイスプレジデントのエリン・チャン氏です。

  • エリン・チャン氏

    パラマウント・グローバル・ジャパン株式会社 ストリーミング ヴァイスプレジデントのエリン・チャン氏

——日本でParamount+のサービス開始から約8カ月が経過しましたが、この間の視聴者数の推移や反応をどう評価されていますか。

チャン:現在まで順調にきていると思っています。視聴者数も再生回数も想定どおりといえます。ただ、まだ(国内参入発表から)1年ですし、もっと上を目指したいとは考えています。

——国内参入発表の会見やサービス開始からのユーザーの反応はいかがですか。

チャン:Paramount+を観たかった、観たい作品があって待っていたという反応をいただいています。その一方で、個々の作品については知っていても「Paramount+」というサービスについては知らなかったという声もあり、サービス・ブランドの認知度を高めることが重要だと感じています。

——Paramount+単体でのサービス提供ではなく、J:COMやWOWOW、およびAmazonと提携して各社のストリーミングサービス上でサービスを展開するという形について、ユーザーからなにか声は届いていますか。

チャン:ポジティブな評価を多くいただいています。J:COMやWOWOWの既存ユーザーにとっては追加料金なしでParamount+のコンテンツを視聴できることになりますので、よいニュースと受け取られているようです。

——サービス開始から今日まで、日本国内で反応がよかった作品というとどんなものになりますか。また、日本国内での利用傾向の特徴などがあれば。

チャン:反応がよかった作品はいろいろありますが、最近の作品でいうと、6月に配信開始になった『ナックルズ』。日本でも人気のあるソニックシリーズの作品なので、キャラクターのファンが多く、待っていたお客様が多かったようです。

それから、『NCIS:シドニー』。『NCIS』は歴史も長い人気シリーズですが、今作はアメリカ以外が舞台になった初めての作品になります。『スター・トレック』も日本国内でずっと人気がありますし、『サウスパーク』は新エピソードが久々にParamount+で観られるようになりました。。Paramount+のオリジナルドラマでは、12月にシーズン1がローンチしたジェレミー・レナー主演の『メイヤー・オブ・キングスタウン』のシーズン3がが8月2日にローンチされています。

日本では他の国にくらべて、多様なコンテンツが注目される傾向にありますね。他国で人気のミステリードラマや人気映画は国内でも人気ですが、ドキュメンタリー作品など他のジャンルも日本では上位に入ってきます。J:COM STREAMでは『空の戦士たち』というミリタリー系のドキュメンタリーがトップ20に入っていますが、他国ではあまりみられない現象ですね。年齢層も日本は他の市場より高いように思います。

——配信プラットフォームごとに人気作品や視聴習慣の違いはありますか。

チャン:J:COM STREAMはファミリー層のお客様が多くて、多様なコンテンツが愛されている傾向があります。『NCIS』『クリミナル・マインド』といった作品はどのプラットフォームでも人気ですが、『パウ・パトロール』はJ:COM STREAMでの人気が高いです。

——今後、日本国内ではどういったコンテンツに力を入れていくお考えですか。直近の作品で注目のものがあれば合わせて教えてください。

チャン:Paramount+の代表的な作品を紹介していきたいと考えています。『スター・トレック』『サウスパーク』などは新しいシリーズをどんどん制作していますので、それを紹介していきたいというのがまずひとつ。それから、『タルサ・キング』や前述の『メイヤー・オブ・キングスタウン』のような新しい作品、Paramount+のオリジナル作品もあります。そしてもちろん、パラマウントは映画で知られているわけですから、パラマウントの映画にも力を入れていきます。

直近の作品では、8月9日に公開となった『フェロー・トラベラーズ』があります。マット・ボマーとジョナサン・デイリーが演じる、男同士のラブストーリーです。1950年代のアメリカという同性愛が受け入れられていなかった時代を舞台にしており、多くの賞にノミネートされている作品です。また8月16日には、『モスクワの伯爵』という、著名な小説を原作にしたユアン・マクレガーの主演作が公開になります。そしてコミコンで情報を出したばかりですが、2025年の初頭にはミッシェル・ヨーが出演する『スタートレック』シリーズ新作の『スター・トレック:セクション31』が日本でも公開の予定です。オリジナル作品やフランチャイズ作品としては、この3作品に力を入れていきたいと考えています。

  • ミシェル・ヨーが『スター・トレック:ディスカバリー』にも登場したフィリッパ・ジョージャウを演じる『スター・トレック :セクション31』は、2025年にParamount+で独占配信の予定 TM & © 2024 CBS Studios Inc. STAR TREK and related marks and logos are trademarks of CBS Studios Inc. All Rights Reserved.

