東北大学は1月31日、2011年からスタートした国際共同実験プロジェクト「カムランド禅(KamLAND-Zen)」による「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索」の最新結果として、「マヨラナニュートリノ」が存在することで見える信号の崩壊半減期を90%の信頼度で2.3×1026年以上と、これまでより2倍以上の精度で予測し、その結果から同ニュートリノの質量が、36~156meVよりも小さいことが明らかになったと発表した。

同成果は、東北大 ニュートリノ科学研究センターの井上邦雄教授らを中心とする国際共同実験プロジェクト「KamLAND-Zen」によるもの。詳細は、米国物理学会が刊行する機関学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

正確な値は計測できていないが、ニュートリノには極めてわずかだが質量があることがわかっている。そのため、ニュートリノが反ニュートリノと区別がつかない「マヨラナ粒子」であるという可能性が検討されている。

マヨラナニュートリノとは、我々の宇宙では反物質が圧倒的に少ない物質優勢の宇宙であることの謎を解くための鍵だという。宇宙の誕生時に、粒子と反粒子は同じ数だけ生成されたと考えられているが、誕生からわずか1秒が経つまでのどこかの時点で、粒子と反粒子の数の均衡が破られる一大イベントが発生し、現在の圧倒的に物質が優勢の宇宙となった。その均衡を破った存在が、粒子・反粒子の区別がないマヨラナニュートリノだと考えられているのである。

ニュートリノがマヨラナ粒子かどうか唯一検証できる方法が、カムランド禅実験でも採用されている「ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊探索」だという。二重ベータ崩壊は、1つの原子核中で2つのベータ崩壊が同時に起こる現象のことで、通常は同現象が起こると、2つの電子と2つの反ニュートリノが放出される。しかし、もしニュートリノがマヨラナ粒子なのであれば、ごく希に2つの電子のみが放出される崩壊モードも起きるという。その信号を検出できれば、ニュートリノがマヨラナ粒子だと証明することができるが、その信号は極めて希である。

  • 通常の二重ベータ崩壊

    (左)通常の二重ベータ崩壊。(右)ニュートリノを伴わない崩壊モード。同モードでは、全エネルギーのところにピークが現れる(キセノン原子核の場合2.46MeV)。半減期が短くマヨラナニュートリノ質量が大きいと、観測数が多くなる。実験では有意な信号は確認されておらず、実験結果から半減期とマヨラナニュートリノ質量に対して制限が与えられている (出所:東北大プレスリリースPDF)

そのため、反ニュートリノ検出器カムランドでは、ノイズ源の放射性物質を1/10以下にまで減らすなど、ノイズ除去のためのさまざまな工夫が施されている。さらに現在では、新しい解析ソフトウェアや、二重ベータ崩壊とノイズを識別するための機械学習による手法なども導入済みだとする。

そして今回、2019年から2021年の夏頃までの約2年(合計約1トン・年)分のデータが解析された。