プラネタリウム投影機の設計・開発を手がける大平技研は、世界最多となる約12億個の恒星を投影できる新型「MEGASTAR-IIA」を、12月1日にリニューアルオープンする「はまぎん こども宇宙科学館」(神奈川・横浜)に納入する。ソニーのBD技術を応用した超精密恒星原板「GIGAMASK」などを搭載しているのが特徴だ。

  • 新型光学式プラネタリウム投影機「MEGASTAR-IIA」

微細な星の投影に優れた新型MEGASTAR-IIAと、アストロアーツ製の全天周デジタル映像システムであるデジタルプラネタリウム「ステラドーム・プロ」を組み合わせた、ハイブリッド構成のシステムを同館に設置。両者の利点を生かし、「光学式によるこれまでにないシャープでリアルな星空と、デジタルプラネタリウムがスムーズに融合した多彩な星空表現を実現する」という。

  • ソニーのBD(ブルーレイディスク)技術を応用した超精密恒星原板「GIGAMASK」

はまぎん こども宇宙科学館の所在地は神奈川県横浜市磯子区洋光台5-2-1で、JR京浜東北・根岸線「洋光台」駅から徒歩3分の場所にある。開館時間は9時30分~17時(最終入館16時)。入館料は大人400円、小・中学生200円。プラネタリウム入場料として大人600円、小・中学生と4才以上は300円が別途かかる。同館の館長は、JAXA名誉教授の的川泰宣氏。

なお同館ではリニューアルに先立ち、「プラネタリウム投影機により投影された星の最多数(ワンオフ) / Most stars projected by a planetarium projector (one off)」というギネス世界記録に挑戦する内覧会を、報道関係者向けに11月30日開催する。

  • はまぎん こども宇宙科学館の外観

メガスターは、プラネタリウム開発者で大平技研の代表取締役も務める大平貴之氏が開発した、プラネタリウム投影機シリーズの名称。「天の川の微細な星の一粒一粒までも(恒星原板上の)ミクロン単位の点の集合体として表現し、星空の奥行まで感じられるリアルな星空」を特徴としている。

MEGASTAR-IIAは、直径10~25mの中大型ドーム向け機種。直径20mを超える大型ドーム対応の業務用光学式プラネタリウム投影機としては、世界で初めて超高輝度LEDを光源に採用。ランプ交換を数年にわたり不要としたほか、消費電力も少なく、ランニングコストの低減を強化。既に国内だけでなく、海外のプラネタリウム施設への納入実績もある

新型「MEGASTAR-IIA」の大きな特徴のひとつが、約12億個の恒星の投影を可能にする、新たな超精密恒星原板「GIGAMASK」(ギガマスク)への刷新だ。これは2015年に、ソニーDADCジャパン(現・ソニー・ミュージックソリューションズ、以下SMS)と大平技研が共同開発を発表したもの。原板自体は2015年末に東京・銀座の旧ソニービルで展示されたことがあるが、GIGAMASK搭載の光学式プラネタリウムが国内で設置されるのはこれが初となる。

  • GIGAMASKによる投影イメージ

今回搭載するGIGAMASKは、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「Gaia」による最新の観測データ「Gaia DR3」を用いており、全天に映し出される星の数は世界最多となるおよそ12億個に達する。

  • GIGAMASKを含む、投影恒星数の自社比較

大平技研が保有するプラネタリウム技術と恒星データ処理技術、そしてSMSが保有する超精密パターニング技術を合わせて開発。SMSは、ブルーレイディスクに代表される大容量高密度光ディスクマスタリング技術を駆使して、世界最小となる直径180nm(180ナノメーター=10万分の18mm)の極微穴の加工に成功。これにより、1等星から20等星までの微光星約12億個を正確に再現できるようになったとする。

光学的仕様は従来機とも互換性が保たれており、MEGASTAR-IIA以上の機種を保有する導入館が、恒星原板をGIGAMASKへアップグレードすることも可能としている。

  • GIGAMASKと従来機(MEGASTAR-II)による投影イメージの比較

新型MEGASTAR-IIAでは、これまでの3軸式可動部に、独自技術による“揺りかご式”の4軸目を追加し、スムーズに星を動かせる新技術を盛り込んだ世界初の「SWING AXIS / Ohira Tech - Gimbal Lock Free Technology」(特許出願中)を搭載しているのも特徴だ。

  • SWING AXIS / Ohira Tech - Gimbal Lock Free Technologyの動作イメージ

従来の3軸式の光学式プラネタリウムでは、ジンバルロックと呼ばれる現象により、ある特定の操作をすると動きが不自然になり、スムーズに星を動かせない現象が生じてしまうことがあった。これを回避するために、大平技研ではSWING AXISを新開発して新MEGASTAR-IIAに搭載。特異点を通過するときに生じる不自然な動きを回避できるようになった。

さらに、地上から宇宙に飛び出すようなシーンでも、デジタルプラネタリウムから投影される背景イメージに光学式の星が高速でスムーズに追従することを可能にし、表現の幅を拡げている。

光学式とデジタル式を統合したハイブリッド形式の投影システムでは、従来は宇宙空間に飛び出すと光学式の星からデジタル映像による星に切り替えなければならなかった。SWING AXIS搭載機であれば、よりシャープでリアルな光学式の星をさらに多くのシーンで活用可能になる。

ほかにも、光学式の太陽・月投影機に加えて、大平技研が新開発したドームエッジ設置型のXY方式惑星投影機を国内で初めて設置。光学式の惑星投影機はこれまでドーム中央に設置されていたが、独自開発のドームエッジ式になったことで、客席スペースを圧迫せず、ドーム内のスペースをさらに有効活用できるようになったとしている。

  • ドームエッジ設置型のXY方式惑星投影機