KDDIは5月11日、2023年3月期(2022年4月~2023年3月)の決算説明会を開催。それによれば、連結業績が過去最高益を更新しました。登壇したKDDI代表取締役社長の高橋誠氏は「さまざまな“負”のポイントをはね返すことができた」と評価しています。質疑応答では、楽天モバイルのローミングについての質問が相次ぎました。

  • KDDI代表取締役社長CEOの高橋誠氏

増収増益の決算

連結売上高は5兆6,718億円(前期比4.1%増)、連結営業利益は1兆757億円(同1.4%増)でした。特に注力領域であるビジネスセグメントは1,994億円、金融事業は360億円と、いずれも順調に推移しています。営業利益の増減要因については、マルチブランド通信ARPU収入が853億円減、グループMVNO収入+ローミング収入が278億円減だったものの、3G停波関連が803億円増、DX・金融事業が289億円増、このほかコスト効率化などにより641億円増という内容。燃料高騰の影響などで363億円は減少しましたが、通期で152億円増の着地でした。「値下げ影響、燃料の高騰化などはありましたが、注力領域の成長、コスト効率化などを推進して増益を達成しました」と高橋社長。

  • 連結業績ハイライト

  • 連結営業利益 増減要因

2024年3月期の連結業績予想では、ビジネスセグメントの成長により増収増益を目指していくとしています。

  • 2024年3月期の連結業績予想

  • 2024年3月期の連結業績のポイント

楽天は設備投資に苦労している?

質疑応答では、楽天モバイルとのローミング契約に関しての質問が相次ぎました。これまで、楽天モバイルではKDDIにネットワーク設備を借りつつも、自社の基地局が整備できたエリアから順次、自社回線に切り替える手はずを進めてきました。ところが5月11日、従来のローミングエリアには含まれていなかった東京都23区、名古屋市、大阪市を含む都市部の一部繁華街のエリアを対象とする、新たな協定をKDDIとの間で締結したと発表しています。

記者から、楽天モバイルが大きな方針転換をしたが、同社の状況をどのように見ているか、と問われた高橋社長は「他社さんのことなのであまり発言できませんが」としたうえで、「現在の楽天さんの競争状況、あるいはMNPの状況などを見ていると、それほど加入者は増えていないと思います。設備投資の面でも、ご苦労されているのでは。我々は楽天ローミングを始めたときから『ローミングエリアを今後どうしていくのか』と、定期的に協議を重ねてきました。楽天さんからしても、5Gに投資を集中したいはず。基地局の開設指針もあるでしょう。一方、我々もできるだけ4Gをお貸しした方が、ネットワークの効率性の観点からもありがたいんです」と説明します。

KDDIでは今期、楽天からのローミング収入が600億円ほど減少すると見込んでいました。「楽天さんも、キャッシュフローの観点もあり『一挙に減らします』みたいな話だった。我々としては、もう少し緩やかに減らされたらどうなのか、とは思っていました。そこで『もう少し、足りないところにお貸ししますよ』というような話を続けていた。そんな経緯もあり、今回の合意に至りました」。KDDIとしても、4Gのネットワークの効率性を高めつつ5Gに投資を集中できるメリットがある、としました。

  • 高橋社長

日本国内では人口も減ってきており、かつ値上げは難しいという環境のなか、政府からは5Gエリアについて「どんどん広げろ」と要望も出ており、「我々としてもローミング収入を得ることによって、4Gの設備投資の効率を上げられる。両社ウィンウィンの関係だと思います」(高橋社長)。

そして「いろいろとアレンジをして、今回、2026年3月で終わるはずだったローミング期間を2026年9月まで伸ばしました。その後も、両社の合意によって伸ばすことができる契約です」と説明。ギリギリのタイミングだったので、本日発表の決算には反映できなったものの、ローミング収入の減収部分がもう少し緩やかになる、としました。

楽天モバイルからは『ローミングの単価が高すぎるんじゃないか』といった不満も聞かれていたが、条件面の変更はあったのか、と聞かれると「他社との契約の話なので、そこはちょっとご容赦いただきたいんですけど、我々からするとドーンと減収するのは嫌だな、と思っていました。経営にも大きなインパクトがあるので、できるだけ減収の幅は減らしていきたい。楽天さんからすると、4G基地局に設備投資するよりもローミングの方が良いという判断だった。そのあたり、両社でいい塩梅にバランスを取ったということです」。

「1円スマホ」販売は見直しの可能性も

5Gの人口カバー率が目標としていた90%を超えたKDDI。他社では「パケ止まり」のような現象も起きていることから、KDDIの対策について聞かれた高橋社長は「5Gの人口カバー率は、第4四半期に90%を超えました。ネットワークの管理については、昨日、ソフトバンクの宮川潤一社長も決算会見でおっしゃってましたが、やはり4Gと5Gのマイグレーション(移行)が相当に難しいと感じています。当社でも、ものすごく警戒しながら対応しているところ。具体的にはビッグデータを駆使して、いち早く検知して対応しています。見つけたらすぐ直していく、この繰り返しです」。

