コンドリュール様物質は、丸い外形を持ち、主にカンラン石と金属鉄から構成される。リュウグウ試料には、トリプルジャンクションという長時間の焼きなましによって作られる組織を示すものもあったとした。また一方で、隕石中のコンドリュールに見られるガラスが含まれていなかったという。これらの特徴は、先行研究で初生コンドリュールとして提案されている物質の特徴と極めて類似しているとした。
また、コンドリュール様物質の酸素同位体比については、分析の結果、太陽型と惑星型の2種類にはっきりと分かれたとのこと。太陽型の酸素同位体比を持つコンドリュール様物質は、太陽近傍で形成されたことが考えられるとする。
一方の惑星型の酸素同位体比を持つコンドリュール様物質は、現在の小惑星帯領域で形成したと考えられるとしている。コンドライト隕石中においては、惑星型が普遍的に存在する一方で、太陽型は希にしか存在しないという。このことは、太陽型の酸素同位体比を持つ物質と惑星型の酸素同位体比を持つ塵が混ざり合って作られた結果と考えられるとのことだ。
そして太陽型コンドリュール様物質は太陽近傍で形成された後に、惑星型の塵との混合を免れた初生コンドリュールの生き残りである可能性があるとした。
またCAIは、難揮発性鉱物(スピネル、ペロブスカイト、ヒボナイト)からなり、周囲をAlに富む層状珪酸塩(もとはAlに富む無水鉱物だったとされる)に囲まれている。リュウグウのCAIは、隕石中のものと同様に、太陽型の酸素同位体比であることがわかったことから、太陽近傍で形成された可能性があるとする。
隕石中のCAIは太陽系で最も古く、主要構成鉱物であるスピネルは中程度の揮発性元素であるクロム(Cr)に乏しいという特徴がある。一方、彗星のCAIは比較的若く(数百万年以上)、スピネルは高いCr濃度を示す。彗星CAIは、再加熱によって年代がリセットされるとともに、周囲のガスもしくは塵からCrを取り込んだとされ、リュウグウCAIのスピネルはCrに乏しいことから、隕石CAI同様に古い可能性が示唆されるとした。
今回の研究では、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質、CAI、鉱物片は直径30μm以下と小さいこと、リュウグウ試料上での捜索範囲(52.6mm2)に対するコンドリュール様物質とCAIの面積割合がそれぞれ20ppm以下と、隕石での存在度(1%以上)に比べて非常に小さいことなども明らかにされた。
先行研究から、コンドリュールは形成領域からほとんど移動しないこと、水-岩石反応を経験した隕石にもコンドリュールが含まれることがわかっている。研究チームは、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質の極端に低い存在度が、コンドリュール(様物質)がリュウグウ母天体集積領域にほとんど存在しなかったことを示唆しているとする。つまり、コンドリュール様物質、CAI、鉱物片は、原始太陽系星雲内側領域から輸送されたといえるという。
またこれまでの研究から、彗星のCAIやコンドリュールも小さいことがわかっている。原始太陽系星雲内側領域から選択的に小さい物質だけが輸送されたとすると、リュウグウ試料中のコンドリュール様物質、CAI、鉱物片が小さいことは、リュウグウ母天体が太陽から遠く離れた場所で集積したことが示唆される。研究チームはこのことについて、ほかのリュウグウ試料分析結果から得られている知見と整合的だとした。