その結果、ニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊の崩壊数は、最高感度のデータ中に8事象未満であることが判明(崩壊が発見されたというわけではない)。この数字から崩壊までの寿命(半減期)を導き出すことができ、マヨラナニュートリノが存在することで見える信号の半減期は、90%の信頼度で2.3×1026年以上という制限が得られたとする。

  • カムランド禅検出器の概念図

    (左)カムランド禅検出器の概念図。内側の球形のタンク内に、1キロトンの液体シンチレータの入った直径13mのバルーンが吊り下げられている。さらにその中心部にある小さなバルーン(実際は透明)は、2016~2019年にわたって新しくアップグレードされた直径3.8mのキセノン入り液体シンチレータを保持するミニバルーン。(右)大型化アップグレード後のカムランド禅検出器。白い点線部分がキセノン入り液体シンチレータを保持する直径3.8mのミニバルーンの表面。キセノン液体シンチレータが実際に導入されていることにより、白い点線部分で屈折率の違いから菱形のフレームが歪んで見えている (出所:東北大プレスリリースPDF)

またその半減期の制限から、マヨラナニュートリノの質量が、36~156meVよりも小さい値しか許されないことが示されたという。ニュートリノには電子型、ミュー型、タウ型の3世代があり、どれも質量は不明だが、それぞれ値は異なるとされる。さらに、3つの質量の順番も、標準階層なのか逆階層なのかわかっていない。マヨラナニュートリノの質量は、これらニュートリノの質量の大きさや順番によって変わってくるため、非常に重要だとされている。

  • 今回得られたニュートリノ有効質量に対する制限

    今回得られたニュートリノ有効質量に対する制限。緑とピンクのバンドのどこかに答えがあるとされる。色付きの横実線や点線は、今回得られたマヨラナニュートリノ質量の上限値(その値より大きいところに答えがなかったことを示す)。色や線の違いは、二重ベータ崩壊の理論モデルの違いに対応。今回は、「EDF理論」に対して、世界初となる逆階層領域での検証が行われた (東北大レスリリースPDF)

そしてマヨラナニュートリノの質量が15~50meVの範囲の場合は、世界中の実験が完全探索を目標としている逆階層領域となる。この領域は、仮にノイズ事象のまったくない検出器であれば、1~数トン程度の二重ベータ崩壊原子核を用いることで到達可能なレベルだという。

2015年までのカムランドは、二重ベータ崩壊核の同位体「キセノン136」を約380kg使用していたが、現在はほぼ倍増されて約750kgとなっている。1トンに近くなったことから、世界で初めて逆階層領域での探索を行えるようになったのである。なお、この領域に関しては少なくとも3つの理論予測値があるなど、理論モデルの検証も行えるとした。

カムランド禅では今後、探索と並行して、さらにノイズを減らすための高分解能化やさらなる大型化を実現するため、さまざまな実証実験や革新的な技術開発を進めていくとしているほか、次期計画の「カムランド2禅(KamLAND2-Zen)」が実現すれば、世界の競合実験より先に逆階層を探索し尽くすことも可能になるという。マヨラナニュートリノの発見を、より確実的なものにすることが期待できるとしている。