東北大学は4月24日、熱延伸技術で作製された多機能ファイバと、DNA分子プローブのアプタマーを組み合わせることで、多機能神経デバイスの未踏領域である脳の生体内電気化学センシング機能を実現したことを発表した。
また、やる気や幸福感と関連する神経伝達物質であるドーパミンなどの特定の化学物質を、脳内の複雑な環境において高感度かつ選択的に検出することに世界で初めて成功したことも併せて発表された。
同成果は、東北大 学際科学フロンティア研究所の郭媛元准教授、同・大学 工学部の雜﨑智沖学部生、同・久保稀央学部生、同・大学大学院 医学系研究科の虫明元教授、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)材料研究科のファビアン・ソラン准教授、同・大学 学際科学フロンティア研究所の阿部博弥助教らの国際共同研究チームによるもの。詳細は、米国化学学会が刊行する分析化学に関する全般を扱う学術誌「Analytical Chemistry」に掲載された。
ヒトの脳は、1000億個以上の神経細胞やグリア細胞が複雑なネットワークを形成しており、化学的にも極めて複雑な環境だ。これまで、そうした脳内化学物質のセンシング技術は、生体組織を蛍光分子で標識する必要があるために本来の活動を変化させてしまう可能性があったり、時空間分解能が低いために脳内で起こっている細胞レベルの活動を観察することが難しかったりと、課題を抱えていたという。そのため、非標識かつ高い時間・空間分解能で、微小な化学信号を正確に記録する方法の開発が望まれている。
そうした中で、電気化学的手法は、電極上において化学物質の酸化還元反応を利用し、生体内の細胞や組織を標識することなく、生体活動による化学物質の動態をモニタリングできる手法の1つだ。特に、微小電極を用いた電気化学センシングは侵襲性が少ないため、生体内において高時空間分解能を持つ化学物質センシングが可能だ。
しかし別の問題点として、脳内における化学物質には、標的物質のセンシングを妨害する化学物質が多数存在するという。妨害物質には主に、酸化還元反応の活性を持つものと、標的分子の化学構造と類似した構造を持つものとの2種類がある。脳内の特定の化学物質を定量化するためには、正しい化学物質を選択的に検出する必要がある。また包括的な脳機能の理解および脳病態の解明のためには、脳内の電気信号と化学信号を同時に計測・操作できる多機能神経デバイスの開発も重要な課題だという。
そこで研究チームは今回、光通信用の光ファイバを製作する技術である熱延伸技術を利用し、カーボンナノチューブ(CNT)複合材料を用いた柔らかい神経電極ファイバを開発したとする。さらに、脳内で特定の標的分子を特異的に検出するため、DNA核酸分子プローブのアプタマーを神経電極ファイバの表面に固定することで、脳内化学物質を測定できるアプタマーファイバセンサを開発したという。