Dynabookは2月14日、自社イベント「dynabook Days 2024」にあわせて14型のフラッグシップノートPC「dynabook R9/X」(以下、R9)を発表しました。

AI専用エンジンを搭載したIntelの最新ノートPC向けプロセッサを採用し、国内メーカー初の「AI PC」と位置づけられた本機。開発に至った背景はAI利用シーンの広がりで、今後AI処理をデバイス側で行うエッジAIが主流になるとにらみ、個人向けに投入します。

  • dynabook R9/X実機(試作機)。発売は4月下旬で、価格はオープン。店頭予想価格は29万円台半ばの見込み

  • マイナビニュースを表示してみたところ。16:10のアスペクト比で縦方向がややワイドだ

Core Ultraプロセッサ搭載、AI処理に強いフラッグシップPC

R9の特徴は、IntelのノートPC向け最新CPU「Core Ultra 7 155H」の搭載や、安定して高いCPUパフォーマンスを保つdynabook独自のエンパワーテクノロジーの対応、動画再生時で11時間・アイドル時で約27時間という長時間駆動など。もう少し詳しく挙げると下記の通りです。

  • IntelのノートPC向け最新CPU「Core Ultra 7 155H」
  • AI処理専用の「NPU」(Neural Processing Unit)
  • 従来から強化したGPU「Intel Arc グラフィックス」
  • 従来からさらに低電力になったLP Eコア
  • dynabook エンパワーテクノロジーの搭載
  • 動画再生時で11時間、アイドル時で約27時間の長時間駆動
  • Copilot in Windowsを呼び出せるCopilotキー
  • アスペクト比16:10の画面
  • R9の特徴

NPUやLP Eコア、Arcグラフィックスなど性能面の特徴の多くは、R9が搭載するIntelのノートPC向け最新プロセッサ「Core Ultra」に由来するもの。

Core Ultraプロセッサは開発コード名Meteor Lakeで知られる、IntelのノートPC向け最新CPUシリーズで、Core Ultra 7 155Hは性能を重視する「H」モデルのミドルハイ製品。性能重視の「Pコア」と電力効率重視の「Eコア」に加え、さらに省電力の「LP Eコア」が追加されているほか、独立したAIプロセッサ(NPU)として「Intel AI Boost」を搭載していることが特徴です。

このため、Core Ultra搭載PCをIntelは「AI PC」として訴求しており、海外メーカーではAcerやDell、HP、ASUSなど多くのメーカーが新製品を発表していますが、国内メーカーではこのR9が第1弾をうたいます。

  • キーボード面。キーストロークは1.5mm。タッチパッドは大きくとられている

  • カーソルキー左に備えられたCopilotキー。もともとは右Ctrlで、Copilotキーになっても、Shiftとの組み合わせで右Ctrlが使えるようになっている

  • キーボード両側と底面にはスピーカーを配置(低音用×2、高音用×2)。Dolby Atmosにも対応する

  • 右側面

  • 左側面

  • 画面はアスペクト比16:10の14型

エッジAIのメリットとは? 効率的なAI処理でロングバッテリーを実現

Core Ultra搭載PCではAI処理において、CPUとGPU、NPUの3つに負荷を分散させることで効率的なAI処理が可能になりました(ただしNPU対応ソフトウェアは現時点でほとんどありません)。

この効率的なAI処理に加え、低負荷のワークロードを処理するLP Eコアの搭載により、DynabookではJEITA 2.0測定時で約32時間、JEITA 3.0測定時で動画再生約11時間/アイドル約27時間というロングバッテリーを実現しています。

個人的には、14型かつ約1.05kgの重さながら、アイドル時で1日以上持つという超ロングバッテリーはうれしいポイント。R9はUSB Type-Cポートから充電できるため、重いACアダプタを持ち歩く必要はそもそもありませんが、仕事で1日外出するときはACコンセントから充電できるタイミングがない場合もあり、バッテリー駆動時間は“長いにこしたことはない”と思います。

  • R9を手にするDynabook国内PC事業本部 国内マーケティング本部の杉野文則氏

R9開発の背景について、Dynabook国内PC事業本部 国内マーケティング本部の杉野文則氏は、IT業界で起こったゲームチェンジャーとなる出来事の1つに「AI」を挙げ、「生成AIで生活や仕事、いろいろなものが変わろうとしている時代。その入り口に立っていると思う」としたうえで、AI関連市場が今後伸びていくと想定。市場が広がるにつれ、現在ではクラウドで行われているAI処理の一部をデバイス側で行う、「エッジAI」が拡大していくと見込んでいます。

  • 国内AIシステム市場の支出額予測(IDC)。2024年にはクラウドとデバイス(エッジAI)のハイブリッド化が進むと予想

ユーザーがPCでAIを使うというと、現状は「ChatGPT」や「Copilot」などの生成AIサービスが知られており、AI処理は主にクラウドで行うサービスが一般的です。

しかしAIのクラウド処理には課題もあり、たとえばサービスを使うユーザー数が過多になった場合にデータセンターの設備増強などが必要となるほか、会社や個人に関するデータをクラウドに上げるリスクもあります。

これらを踏まえると、エッジAIの広がりは、クラウドで行うAI処理で発生する課題解決に必要なものであり、結果として応答速度の高速化やプライバシー配慮などのメリットを、ユーザーが受けられるとのこと。

また、Microsoft TeamsやZoomなどを使ったオンライン会議で背景をぼかしたり、カメラが顔を追従したりといった処理にもAIが活用されています。DynabookではエッジAIにより、こうした日常的な仕事利用におけるAI処理の高速化や、(情報をクラウドに上げずデバイス側で処理する)プライバシーの強化、効率的なAI処理によるバッテリーの長時間駆動などが、ユーザーの大きな利点としています。

  • 生成AIで使われる言語モデルと、処理先となるデバイスの関係

  • AIに対応したパソコンは、企業向けでは優秀なアシスタント、個人向けには愛着あるパートナーになり得る

杉野氏は普及を見込むエッジAIについて、「ユーザー個人の知識や経験、思考や、公的な情報などが融合し、目の前にあるノートPCはよりパーソナルなものになっていく。PC自体がユーザーの強力なサポーターになるようなイメージ」と紹介。

そして、「ビジネスでは優秀なアシスタント、プライベートでは愚痴も聞いてくれるような愛着あるパートナー。そのような未来を見据えて、AI PCの最初の一歩として生み出す製品」と、R9の投入意義を説明しました。

  • テキストから画像生成するStable Diffusionを使ったデモンストレーション。第13世代Intel Core搭載PCを使いクラウドで処理する場合(右)と、R9試作機を使いエッジAIで処理する場合(左)を比べたところ、R9のほうが先に画像を生成し終えて、出力結果に大きな違いはないように見えた