中国の一大メーカーであるHuawei(ファーウェイ)は、もともとスマートフォンメーカーとして市場シェアを拡大していましたが、米国の経済制裁以降、中国市場以外は主にウェアラブル、IoT製品で巻き返しを図っています。

その1つがスマートウォッチなどのヘルスケア製品です。ファーウェイ独自のHarmonyOSが搭載され、最大2週間という、スマートウォッチとしては破格のバッテリー寿命やヘルスケア機能で一定の人気とシェアを獲得しています。

今回ファーウェイの招待によるメディア向けの深センツアーが開催され、ファーウェイのヘルスラボ(ヘルスケア製品の研究開発拠点)が日本の報道陣に公開されました。

  • 中国にあるファーウェイのヘルスケア、スポーツに関する研究開発を行うヘルスラボ。単体でも大きなビルだが、ファーウェイが研究開発のために開発した広大な土地にある1ビルに過ぎない

ファーウェイの研究開発拠点が思ったよりお城

HUAWEIヘルスケアラボは、中国深センの隣、東莞市・松山湖のほとりに位置する巨大な敷地内にあります。ラボの総面積は4,680平方メートル、同社が所有する世界最大のヘルスラボとされています。

  • 敷地内が広大なためトラムで移動します

このラボがある松山湖キャンパスは、他にもファーウェイのオーディオラボなど、合計12棟の建築物があり、広大な敷地内に同社のさまざまな施設が設置されています。敷地内の各エリアは欧州の都市をモチーフにしており、移動用のトラムも走っています。

  • 研究エリアのためか、欧州の大学のある都市をテーマにしているそうです

  • ここはドイツ最古の大学があるハイデルベルクを模しているゾーン。ハイデルベルクで有名な観光地であるアルテ・ブリュッケ(古橋)もありました

  • ちなみにこちらが実際のハイデルベルクにあるアルテ・ブリュッケ(23年9月撮影)

  • アルテ・ブリュッケの門のアップ(23年9月撮影)

  • 橋から見えるこの左の建物のモチーフはハイデルベルク城でしょうか。普通に社員が働いているそうです

  • 実際のアルテ・ブリュッケから見える景色。中腹に見えるのがハイデルベルク城。こちらは廃城(観光地)です(23年9月撮影)

  • そのハイデルベルク城から見下ろすアルテ・ブリュッケ(本物)(23年9月撮影)

  • ファーウェイの敷地内には夜景の美しいエリアもありました

  • 湖に映える美しいライティングですが、研究施設ということで一般公開はしていません

海抜6,000メートル環境を再現する「高原模擬室」も

ファーウェイのヘルスラボは東莞市以外にも、中国ではさらに西安に、欧州ではフィンランドにも設置されており、それぞれ研究が行われています。主力となるこの東莞は、2021年9月に中国政府の体育総局体育科学研究所と合同で設立されたそうで、「革新的なソリューションの開発に力を入れている」(同社)とのこと。

  • 東莞や西安で収集しているデータが表示されています

ヘルスラボではスポーツや健康に関する、170項目を超えるデータの計測ができるそうです。加えて、アルゴリズムを改善し、精度を高めるための研究も行っているとのこと。

以下、実際のデータ計測の現場を写真中心でご紹介します。

  • 「高原模擬室」では、海抜、気圧、温度、湿度といった環境シミュレーションができます。気温は-10度から40度まで、海抜6,000mまで試験を行えるそう。異なる気候条件に合わせてウェアラブルのセンサーの正確性をテストできるとのことです

  • 取材時は室温10度の低温テスト中でした。血中酸素飽和度、運動中の体のデータ、アルゴリズム改善のテストなども行っています

  • スポーツの研究エリアにある卓球コーナー。卓球マシンが打ち出すボールを打ち返します

  • コントローラーでの操作が可能。「娯楽モード」だと簡単ですが、「訓練モード」にするとかなりの難易度のようで、ボールに回転まで加えてきていました

  • 取材時はテストが行われていませんでしたが、こちらは水泳エリア

  • 球技などのスポーツエリアもあります

  • さまざまなウォーキングやランニングの試験が行えるエリア。サイクリング、スキー、スケートなどもシミュレート可能だそうです

  • 速度を変えることで歩行から走行までを切り替えることもできます。最大速度は時速50km

  • 傾斜を変えることで負荷をさらに高めたり、他のスポーツシーンをシミュレートしたりできます

  • PCで角度や速度の設定変更が可能。周囲にカメラがあり、モーションキャプチャーもして分析するそうです。カメラは全12台を設置

  • ゴルフのテストも行えます。最近のファーウェイ製スマートウォッチはゴルフにも対応していて、分析を行うためのテストが行われています

  • コースの設定。同社のHUAWEI Watchだと中国の300コースほどに対応しているそうです

  • 打ちっぱなしのように思い切り打ち抜けます。このスイングのデータをスマートウォッチで解析可能。同社では、日本のゴルフクラブとの提携も進めていて、日本のゴルフコースの情報も取り入れたい考えです

