次に、すざくの20倍ほど観測性能の高いXMM-Newton(1999年12月打ち上げ、現在も運用中)のデータを用いて、CIZA1359の衝突構造を詳細に調べたとのこと。それぞれの銀河団の中心付近の温度は約4千万度なのに対し、銀河団間には約6千万度の非常に高温なガスが、幅約150万光年、直交方向に400万光年ほどにわたって存在していることが確認されたとする。これは、銀河団同士の衝突により、その中央に400万光年幅の2つの巨大な衝撃波が発生し、衝突軸方向に逆流してガスを加熱している証拠だとしている。
なお、南東の衝撃波はすざくによってすでに発見されていたが、今回、北西にも衝撃波があることが発見された。2つの衝撃波は高温ガスの温度分布から計算すると毎秒約1500kmの速度で進んでいると見積もられ、距離を速度で徐算すると、CIZA1359は衝突を開始してまだ3億年ほどしか経っていないことがわかったという。
続いて、若い衝撃波が消費する運動エネルギーについて調べられた。研究チームでは、銀河団が近似的に点対称性を持つことと、衝撃波が銀河団の中心部まで達していないことを利用し、衝突前の形状がモデル化された。銀河団の中心間には、約1.8倍の増幅領域が存在し、温度分布で発見された高温構造と一致しているとする。このX線の増幅は衝撃波によるものとされ、流体力学の保存則と簡単な空間モデルにより、衝撃波の奥行きは約300万光年と推測されたとのこと。横・奥行き・衝撃波の速度を掛け合わせて算出される北西の衝撃波の運動エネルギーは、2.3×1038Wとなり、太陽が1年で消費するエネルギーの10億倍を、ほんの1秒で消費する計算になるとしている。
そしてNAOJの藏原博士らは、インドの電波干渉計「uGMRT」の観測データの解析を実施。すると、CIZA1359の北西側の衝撃波面に光速近くにまで加速された電子によるシンクロトロン放射が広がっていることを発見したという。その明るさは3.5×1033Wと計算され、衝撃波の入力エネルギーと比較することで、生まれてから3億年の時点での変換効率が約10-5と決定された。
研究チームは、今回の研究成果を1例目として、これをきっかけに変換効率の分布を知ることで、宇宙最大の衝撃波の中で何が起きているのかが解明できる可能性があるとしている。