映画では、昨年12月に劇場公開された『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』が8月14日にParamount+で配信開始になります。

——『スター・トレック』といえば、『スター・トレック ローワー・デッキ』が、日本では現在Amazon Prime Videoでシーズン1・2を視聴できるのみだと思います。シーズン3の配信再開、シーズン4の配信の予定はないのでしょうか。

チャン:前向きに検討しています! もう少し時間をいただければ、よいニュースをお届けできるのではないかと思います。この作品を観たいという声が多いということは私たちもよくわかっています。

——『クリミナル・マインド FBI行動分析課:エボリューション』や『トランスフォーマー アーススパーク』のように、米国ではParamount+で配信されているのに、日本国内ではParamount+での配信が行われておらず、地上波や衛星放送など他チャンネルで視聴するしかない作品があります。そういった作品を日本国内でもParamount+で視聴できるようにするような計画はあるのでしょうか。

チャン:個別の作品のことをお話するのは難しいのですが、全体として言えば、Paramountの作品はParamount+で視聴できるようにしていきたいとは考えています。

——最後に、ここまでお話しいただいた以外に日本国内での動きが何かあれば教えてください。

チャン:先ほどサービス・ブランドの認知度のお話をしましたが、認知度の向上やファンコミュニティの形成を目的として、6月に原宿でポップアップイベントを開催し、15,000人の方に来場いただきました。そしてParamount+のタグラインが「Mountain of Entertainment」だということもあり、8月11日の山の日から「山の日キャンペーン」を開始しています。こちらにもご注目いただければと思います。

——どうもありがとうございました。


チャン氏から紹介のあった「山の日キャンペーン」は、東京都内各所の“山”にまつわるスポットをParamount+が埋め尽くすと言うもの。富士山のペンキ絵で知られる東上野の銭湯「寿湯」では、8月16日から9月18日まで、ペンキ絵の富士山がパラマウント作品のロゴムービーでもおなじみのパラマウント山に変更されます。また“山”手線での広告ジャックを実施、さらに8月9日から8月25日まではParamount+の人気作品をあしらったパラマウントタクシーが都内を走行しています。さらにParamount+のコンテンツから選ばれた100作品を「パラプラ100名山」として紹介するSNSキャンペーンも開催しています。

テレビ視聴時間を減らすことなく配信視聴時間が増え、トータルの利用時間が増えているというJ:COM

前述のとおり、Paramount+のコンテンツ配信を行っているプラットフォームのひとつがJ:COMの提供するストリーミング配信サービス「J:COM STREAM」です。J:COMでは、2023年10月に従来からのテレビ放送とJ:COM STREAMの動画配信をワンプラットフォームで提供する「シン・スタンダード」を開始しており、Paramount+をJ:COM STREAMのコンテンツの柱のひとつとして位置付けています。今回のインタビューでは、映像事業本部 副本部長の外崎創氏に、J:COM STREAMでのParamount+の状況と合わせて、シン・スタンダード/J:COM STREAMの状況についてもお聞きしました。

  • 外崎創氏

    JCOM株式会社 映像事業本部 副本部長の外崎創氏

——Paramountとの提携、およびシン・スタンダード/J:COM STREAMの提供開始からここまで、サービスの利用者数・利用時間や再生回数の推移などをどう評価されていますか。

外崎:順調にきていると考えています。Paramount+、シン・スタンダードともに想定どおりですね。課題があるとすれば、Paramount+の認知がまだあまり高くないということ。この点は、パラマウントでも認知度向上の施策を行うと聞いています。

——J:COM STREAMはケーブルテレビの非加入者向けの単体サービス展開もはじまりました。

外崎:以前からやりたいと思っていたサービスです。既存サービスとの兼ね合いもあり、このタイミングでのスタートになりましたが、『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』の配信開始と重なって、いいタイミングになりました。

——J:COMとしては、Paramount+にどういった層への訴求を期待しているのでしょうか。パラマウントからはJ:COMではファミリー向けコンテンツの反応がよいというお話があったのですが、それはJ:COMとしても想定どおりでしょうか。

外崎:基本的には全世代に届いてほしいのはもちろんですが、われわれは世帯向けビジネスをやっているので、ファミリー向けコンテンツで反応がいいというのは想定内です。そのうえで、サービスを使ってもらえればいいコンテンツがたくさんあるので、高い年齢層にもアピールしていきたいと考えています

——シン・スタンダードの提供開始後、テレビ放送の視聴時間にはどういう影響がありましたか。放送と配信を合わせたJ:COM経由でのコンテンツ視聴の時間についてはいかがでしょうか。

