ニコンの子会社である米Nikonは、アメリカ航空宇宙局(NASA)とスペース・アクト協定を締結。2026年の月面着陸をめざす米国の有人月面探査「アルテミス計画」で使われる、手持ち型ユニバーサル月面カメラ(HULC)の開発を支援する。

HULCは、ニコンのフルサイズミラーレス「Z」シリーズの最上位機である「Z 9」(2021年12月発売)をベースに、宇宙ミッションに適応できる改良を加えて開発されるカメラ。アルテミス計画の第3段階となる有人月面着陸ミッション「アルテミスIII」において、月で活動する乗組員が使うことを想定している。

今回のスペース・アクト協定では、NASAとの協業により、ニコンのフルサイズミラーレスカメラが月の環境に耐えうることを確認。「ミッション中の写真と動画撮影のための効率的で最適なプラットフォームを開発すること」を目的とする。

ニコンのカメラはこれまでにもNASAや宇宙機関で幅広く使われてきた。1971年の「アポロ15号」のミッション以来、ニコンのカメラとレンズはNASAのさまざまなミッションやスペースシャトルでの宇宙探査で使用されてきており、1999年にはフィルム一眼レフカメラ「ニコン F5」とNIKKORレンズが国際宇宙ステーション(ISS)で使用開始。直近では、2024年1月に素の「Z 9」(宇宙ミッション用に特別な改良を加えていないモデル)が同じISSに送り込まれている。

HULCを月へ運ぶ「アルテミスIII」では、2026年9月にオリオン宇宙船を搭載したNASAのSLS(スペース・ローンチ・システム)ロケットでの打ち上げを予定。1972年以来初めて人類が月面に着陸することになるほか、史上初めて女性宇宙飛行士が月面を歩くという歴史的なミッションを担う。

30日間のミッションで、乗組員はオリオン宇宙船で月軌道に入った後、2人の宇宙飛行士が月面着陸船(スペースXのスターシップ・ヒューマン・ランディング・システム)で月に降り立つ。約7日間をかけて月面でさまざまな調査を行った後、オリオン宇宙船に戻って他の乗組員と合流し、地球に戻る計画だ。

過酷な「月」の環境に耐える、カスタム「Z 9」の詳細

月面の温度は-120度から75度まで大きく変化し、宇宙放射線が絶えず降り注ぐことでカメラのすべての電気系統がダメージを受ける可能性がある。このように月の環境は過酷であり、カメラを使うには技術的・工学的な課題が多い。

そこでニコンはNASAと連携し、宇宙放射線に耐えられるようにカメラ内のさまざまな回路と制御シーケンスを再設計。過酷な環境下で使うときの信頼性を高めるソリューションを開発している。地球から約38万3,000km離れた月でもカメラが動作可能な状態を維持できるよう、さまざまなテストやシミュレーションを実施し、熱真空試験のサポートも行う。

また、このカメラは月面歩行中や宇宙空間にいるときなど、船外活動でも使うことになる。NASAでは、乗組員が宇宙服の分厚い手袋を着用していても、カメラを簡単に操作できるような「Z 9」用のカスタムグリップを開発中。シャッターレリーズや画像再生、静止画と動画のモード切り替えといった各種操作が行えるようにしている。Z 9とカスタムグリップは、10ピンターミナル用ケーブルで接続され、専用のカスタムファームウェアで動作するかたちとなる。

さらに、船外活動中にカメラボディーやレンズ、ハウジングを保護するため、国際宇宙ステーション(ISS)で宇宙飛行士が船外活動中に使うものと同様の特別な熱保護カバーをNASAが製作。Z 9と組み合わせて使うNIKKOR Zレンズも、月の過酷な環境に耐えられるような改良を施す。

ISS乗組員が使用するカメラと同様、ファームウェアも特別にカスタマイズしており、再設計された電気回路に対応。また、宇宙放射線を考慮したノイズリダクションの適用範囲を、高速シャッターにも拡張する対応などを含む。

このほか、保護カバーに包まれた状態での使用の最適化を図り、ファイル名の付与ルールや初期設定、操作性にかかわる変更も実施。宇宙飛行士のワークフローを簡素化し、宇宙から地球に画像を送るときの効率を高めるとともに、消費電力削減のためにカメラ内FTP通信制御にも変更を加えている。シャッターシールドの最適化、HDR機能の強化、メニュー項目の初期設定の変更なども含む。