名古屋大学(名大)と国立天文台(NAOJ)の両者は6月15日、欧州宇宙機関のX線天文衛星「XMM-Newton」のデータを解析し、地球から約10億光年離れた衝突銀河団「CIZAJ1358.9-4750」(以下「CIZA1359」)において、宇宙規模で発生して間もない衝撃波の「縦・横・奥行き」と衝突速度の推定に成功し、その巨大な衝撃波の中で2.3×1038Wものエネルギーが解放されていることを確認したと共同で発表した。
同成果は、名大 素粒子宇宙起源研究所の中澤知洋教授、名大大学院 理学研究科の大宮悠希大学院生、NAOJ 水沢VLBI所属の藏原昂平博士らを中心に、東京理科大学、広島大学、埼玉大学、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、都立大学、オランダ宇宙科学研究所、東邦大学の研究者も参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、日本天文学会が刊行する欧文学術誌「Publications of the Astronomical Society of Japan」に掲載された。
まれに発生する銀河団同士の衝突では、巨大な衝撃波が発生することで銀河団内の高温ガスに莫大なエネルギーが注入され、ガスの加熱や粒子加速・磁場の増幅などの非熱的エネルギーに変換される。この衝撃波を通じた運動エネルギーの各現象へのエネルギー変換率を知ることは、現時点で観測可能な高温ガスから過去の成長の経緯を知る上で重要な意義を持つという。
しかし、宇宙観測では深さ方向の測定が容易ではなく、衝突銀河団の多くは互いのガスが激しく混ざり合っているため、衝突がいつどのような状態で起こったのかを特定するのが難しいという課題もある。そこで研究チームは今回、衝突が始まったばかりでまだ発見例の少ない、構造が単純な銀河団のCIZA1359を調べることで、宇宙最大規模の衝撃波で消費されるエネルギーを見積もることにしたという。
CIZA1359の衝突中の銀河団同士は約450万光年ほどの距離があり、X線で見ると2つのガスの目玉とその間に橋をかけたようなガスのフィラメント構造が確認できる。JAXAのX線天文衛星「すざく」(2005年7月打ち上げ、2015年6月運用終了)の観測データによれば、両銀河団の間に衝撃波の存在を示唆する明確な温度の増幅領域が示されており、それゆえにCIZA1359は衝突が始まったばかりと考えられている。