ソニーが期待の新製品「WF-1000XM5」を9月1日に発売します。筆者が2023年最も注目している、左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンのひとつである本機を、発売前に3週間ほど試しました。1000Xシリーズの新旧モデルや、ライバル機と主要な機能を比べながらレポートします。

  • WF-1000XM5(ブラック)

サウンドとノイキャン性能が向上! サイズはより小さく軽く

WF-1000XM5(以下、マーク5)は、ソニーが発売する完全ワイヤレスイヤホンの中で最高峰に位置付けられるフラグシップモデルです。ソニーストアの直販価格は41,800円。カラーバリエーションはブラックとオフホワイト系プラチナシルバーの2色です。

  • WF-1000XM5(プラチナシルバー)

ソニーの1000Xシリーズは2016年秋発売の「MDR-1000X」から一貫して、独自のノイズキャンセリング機能と高音質による上質なポータブルリスニングの体験を提案してきました。

加えて最近のモデルはハンズフリー通話の品質も向上したことから、コロナ禍のなかでオンラインワークに活用できる「通話も快適」なワイヤレスヘッドホン・イヤホンとして1000Xシリーズが広く選ばれました。

マーク5は、2021年にソニーが発売した「WF-1000XM4」(以下、マーク4)以来となる1000Xシリーズの完全ワイヤレスイヤホンです。ソニーが独自に設計したチップセットを複数組み合わせてプラットフォーム化したSiP(システム・イン・パッケージ)を、同社のワイヤレスイヤホンとしては「LinkBuds S」に引き続き採用しています。その好影響は機能の高度化とともに、本体の小型軽量化にも結びついています。イヤホン本体は小さくなりながら、バッテリーの持続時間は従来機のマーク4から低下させていないところにも要注目です(※)。

※編注:連続再生時間はイヤホン本体のみで最大8時間(NCオン)、NCオフ時は12時間。NCオン時は、付属の充電ケースと組み合わせて最大24時間再生できる。

  • 新しいWF-1000XM5(左)と、前世代のWF-1000XM4(右)のイヤホン本体を並べたところ

見た目にもすっきり装着。フィット感を高めるコツは?

リスニング体験の向上につながるノイズキャンセリングと外音取り込み機能、およびオーディオ再生の音質については後ほど比較レポートをします。

まずはマーク4から大きく変わったマーク5のデザインに注目しながら、装着感や使用感の変化を報告します。

最新モデルのマーク5はイヤホンの質量が20%、体積が25%もマーク4に比べてサイズダウンしています。筆者は最初にマーク5の実機を見た時に、1000Xシリーズならではのオリジナリティや重厚感が、新しいデザインによって少し薄らいだ印象を受けました。でも実際、一定期間にわたって試すと、イヤホンが小さくなることによって得られる快適な装着感の魅力が勝ることを実感しました。

  • WF-1000XM5(左)はWF-1000XM4(右)よりも小さいぶん、装着感のよさが光る

参考までに筆者がマーク5とマーク4を装着した写真を紹介します。筆者は耳が大きいので、どちらのイヤホンもコンパクトに収まっているように見えるかもしれません。小さくなったマーク5の方が「イヤホンが耳から飛び出て見える感」は少なめです。

  • WF-1000XM4を装着したところ。十分にコンパクトなイヤホンだが、まだ若干耳から飛び出る感じになる

  • WF-1000XM5を装着。耳の小さい人ならもっとコンパクトになったことがよくわかると思う

ポリウレタンフォーム素材を採用するソニー独自のイヤーピースはS/M/Lの定番サイズのほかに、マーク5には最小サイズのSSが追加されています。

「Sony|Headphones Connect」アプリから装着状態測定の機能を走らせると、自分の耳のサイズに対して適切な大きさのイヤーピースが選択できます。マーク4はイヤホン本体がマーク5よりも大きいことから、本体が耳に触れるおかげでピタリと固定されます。マーク4と比べてマーク5はフィットの安定感が耳穴に挿入するイヤーピースに委ねられる部分が少し高いので、なおのこと装着状態測定と耳に合うイヤーピースの選定は入念に行う必要があります。