外崎:最新のデータでは、シン・スタンダードの加入者のテレビ放送視聴時間はほとんど減っておらず、横ばい。一方で配信は4倍近く増えていて、放送と配信を合わせた視聴時間としては伸びているので、狙い通りですね。シン・スタンダードを利用できる新型チューナー「J:COM LINK」はチューナーが多重になって同時に1番組の視聴と2番組の録画が可能になっていて、視聴体験が改善されているのもプラスに働いているかもしれません。

  • シン・スタンダード開始前後の平均視聴時間の変化

    2024年6月に開催された経営方針説明会で示された、シン・スタンダード加入者における同サービス開始前後の平均視聴時間の変化をまとめたグラフ。放送の視聴時間が微増し、配信の視聴時間は大きく伸長している

——旧型チューナーから新型チューナーへの移行は順調に進んでいるのでしょうか。

外崎:こちらも最新のデータでは、380万世帯がJ:COMのサービスに加入いただいていて、160万世帯が新型チューナーとなっています。とくに旧型チューナーを使い続けるメリットがあるわけではなく、更新が面倒だったり配信に興味がなかったりという方が旧型チューナーを使い続けているという状況です。チューナーの移行については丁寧にコンタクトを行っていて、現在は月に数万台というペースで新型チューナーが増えています。これまで正確な計画はたてていませんでしたが、どこかの時点で旧型チューナーを巻き取る必要があるので、今後は計画を立てていく必要があると思っています。

8月15日修正:記事初出時点で、「160万世帯が旧型チューナー、220万世帯が新型チューナー」との記述がございましたが、「160万世帯が新型チューナー」の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。

——話をParamount+に戻します。4月にAmazon Prime VideoでParamount+のチャンネルが開設されましたが、J:COM STREAMのParamount+への影響はありましたか。

外崎:とくに影響はみられませんでした。強いて言えば認知度向上のメリットがあったくらいです。

——Paramount+のコンテンツではどんなものが反応がよかったでしょうか。また、今後のParamount+に期待すること、期待しているコンテンツなどがあれば教えてください。

外崎:『スター・トレック』は反応がいいです。『NCIS:シドニー』はケーブルテレビでも人気のコンテンツでしたし、これも人気があります。期待外れだったというようなコンテンツは今のところなくて、いい意味で想定外だったのは、最新作ではないちょっと古めの大作映画が意外と観られていること。『トップガン』『GIジョー』などですね。パラマウント側でも意外だという話でした。今後の作品では、『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』は楽しみにしています。今後も人気のあるコンテンツをどんどん入れてほしいですね。

  • 「J:COMマガジン」2024年5月号の表紙

    『スター・トレック』の人気は大きく、同社の広報誌「J:COMマガジン」の2024年5月号では『スター・トレック:ディスカバリー』を中心に同シリーズがフィーチャーされました TM & Ⓒ 2022 CBS Studios Inc. STAR TREK and related marks are trademarks of CBS Studios Inc. CBS and related logos are trademarks of CBS Broadcasting Inc. All Rights Reserved.

——今後、J:COM STREAMあるいはシン・スタンダードで何か計画していることがあれば教えてください。

外崎:シン・スタンダードとJ:COM STREAMの強化には引き続き取り組んでいきます。Paramount+と同様のモデルでの連携についても、他の会社と話をしています。シン・スタンダードでは、J SPORTSオンデマンドがありますね。J SPORTSの番組はJ SPORTS 1/J SPORTS 2/J SPORTS 3/J SPORTS 4で観られますが、一部オンデマンド独自のものがあり、見逃し配信も対応しています。

——ありがとうございました。


シン・スタンダードの加入者は、テレビ放送の視聴時間を減らすことなく配信視聴時間が大きく伸び、トータルのサービス利用時間が増えているという話は、6月に開催された同社の経営方針説明会でも言及されており、J:COMとしても手応えを感じているようです。

なおJ:COM公式Webサイトでは、8月12日から8月18日まで、Paramount+作品の注目作10作品の第1話を期間限定で公開するとのこと。10作品には、今回のインタビューで名前のあがった『NCIS:シドニー』『タルサ・キング』『パウ・パトロール』『ナックルズ』『モスクワの伯爵』『フェロー・トラベラーズ』『空の戦士たち』といった作品も含まれます。この機会にParamount+の作品をチェックしてみてはいかがでしょうか。

  • Paramount+の注目作10作品の第1話を期間限定で公開

    J:COM公式Webサイトでは、8月12日から8月18日まで、Paramount+の注目作10作品の第1話を期間限定で公開。Paramount+コンテンツに触れる絶好の機会です