  • 5Gのエリア構築について

他社とは環境が違うとして「たとえばNTTさんの場合は、Sub6からドンと入っていって、そのあとでNR化(4Gを5Gに転用する)でエリアを広げています。我々は700MHzとか1.7GHzなどを扱いながら、先にNR化した5GエリアにSub6で対応していく形を取っているので、若干の違いがある。ただ我々も、まだきれいに5Gネットワークを作れているわけではないので、このあたりは警戒しつつやっていきます」。

今期の事業環境について聞かれると「昨年は本当に苦しかったです。さまざまな“負”のポイントがありました。燃料高の問題があり、また通信障害も起こしてしまいました。環境変化に加えて、ローミング収入が減っていく。そして通信料金の値下げもあった。このあたりが大きくのしかかってきましたが、なんとかはね返した昨年でした。今期は、だいぶ事業環境も改善されてきたと思います」

「エネルギーの状況については、政府からの補助金も入ります。燃料高について、昨年より悪くなることはないと思いますし、エネルギー事業についても安定化を目指した仕組みを進めています。あとはマルチブランド通信ARPU収入を上期中に黒字に反転したい。楽天ローミング収入についても改善し、なんとか微増益を作るところまでいけたら。そんなシナリオを頭の中で描いています」。

  • マルチブランド通信ARPU収入を黒字反転へ

ローミング以外の分野で、どのくらい楽天との連携が進んでいるのか、といった質問には「au PAYの加盟店拡大のため、楽天ペイさんの加盟店のリソースを使わせてもらいました。楽天ペイが使えるところでは、ほぼau PAYも使えるようになっています。楽天さんには、本当によく対応していただいたと思って感謝しています。一方、eコマースの物流についても楽天の物流プラットフォームを使わせてくれるようにお願いをして、ここについても順調です」。

端末の出荷台数は(前年比で)だいぶ落ちている印象だが、一方で“1円スマホ”については規制の空気もあり、今後どのように5G端末を普及させていくのか、といった問いかけには「なかなか難しいご質問です。公正取引委員会などからも、色々と調査結果が出ています。ご指摘があれば厳正に受け止めて、決められたルールの中でしっかりやっていく。1円端末と言われるようなものについては、今年度、あまり大きく踏み込むことはしない方向でオペレーションをしています」。

ただ、端末の価格が上がってしまうと、買い替え、乗り換えの頻度(市場の流動性)は落ちてしまうのが現実。そこで「いま総務省の方でもガイドラインの見直し議論が始まっております。これは秋口ぐらいまで続くと思いますが、我々の方としてはもう少し流動性を高めていきたい」と高橋社長。いま利用者の端末の53.9%が5G対応端末であると明かしました。

MNP(ナンバーポータビリティ)のワンストップ化(乗り換え先の事業者と手続きするだけで完結する)がもうすぐだが、その影響は、と聞かれると「そうですね。ワンストップ化が5月下旬から始まるということで、うちでも準備しているところです。MNPの流動性が起きやすくなる仕組みなので、我々もこれをチャンスと捉えて、来ていただけるユーザーさんを増やすように努力していければ」。

このほか、副回線サービスについては「昨年は通信障害を起こしてしまい、非常に申し訳ありませんでした。そのとき有事の際の対策、リカバー策はいろいろと打っていかなければいけない、と痛感しました。総務省さんに、いち早く動いていただいております。ローミング以外の手法についても、どんどんやっていくべきだ、という議論もありました。副回線サービスについては、いち早く取り組めた。これ以外にも、災害時のWi-Fiの開放も含めて、さまざまな対策を整備していくのが重要かなと思っています」。

個人向けの副回線サービスについては、ソフトバンクの宮川さんにいち早く了解をいただけたので、両社間で提供をスタートしました、と高橋社長。「法人向けの副回線サービスについても、ソフトバンクさんのほか、ドコモさんからも了解を得たので、それぞれの間で副回線サービスを利用できます」としました。

ちなみに契約はWebでのみ受け付けており、「現状ではビックリするほど多くの加入者があるわけではありませんが、本当に必要な方には行き渡ったのかな、と思っています」。

5G SA(スタンドアローン)のエリア拡大について、どんなスケジュールで広げていくのか、またUQ mobile、povoでも展開はあるのか、という質問には「5G SAは4月13日からスタートしました。対応端末、エリアの問題などがありますので、まだ本格的に大きく訴求できていない状況ではあります。明確になり次第、お話できたら。5G SAについてはコア側の切り替えが大きな課題です。コア側を5G SAに対応していかないと、5Gの良さを活用できない。今後は、切り替えの課題をクリアしていくことが重要だと捉えています」。

利用用途については「今後、いろいろと広がっていくと思います。この間、東京マラソンにおいて、ある帯域をしっかりと確保した環境で生放送してみたんですが、非常に快適で、信頼性の高いネットワークで運用できました。こういう利用事例を1つ1つ積み重ねていき、5G SAの本格的な展開に結びつけていきたいと思っています」と話していました。