  • WF-1000XM5(左)のイヤーピースは、従来と同じS/M/Lの3サイズに加え、SSサイズ(中央左寄り)も新たに追加。右は前世代WF-1000XM4のイヤーピース。なお、どちらも標準でMサイズを装着済み

マーク5は充電ケースもマーク4に比べて質量が5%、体積が15%もサイズダウンしています。外出の際に手荷物が軽くなることは大歓迎です。

  • 新しいWF-1000XM5(左)と、前世代WF-1000XM4(右)の充電ケース

ただ、本機に限らずコンパクトで軽い完全ワイヤレスイヤホンは、ケースから出し入れする際に手もとが滑って落としたり、紛失しないように注意が必要です。歩きながらケースから出し入れしたり、電車に乗り込む直前でのイヤホンの着脱はできる限り避けるようにしましょう。4万円のワイヤレスイヤホンの故障や紛失に伴う痛手は小さくありません。

ソニーストアではマーク5の発売に合わせて、紛失したイヤホンの買い直しや破損時の無償修理などを提供する年額3,300円の「ヘッドホン ケアプランワイド」を開始します。ワイヤレスイヤホンの取り扱いに不安がある方は、購入の初年度だけでも試す価値はあります。

新旧1000Xシリーズとライバルを比較

WF-1000XM5はソニーの独自開発による8mm口径の「ダイナミックドライバーX」を搭載するハイレゾワイヤレス再生対応のイヤホンです。演算処理やワイヤレス通信などさまざまな処理をまとめる「V2」プロセッサーのほかに、ノイズキャンセリング処理に特化する「QN2e」プロセッサーを個別に搭載する「デュアルプロセッサー」構成としたことで、特にノイズキャンセリングのパフォーマンス向上を図っています。技術革新の詳しい内容については、製品発表時のニュース記事をご覧ください。

  • LDACに対応するスマホと組み合わせると、WF-1000XM5で高品位なハイレゾワイヤレス再生が楽しめる

今回はマーク5の進化を、ひとつ前のモデルであるマーク4に加えて、3万円台後半のハイエンドクラスに位置付けられる左右独立型の完全ワイヤレスイヤホンの人気モデルであるアップル「AirPods Pro(第2世代)」と、パナソニック テクニクスブランドの「EAH-AZ80」も用意し、ノイズキャンセリング機能の効果やサウンドの傾向を比べてみました。

  • アップルのAirPods Pro(第2世代)

  • テクニクス「EAH-AZ80」

ノイズキャンセリングは音楽再生との一体感にもこだわった

ソニーのWF-1000XM5(マーク5)はノイズキャンセリングの完成度が随一です。本体に内蔵するノイズキャンセリング用マイクの数は4基から6基に増えています。カフェの店内BGMやエアコンのファンノイズが消えて、音楽に深く集中できる環境がつくられます。マーク4に比べると、例えば自動車の走行ノイズや換気扇のファンノイズのような持続的に響く低音のノイズが一段と押さえ込める印象です。

外音取り込みモードに切り換えると、パソコンのタイピング音や、近くにいる人の話し声が「自分の耳で聞くよりもよく聞こえているのではないか」と思うほど、マイクの鋭い感度に驚きます。この点について、静かな場所で使う分には感度が若干抑え気味のイヤホンの方が違和感がなく落ち着くようにも思いますが、屋外を歩きながら音楽を聴く時にはマーク5の外音取り込みモードが重宝しました。

  • WF-1000XM5が備えるノイズキャンセリング性能や、外音取り込みモードの実力の高さを体感

アップルのAirPods Proはノイズキャンセリングの消音効果がとても強力です。音楽と静寂の対比が高く、ノイズを真っ黒に、あるいは真っ白に「塗りつぶす」ような強さがあります。その静寂の上に聞こえてくる音楽や映画のサウンドが色鮮やかに感じられます。対して、ソニーのマーク5が描く消音には濃淡があるように感じます。静寂にもきめ細かな陰影感があり、そのぶんサウンドと無音部分の境界線が、人の耳により自然に馴染む手応えがあります。ボーカルや弦楽器の音色が、マーク5はより艶っぽくリアルに感じられる理由は、ノイズキャンセリング機能の作り込みの違いにもありそうです。

