国立天文台(NAOJ)と名古屋市科学館の両者は5月26日、NAOJの野辺山45m電波望遠鏡を用いて、天の川のわし座とたて座の境界付近にある赤外線バブル「N49」に対し、アンモニア分子(NH3)の広域観測を行って解析した結果、この領域で3つのNH3ガスの塊(クランプ)を検出し、分子ガスの温度分布を得ることに成功したこと、そしてその中でも、特に中央のクランプで温度上昇が見られることを明らかにし、生まれたばかりの大質量星により周囲の分子ガスが温められている可能性があると共同で発表した。

同成果は、名古屋市科学館の河野樹人学芸員、NAOJ 科学研究部のロス・バーンズ特任研究員、鹿児島大学の面高俊宏名誉教授、名古屋大学の山田麟大学院生らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。

2006年~2007年にかけて、米国航空宇宙局(NASA)のスピッツァー赤外線宇宙望遠鏡(2020年に運用終了)により、天の川銀河において、赤外線でリング状の構造を持つ赤外線バブルが600個ほど発見された。その多くは中心に大質量星があり、その強い紫外線放射によって周囲の星間ガスを電離して形成されたと考えられている。なお、赤外線バブルの縁にはしばしば若い星が存在し、それらはバブルの膨張運動が引き金となって形成されたのではないか、とこれまで推測されてきた。そこで研究チームは今回、赤外線バブルのN49に対して、NH3の反転遷移によって放射される電波の広域観測を行ったという。

そして観測の結果、一酸化炭素分子(CO)の観測で捉えられた細長いフィラメント状の分子ガスに沿って、3つのアンモニアガスのクランプがあることが初めて突き止められた。

NH3の特徴に、回転の速さが異なる2つのエネルギー準位からの電波を同時に観測できる点がある。回転の速さは分子ガスの温度に依存することから、異なるエネルギー準位間での電波強度の比を計算することで、分子ガスの温度を精度よく推定することができるという。

分子ガスの温度分布を見ると、特に中央のクランプ内にある年齢10万年以下の若い大質量星の周辺、およそ10光年以内の限られた範囲で高密度分子ガス雲の温度が上昇していることが確認された。この結果は、生まれたての若い大質量原始星によって、周囲の高密度分子ガス雲が温められた現場を見ていることが考えられるとする。

なお今回の観測は、KAGONMAと名付けられたプロジェクトの一環によるもの。同プロジェクトは、2013年~2019年にかけて、野辺山45m電波望遠鏡を用いて、天の川銀河内のさまざまな大質量星形成領域についてNH3で広域観測を行ったものである。