  • 実際にスマートウォッチで計測できるゴルフスイングのデータ。スイング速度などが測定されています

  • ウェアラブル端末の利用者が最も利用するのはやはりランニングの計測だということで、その研究スペースも充実していました。こちらはランニングマシーンを使った計測、研究を行うエリア

  • 床のランニングコースにもセンサーが埋め込まれていて、ランニングフォームの計測が行えるそうです

  • シューズに装着したセンサー(日本でも販売しているS-TAG)も併用して分析を行います。13項目のデータが取得できるとのこと

  • 本格的な体組成計とファーウェイ製の体組成計(手前)で、価格は大幅に異なるものの、精度を近づけようと研究を進めています

  • ウェイト系の設備も充実

  • 本格的なボルダリングの設備もあります。クライミングのモニタリングは難しいそうで、手指に力を入れると血管が圧迫されるため、通常とは異なる計測機能が必要になるそうです

  • 素人がやろうとすると大変です

  • 各エリアにカメラが設置され、モーションキャプチャーができるようになっています。設置カメラは全部で28台

  • このように人の動きを捉えて記録しています

血糖値、コレステロール、マイナースポーツ……さらなる分野を検討

研究エリアの見学に続いて、Huawei Consumer Business Group Smart Wearable and Health Product LineのVice PresidentであるGong Yuansong氏との質疑応答の場も設けられました。

ファーウェイがウェアラブル分野に参入したのは2014年。イヤホンとスマートバンドを発売しましたが、機能や性能だけでなく、デザインの革新も目指しています。その一環となったのがHUAWEI Watch Budsで、時計の中にイヤホンが内蔵されているという独特のデザインを実現しました。

「名探偵コナンのウォッチに似ているとよく言われます」とGong氏は笑います。

  • HUAWEI Watch Buds。日本でも5月24日に発売しました

素材の革新も目指しており、ダイビング対応のHUAWEI Watch Ultimateでは、スマートウォッチで初めて材質として非晶質ジルコニウムを採用。他のダイビングウォッチはブザーしか搭載していないところをスピーカーも搭載しているなど、機能も高めて、水深100mまで対応する性能も備えました。

こうしたファーウェイの製品に繋がる研究は、「2種類に分けられています」とGong氏は説明します。1つは目に見える研究で、例えばファーウェイヘルスケアアプリも研究分野のひとつなのだそう。もう1つがオフライン研究で、医者や大学教授などと共同で行う研究だといいます。

研究への参加は、募集のQRコードを読み取るだけでエントリーできるといった手軽に参加できる仕組みがあるそうで、200以上のオフライン研究があるといいます。健康分野では、同済大学附属病院や上海医科大学などと共同研究を行っているそうです。

研究には、医療向け、健康向け、スポーツ向けという分野があり、医療向けの研究では、病院外で収集したデータと医療機器を連携させる研究も行っているとのこと。血圧計測機能を備えたウェアラブル機器のデータを医療機関に提供する、といった連携もそのひとつだといいます。

「ユーザーはいつも健康を求めていて、そのニーズも常に変わり続けています」とGong氏。ウェアラブル端末のセンサーを通してより多くのバイタルデータを取得し、アルゴリズムや技術で数字化してユーザーに提供したいとGong氏は話します。

例えば針を刺さなくても血糖値を計測できる研究もしているそうで、今後はコレステロール、尿酸値、電解質の乱れといった、現状は計測できていないデータの計測、数字化の研究も続けていくそうです。

「将来的には、エコー検査の設備も小型化して、最終的にスマートウォッチに取り入れられるかもしれません。そうしたビジョンを持っています」とGong氏。

スポーツ方面では、よりマイナーなスポーツのデータ取得、計測にも対応することを目指しているそうで、どのようにユーザーによりよいサービスを提供できるか検討しているといいます。