テクニクスのEAH-AZ80は、外側のマイクをデジタル制御、内側のマイクはアナログ制御のアルゴリズムによって消音するデュアルハイブリッド方式のノイズキャンセリングを搭載しています。アナログ制御の消音効果が違和感なく穏やかに効くぶん、音楽の自然な質感と響きの豊かさを再現します。一方で、消音効果は4つのイヤホンの中で最も上品にかかる印象を受けます。ただ基本の消音効果は十分に高いので、地下鉄の中でも音量を上げすぎることなくコンテンツのサウンドにのめり込めました。

外音取り込みモードに切り換えると環境音がクリアに聞こえてきます。AZ80はマイクに由来するノイズ感は少なめですが、付属するイヤーピースによるパッシブな遮音効果は高めです。なお外音取り込みモードが最もクリアで、「イヤホンを外した感覚」に近いリスニング感が得られたのはAirPods Proでした。

高密度で温かみあふれるサウンド

音質の傾向をチェックします。今回は送り出し側である音楽プレーヤーの条件をそろえるため、スマホはiPhone 14 Plusとして、Bluetoothのオーディオコーデックはすべてのイヤホンが対応するAACで接続しています。DSEE Extremeのようなハイレゾ級のサウンドにアップスケーリングする機能はオフ、ノイズキャンセリング機能はオンに設定しています。

  • iPhone 14 Plusで4つのイヤホンを聴き比べた

ソニーのマーク5は大型化したダイナミックドライバーXにより、中低音域がよりふくよかになり、また高音域とのつながりも滑らかになりました。音楽の密度が高く、包み込まれるような温かみを感じます。音場も手前から奥行き方向へきめ細かなつながりが感じられ、リアルな音楽リスニング体験に近付きました。

マーク4の方が音色がドライでパンチが効いている印象も受けます。ロックやポップス、ジャズなどのアップビートな楽曲は「聴きごたえ」は得られるのですが、一定時間以上聴き続けた時に、自然な心地よさが持続するイヤホンはマーク5と言えるのかもしれません。

サウンドの完成度に関してはテクニクスのAZ80も負けていません。音の分離がよく、ほぐれ方も滑らか。声の輪郭や楽器の音の質感などディティールの描き込みもていねいです。低音も輪郭線が鮮明ですが、その線はマーク5に比べるとやや細く、音楽は繊細ででクールな印象を受けました。

AirPods Proはバランスがフラットで肉付きも良いサウンド。メリハリは効いていますが、ソニーやテクニクスに比べてしまうと音の描き込みはやや大味な印象。アコースティック楽器による和音など、もう少し軽やかにほぐれてほしいところがあります。ただ、AirPods Proはアクション映画の効果音や、シリアスなドラマでも役者のセリフをシンプルに力強く再現するワイヤレスイヤホンでした。ハンズフリー通話の声も聴きやすく快適です。

音声通話はAIによるノイズ除去を強化

通話音声も比べてみました。今回は筆者が4つのイヤホンを着け換えながら、+Digital(プラスデジタル・マイナビニュース)編集部の担当編集者に声の聞こえ方を確認してもらいました。筆者はにぎやかなスターバックスコーヒーの店内で、Google Pixel Foldに4つのイヤホンを交互にペアリングしながら通話しています。音声コーデックはAACに統一しています。通話中は電波の安定している場所から移動していません。

  • にぎやかなカフェの店内で、4つのワイヤレスイヤホンによる通話音声の品質をチェック

ソニーの1000Xシリーズは新旧機種ともに、AIの機械学習によって話者の声と周囲の環境騒音を選り分けてノイズだけを消す「高精度ボイスピックアップテクノロジー」を搭載しています。また骨伝導センサーによる通話音声のピックアップを併用するため、クリアな通話ができるワイヤレスイヤホンであることを特徴としてうたっています。

通話性能は、やはりマーク5の方が機械学習のアルゴリズムやマイクをブラッシュアップした成果がよく出ました。担当編集者は「マーク4に比べて、マーク5の方が周囲の騒音はよく抑えられて、話者の声が聴きやすかった」といいます。ただ、声の距離感がやや遠く離れて聞こえたそうです。

テクニクスのAZ80はソニーのマーク5に比べると若干環境ノイズの影響があるものの、声の聞こえ方は距離感も含めてバランスが良く、4つのイヤホンの中で高い通話性能の実力を印象づけた格好です。

AirPods Proは環境ノイズを目立たないレベルに抑え込めるものの、マーク5に比べるとやや残る感じ。ただ声の距離感は「対面というより、耳の近くで話されている感覚」と担当編集者が表現するほど近接感があり、聴きやすかったといいます。

いち早くLE Audioに対応。実力は?

