具体的には、キラルな有機超伝導体「κ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2」に電極をつけ、交流電流を流す実験を行うことにしたという。その時に、上下の電極を磁石にしておいて、磁石のN極・S極と、超伝導体から出てくるスピンの上下の関係を電圧としてモニタリングできるように設計された。ここで交流電流を流すのは、分子が溶液中で自由に運動することによって、中の電子が揺さぶられる状態を再現するためだという。
そして低温にしてκ-(BEDT-TTF)2Cu(NCS)2を超伝導状態にしたところ、確かにキラル超伝導体結晶の上下に“2つの互いにそっぽを向いたスピン”が確認されたほか、結晶のキラリティを反転させると、スピン対の“内向き・外向き”も逆になることが判明。キラル超伝導体のスピンを外から磁石で観察すると結晶のキラリティを判定できる、という仮説を証明することに成功したという。
研究チームによると、分子や結晶のキラリティでは絶対に起きないことだが、時間の向きを反転させることによっても、スピンが反転することも今回の発見の1つだとしている。時間反転で変わらないことを、物理学では「時間反転について偶」というが、今回は反転することから研究チームは「奇の時間反転を持ったキラリティ」と命名し、時間反転について偶ではないことを強調している。
研究チームでは今後、このような現象を、数式を使って理論化していくことによって、キラル分子の光学分割効率を向上させる指針が立ち、キラル分子による創薬や機能性分子開発の研究が加速することが期待されるとする。
また、今回の実験で使われた技術は、将来の「超伝導スピントロニクス」においても利用できる可能性もあるという。今回の実験でキラル超伝導体を用いることで、超伝導状態にスピンが簡単に誘起できることが確認されたことから、スピンを使った新しいタイプの量子コンピュータの開発につながることも期待されるとしている。