ソニーのマーク5はBluetoothオーディオの新しい標準的な音声通信技術である「LE Audio」をサポートするワイヤレスイヤホンです。LE Audioによる送り出しに対応するスマホなどデバイスに組み合わせると、従来のClassic Audioよりも音質の向上と低遅延、接続のロバスト性能(堅牢性)、低消費電力の4つの面でメリットが得られると言われています。

LE Audioの音質面での実力を確かめるため、LE Audio標準の音声コーデックである「LC3」(Low Complexity Communication Codec)と、Classic Audioの標準コーデックである「SBC」(Sub Band Codec)を切り換えながら試聴しました。リファレンスのスマホには、LE Audioによる送り出しに対応するソニーの「Xperia 1 IV」を使っています。

  • Xperia 1 IVにWF-1000XM5をLE Audioにより接続。アプリには接続されているコーデックが「LC3」であることが表示される

Xperia 1 IVにマーク5を接続して、Sony|Headphones Connectアプリに新設されるLE Audioの設定を選ぶと、LC3とSBCのコーデックをスイッチしながら比較試聴できます。

SBCに比べるとLC3の方が音場の広がりに豊かさがあります。ボーカルや弦楽器の表現も繊細で、分析的な印象を受けました。かたやSBCによるリスニングは音楽としてまとまる手応えがあります。さすが長くClassic Audioの標準オーディオコーデックとして使い込まれてきた実績を感じさせます。特に筆者が好んで聴くロックやポップスの躍動感はSBCの方が富んでいる手応えがありました。LC3もLE Audioのローンチ後、実践の場で練り上げられていくことを期待しています。

マーク5はソニーのXperiaシリーズなど、ハイレゾ対応のワイヤレスオーディオコーデックである「LDAC」で聴くと、余韻の華やかさや高音域の艶っぽさがさらに引き立ちます。低音の立体感や安定感も増してくるので、やはりマーク5の音楽再生における実力をフルに引き出しながら楽しむのであればLDAC対応のプレーヤーを用意したいところです。

一方でLE Audioのメリットである低遅延や、低消費電力の実力は今後さまざまなデバイスやコンテンツとの組み合わせによって検証する価値がありそうです。また、1台の送り出し機器に対して多数のイヤホンをつないで、同じコンテンツの音声を大勢でシェアしながら聴く「Auracast」に対応するサービスが利用できることもLE Audioの醍醐味です。それぞれの取材成果はまた別途報告したいと思います。

  • Headphones Connectアプリで、ふたつの接続方法のうち「LE Audio優先」を選択

  • LE Audio優先接続にするには、再度のペアリングと再接続が求められる

  • 再接続するとLC3コーデックが選ばれていることがアプリの画面上部に表示された

価値あるプレミアムイヤホンが誕生した

ソニーのWF-1000XM5は本体が小さくなったのに、前機種に比べて充実度は数段レベルアップしていました。特にノイズキャンセリング機能の効果は、最新のワイヤレスヘッドホンと肩を並べるパフォーマンスを備えています。空や鉄道の旅に、もはや大きくてかさばるヘッドホンを持ち出さなくても、コンパクトで軽いWF-1000XM5があれば快適な時間が過ごせると思います。

WF-1000XM5はソフトウェアアップデートによる新機能の追加なども期待できるワイヤレスイヤホンです。これから長く、プレミアムクラスの音楽体験を満喫したい方は、ここで4万円台の本機に投資する価値は間違いなくあります。まずはショップ等でぜひソニーの最新プレミアムイヤホンを体験してみてください。